[Fotokina]


















写真立てをもらった。

縁の厚い、綺麗なものだ。
どうして奴が此れをくれたのかは解らない。
勿論訊ねたが、笑うばかりで答えは返ってこなかった。

飾ってくれたらうれしいんだよ、と言うばかりで。

どうするべきか。

写真を飾るべきなのだろう。

物品は本来の目的でもって使用してこそ価値のある物となるのだから。

が、ここで一つの問題が生まれる。

一体、何の写真を飾るべきなのか?

そもそも、自分は写真というものにあまり興味が無い。
それは自分の血族全てに言えることでもある。
遺伝なのだろうか?
人間の気質はある程度まで遺伝すると証明されている事だし、 不思議な事ではないな。
しかし性格を決定付けるものが何であるかは未だもって
解決していない問題だ。
アミノ酸のもたらす種族に刻み込まれた星霜の記憶か。
環境により与えられる外的刺激か。
仮に後天的性格として付与されたものだとしても
己が写真に興味を持たないという環境は整っているな。
ふむ、まだこの問題については考察の余地がある。

‥‥こんなことを考えている場合ではなかったな。
論旨がずれてしまった。悪い癖だ。
まぁ癖というものも遺伝するらしいから‥‥

いかん、またずれてしまうところだった。

今考えるべき事は写真についてだ。

写真、写真か‥‥。
自分の写真は、持っていない。
それ以前に、自分の写真を飾ることにより生じる利点があるだろうか。
考える限り、ない。
自分の顔を見たければ鏡を見ればよいだけの話だ。

ならば自分以外の写真という事になるな。
となると、風景か生物か‥‥‥‥
風景に関しては、世には画集というものが存在する。
素人の撮影したものなどよりよほど優れた写真が鑑賞できる。
よって風景は却下。
では、生物か。

そもそも常時目につく場所に保管するのであるから、
出来る限り自分の気に触らないものが良い、と思われる。

家族の写真。そういえば、此れを飾っている人間は多いと聞く。
家族写真か‥‥探せばあるだろうが‥‥。
しかし、いつも会う顔をわざわざ写真として残し留め、
鑑賞する必要があるだろうか。
いつも会えない人物がいいのではないか。
いつも会えない人物‥‥‥‥。

あのはとこの写真はどうだろう。

家族に近いものがあるが、滅多に会えない人物だ。
条件には一致する。
‥‥いや、彼の写真は駄目だな。
彼は写真を厭う。
彼が、というよりは彼の周囲がという方が正確だが。
身分柄仕方の無い事であろう。

では、学校の人間はどうだ?

風祭や水野達、チームメイトはどうだろう。
‥‥‥‥‥‥毎日あっているじゃないか。

では‥‥‥‥‥‥















‥‥‥‥参った。
写真を飾るとはかくも難しいことだったのか。
















「困った‥‥」

「何が困ったってェ?不破センセ。」

「ときに佐藤。写真立てに飾る写真とは、どのようなものが良い?」

「あぁ?写真〜??」

「そうだ。」

「お前が飾るんか?」

「そうだ。」

「‥‥‥まぁ、そうやなぁ定番としては家族とか恋人とか‥‥。
別にフレームだけ立てといてもええ思うけど‥‥。」

「そうなのか。‥‥‥‥どうかしたか?」

「いや‥‥お前さんでも、写真を飾ろうとか思うんやなぁ、と思うてな。」

「飾ってくれと言われたのだ。」

「誰に?」

「渋沢にだ。」

「旦那がぁ?」

「写真立てをくれてな。飾ってくれと言われたのだが、
どういったものを飾ればよいのか皆目検討がつかん。
‥‥‥‥‥‥??
何を笑っている、佐藤?」

「‥‥‥‥‥‥い、いや‥‥。報われんなぁ思うてな‥‥。」

「‥‥‥‥‥‥??」

「そーや、不破!!写真立て、貰うたんやろ?」

「そうだ。だから中に飾る写真を‥‥」

「じゃぁその写真立て贈ってくれた人の写真がエェんやないか?」

「渋沢か?」

「そやそや!!贈ってもらったはいいが、入れる写真を迷うとんやろ?
したら贈ってくれた人の写真入れるいうんもテやな。」

「そうなのか?」

「そぉ!!ほら、誰から貰うたプレゼントか、一目瞭然やろ?」

「しかし贈り主が解るからといって何か利点が‥‥」

「渋沢の旦那は喜んでくれる思うでェ?」

「‥‥‥‥‥そうだろうか?」

「絶ッッ対!喜ぶって!!な、そーしとき。
損はさせんでェ?」

「しかし、渋沢の写真なぞ持っていない。」

「‥‥‥‥よぉ一緒に出かけとるやないか、写真とか一緒に撮ったことないんか?」

「無いな。」

「‥‥‥‥‥‥。よっしゃ、じゃぁこのシゲさんが知恵貸しついでに大サービス。
コレ、お前にやるわ。」

「‥‥‥‥使い捨てカメラ?何故こんなもの持っているのだ?」

「細かい事は訊かんとき!いいからソレやるわ、旦那の写真、撮ってこい。」

「‥‥‥‥今からか?部活があるだろう。」

「善は急げっちゅー言葉があるやろ!!ほらほら、
タツボンには適当に言っといてやるさかいに。行き。」

「‥‥‥‥そうか。ありがとうだ、佐藤。」

「がんばってきぃや〜。」















佐藤は普段おちゃらけているが、信用に足る人物だ。
きっと本当の事なのだろう。

渋沢の写真か。

思っても見なかった。

確かに奴の写真を飾るというのは、条件に合っている気がする。

滅多に会えない人物で。
けれど、目につく場所に置いていても、気に障らない人物。

滅多に会えない、か。

そういえば、渋沢と会う回数はとても少ない。
お互い学生という身分で、学区は近いとはいえ通学校がちがうのだから仕方のないことだ。

たとえ、会いたいと思ったとしても。

しかし、何故だろう。

あまり会っていないにも関わらず、会う度に久しぶりにあったなとか、元気だったかとか、そういう会話を交わした覚えがない。
渋沢はよく家に電話をかけてくる。
そのせいか?

‥‥‥‥なにか、違うな。

ああ、そうか。

なにくれとなく、奴のことを考えているせいだ。

不思議なものだ。
なんでもない瞬間に、俺は渋沢の事を考えている。
メシを食うとき。
読書をしているとき。
サッカーをしているとき。

渋沢の顔が、頭をよぎる。

何故だろう?解らない。
自分のことが理解不能とは、不思議な事だ。

最近は解らないことが多い。

まったく、この世は不思議に満ちている。
だからこそ面白いのだが。

渋沢の事を思う。
微笑んでいる顔とか、ちょっと困ったような表情がすっと浮かんでくる。

胸が痛い。

何故だろう。

‥‥‥‥まったく、解らない事だらけだ。

いい機会だ、今日渋沢の写真を撮らせてもらうついでに、聞いてみると言うのはどうだろう。

奴はいつも俺の欲しい答えをくれる。

きっと渋沢ならば知っているだろう。

胸が痛いわけも。
俺が渋沢に会いたいと思う、その理由も。




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