夏料理 2















「どうぞ。」
「あ、どうも。」

何でもないことのように渡された硝子の器を何でもないことのように受け取って、それから指先から伝わる冷たさに瞬きをしてそれを見た。
硝子の器には銀の匙と、淡い色の冷菓。

「りんごのシャーベットだよ。」
「作ったんですか?」

まぁね、と言ってからその人は照れたように笑った。
その笑みを少しの間眺めてから、俺はもう一度、硝子の器へと目を戻した。
淡い黄味色をしたシャーベットは、まぁるく盛り付けられて器の真ん中に納まっている。
添えられた銀器はデザート専用の、ちっちゃくて平たいスプーン(‥‥なんでこの人こんなモン持ってんだろう)
そして、指先から伝わる、痺れるような冷気。

「器が冷たい。」
「ああ、器も冷やしていたんだ。」
「ふぅん‥‥。」

視線を器に固定したままの俺の生返事に、その人は笑ったようだった。
其処で漸く俺は、その人の方を向いた。
やっぱり笑っていた。

「器を冷やしておいたほうが中身が溶けにくいだろう。」
「はぁ。」
「美味しく食べるための細工の一つだよ。」
「そうですか。」

食べていいよ、との言葉に、遠慮なく俺は匙を入れる。
冷やされた器のおかげで、端まで溶けることなく型良く盛られたシャーベットは、とても美味しかった。

「美味しい。」
「それは良かった。」

そう言って、向けられた笑顔はとてもあたたかくて、指先を痺れさせている冷たい器とは正反対だ、と思う。




‥‥ああ、違うな、反対じゃない。




「渋沢さん。」
「なんだ?」

手作りのりんごシャーベット、
デザート専用のスプーン、
冷やされた器。

笑顔。




「俺の為ですか。」




まぁね、と言ってからその人は、やっぱり照れたように笑った。
指先を痺れさせる冷気と同じくらい、俺の心を痺れさせる、あたたかいその笑顔が、とても好きだなぁと。改めて、思った。




end.(07.20/2002)

「美味しいものを食べる為の努力は、俺は怠らないよ?」
「そうですか。」
かわした口づけはリンゴ味。
温かい笑顔のその人に、
美味しく食べられてあげることにする。


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