星に願いを、
月に祈りを。
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「あッ!」
隣りを歩いていた一馬のふいの声に驚いて、一瞬足を止めた。
「どうかした?一馬。」
「今、今の!見たか英士?!」
問いかけに返ってきたのは応えではなく。まぁいつもの事だし気にしない。
それに、代わりに返ってきた笑顔は単純な応えよりよっぽど、自分を満たしてくれるものだったから。
だから、少しだけ笑った。
「あーッ、でも願い事出来なかったよ!失敗したッ!」
「‥‥ああ、流れ星?」
「何だっけ、3回唱えるんだっけ?」
「口に出して一回、というのも聞いたことあるよ。」
失敗したなァと真面目に悔しがってる姿に、もう一度音を立てない笑いをうかべた。
透明な蒼の宵闇が目隠ししてくれて、一馬には見えないはずだし。
「‥‥英士、今笑っただろ。」
「え?何で解るの?」
「何年一緒に居ると思ってんだ、気配でわかるっての、それくらい。」
さらっとそんなことを言って、どうせ俺は子供だよッなんて言って。
その仕草に、今度は声をたてて笑った。
笑うなッ!って言いながらも、一馬の視線はほんの少しの朱鷺色を残した空に。
うっすらと光を残した秋の空は、マンションの影や電線に縦横無尽にカッティングされてて、なんだか痛々しかった。
本当はそんなの目の錯覚だし、単なる感傷にすぎないことは解ってるけれど、それでも痛々しくて、見ていたくはなくて目を逸らした。
目を逸らした先の、一馬は。
じっと、空を見上げてた。
「そんなに見たい?」
「え?」
「流れ星。」
問いかけに、すっと表情を消し俯き加減になる。
視線を横に流して、少し伏せ目がちにぼそぼそと、そっけない言葉で別に、と応えるのは、照れてる彼のいつもの仕草。
解るよそれくらい、何年一緒に居ると思ってるの?
思ったけど、口には出さない。
「流星群かなんか、きてるのかな。」
「‥‥さぁ、よく知らない、」
「もう少し見上げてたら、見えるんじゃない?探そうよ、せっかくだし」
「‥‥そうかな。」
代わりの科白で、一馬が顔を再び空へと向けた。
俺は空を見上げることなく、一馬の顔を、見ていた。
「願い事。一馬、何するの?」
「えー?そだな、サッカーずっと出来ますようにとか‥‥。」
「月並みだなぁ‥‥。他には?」
「今度の対抗戦で勝てますようにとか‥‥。」
「当たり前でしょ、俺らがいるんだよ?勝てるに決まってる。」
「‥‥‥‥。今日考えたフォーメーション上手くいきますように、」
「明日休日返上で練習すれば完成すると思う。」
「‥‥いちいちウルサイなッ英士は!じゃぁ‥‥」
「ずっと、3人一緒に居られますように。」
にこりと柔らかな一馬の笑みの横。
夜空を落ちる光の筋が、俺の目の端を、掠めた。
「‥‥‥‥一馬、もう遅いよ、そろそろ帰ろう?」
「‥‥げ、もうこんな時間だったのか?やべ、母さんに怒られる。」
「呑気に星なんか見てるからだよ。」
「探したら見れるっつたの英士じゃんか!」
「見れるかも、でしょ。それに俺が別に見たかったわけじゃないし。」
「‥‥。結局、流れ星、見れず終いか。」
「そうだね。‥‥さ、帰ろ。」
ねぇ一馬。
流れ星に願いを託すなんて、止めときなよ。
だってそれは叶わない。
『ずっと、3人一緒に居られますように。』
叶わないんだ、一馬。
何年一緒に居ても、解らない事はたくさんある。
お前が夜空を落ちていった星に気がつかなかったように。
俺の伸ばした手に、気がつかなかった瞬間から。
結人の手をとって、微笑んだ瞬間から。
星に願いを、月に祈りを。
願いが叶わない事は、この胸の痛みが、知ってる。