「結人、駄目だ!」



まるで救い手のような叫び声を、侵されていく思考の片隅で捉えた。
けれど伸ばされた指先はまるで網目をすり抜け落ちる砂のように零れ、消えていく。
代わりに身体を満たしていくのは、ねっとりと粘ついたドス黒い思念。それは妄執、怨念、‥‥そして、圧倒的な悲嘆。
事実、そうなのだろう。他者の思考回路を侵し麻痺させていく醜悪な思念に混じる、純粋な悲哀、諦念。それは紛れも無く、今まさに対峙する、倒すべき『英雄』の思いなのだ。

対峙しているのは、全てを守る為に戦い、そしての全てに裏切られ捨てられた‥‥美しく悲しい英雄たちの、末路。

金龍の守る結界で聞かされた悲しみの物語を、自分は生涯忘れることは出来ない。この時代に生きるものとして、それは忘れてはならない。なにより、物語の決着をつけるべく、この世界の贄となった大切な存在があるかぎり、それは一生、忘れてはならない悲しみだ。
しかし‥‥

「結人‥‥!」

意識の紗幕の向こう側から聞こえるような叫びに、けれど身体は動かない。
手は己の手であり、脚は己の脚である。それは確かなことなのに、電源を元から切られたかのように繋がらない精神と肉体の断絶は一秒ごとに深くなっていく。目の前の怨讐に誘引され、堕ちていく。

目の前に佇むのは狂える英雄、この世界でもっとも美しい女。

同胞に裏切られ次元の狭間という虚無の世界を漂い、今、数千年の時を隔て復讐に舞い戻っていた彼女は、地上に住まう全ての存在、死者さえも魅了する。
豊かな青銀の髪を命を狩る漆黒の颶風に遊ばせながらなお美しく、溢れる如き魔力は死そのもの。
嫣然と微笑むだけで多くの魔物を魅了し従える姿はさながら枯野の死者の女王のように。

‥‥従え、と彼女は微笑んだ。

全てを裏切り、我に従え、と。

(‥‥‥‥一馬)

強烈な呪縛と魅了の瞳『テンプテーション』。
かの英雄は、嘗てその魅了眼で数多くの魔物を屠ったのだ。

のろり、と己が腕が上げられる。
結人はもともと、心性防壁が高くない。専門の修練を積んだ兵や騎士に較べるとまるで話もならないレベルだ。それでも鍛冶師として、ましてや武具を鋳つ職人として一定レベルの耐性は備えていた筈だ。市井の人間を含む現パーティにあっては、数値のみならば現皇帝と剣聖将軍に次ぐ耐性があったはずだというのに。

(かずま、)

声はもう出ない。声帯の自由は既に奪われ、それはただ意味を成さぬ唸り声を上げるのみの器官と成り果てた。
のろのろとした動作で上げられた手には、剣。‥‥切っ先は、皇帝へ。
小ぶりの其れは、そう優れた剣ではない。自らが鍛錬したものではあるが、それは武器を持ち振るう存在ではない自分が使いやすいようにと鍛えた刀剣であって、世に名立たる名剣、たとえば、今現在の皇帝が携えているような伝説の名剣ではない。いつの日にか、苛酷な命運を受け入れた親友の為に剣を鍛えると決めてはいるが、これは違う。けれど。

けれど、これは決して、

皇帝を、‥‥一馬を斬るために、鍛えたわけじゃない‥‥!!

「結人、」

まっすぐな瞳は濁った視界に差し込む光。深遠までは、届かない。
天を突いた切っ先が、あたかも大気を斬り、振り下ろされた。









「「結人のバカーーーーーーー!!!!!!!!!」」









‥‥大気を斬るように振り下ろされた刃は、本当に大気のみを斬って終わった。ユニゾンの大喝が僅かに剣先を震わせたが、そんなことより。
結人の鼻先どころかコンマ一秒でも回避が遅れていたら即死級のまるで生首頂戴的な電光石火の剣閃が、両横から閃いた。
対峙する皇帝であり親友でもある一馬からではなく。

「‥‥ッだぁあ、あ?!」

この上も無く純粋な殺気に粘ついていた思考が一気にクリアになる。
まるで漂白剤入りの水をぶっかけられたかの如きクリアライズは、同時に生命の危機から逃れた冷や汗をどっと噴き出させた。

「‥‥チッ」
「ちょ、ちょっと待てよ、何してんだよお前らァ!!」

怨念の魅了呪縛を純然たる殺気で解放されるという、何だかなーと微妙な気分になりそうな方法で自由を取り戻した声帯を震わせて結人は叫んだ。

敵である英雄にではない。

両隣から大喝と共に得物を一閃させた英士と潤慶にである。

「ん?あれ、魅了解けたんだユウト。わぁ、よかったねー」
「ヨカッタネー。」

そう笑いながら指間に仕込んだ針をひらひらと振るのは、丁寧な織りの外套を纏った潤慶で。
もの凄まじい棒読みと共にタンブラーロッドをくるりと回したのが、英士。
因みにユンの針にはゴルゴンも一撃で倒れる毒が仕込んであり、英士が軽々と振ったロッドは元は魔術師用ながらかなりの重量がある短杖である。
結人の全身からどっと汗が噴き出した。

「ちょ、お前ら」
「一発くらいガツンとやんないと目を覚まさないかと思ったんだけどなぁ。‥‥ッチ」
「今舌打ちしただろ、ユン舌打ちしただろー!っつかユンの針だとガツンどころかチクリで即昇天だし!!」
「じゃあ俺のロッドのが良かった?これならちょーっと痛いだけだし」
「いやいやいやいや、いや!ちょっとって感じじゃなかったぞ英士?!」
「ちょっとだよ。ちょっと臨死体験するくらい」
「ちょっとの基準おかしいっつのこのキムチ!ていうかお前、なんで商人がそんなロッド?!」
「結人、俺のことなめてるの?反物って重いんだよ、正絹なんて結人の鍛えたへなちょこ武器どころの重量じゃないよ。ウチ、忙しいしね。自慢だけど帝都一の呉服屋だし。自慢だけど」
「謙遜しろよちょっとは!」

長い付き合いにほぼ反射で入る結人のツッコミは、軽やかな潤慶の笑い声に紛れて消える。

「あははヨンサかっこいー。あ、そういえばヨンサ、頼まれてたカンバーランド旧王家の意匠の話だけど、話ついたから。っていうかインペリアルガードに王家の血筋の人間が入隊してるって聞いたけど?」
「え、そうなの。誰」
「ええとねー、天城家の長男だか次男だか‥‥。話したいなら、僕じゃなくて剣聖将軍に頼んだらいいんじゃないの。せっかく同行してるんだし」
「そうか、近衛総司令の直轄だったね。うん、そうする。‥‥いいツテが出来そうだね」
「だよねー、僕も帝国の仕事もうちょっと増やそうかな。カンバーランドもいいトコだけどさ」
「‥‥ッテメェらもうちょっと周りの状況見た会話しろー!!」
「「大事な可愛い一馬に剣向けた人間に言われたくない。」」

大氷原の永久凍土よりはるかに冷たいだろうユニゾンに、結人が凍りつ‥‥きかけて、凍り付いている場合ではないととりあえず剣を後ろに振るった。
剣の腹に打たれ、ギャッと軋みに似た悲鳴を上げてボタリと落ちたのは、英雄を取り巻く魔物の一匹だ。
因みに呑気に会話していた筈の、よく似た面差しの従兄弟たちには魔物は近寄っていない。‥‥ヤツらにも何か分かるんかなーコイツらのヤバさが。

「何失礼なこと考えてるのかな結人」
「ッ!思考を読むなァ!」




「‥‥失礼は貴方たちでしょう。私の前で何を雑談してるのかしら?」




女の声に、3人同時に振り向く。
滴るような色香を湛えた声音は、聞いているだけで陶然とした気分を齎すような甘さ。
最強の凶眼、魅了眼を持つ『七英雄』が一人。
だがしかし、結人の目には最早それが一匹の魔物としか映らなくなっていた。彼女の凶眼が衰えたわけではない。‥‥其れより怖い存在が両隣にいれば自然そうなるというものだ。

「‥‥って、あれ?何でお前ら、テンプテーションにかかんなかったの?」
「これだから結人は。大体ね、この女が凶眼持ちっていうのは事前に教わってたでしょ。皆防御策取ってるよ」
「え、マジ?一馬達は分かるけど、お前らなんか持ってんの?」

この場合の対策というのは、多くの場合精神攻撃系に耐性のある武具や装身具を意味する。
例えば皇帝である一馬は、帝国秘蔵の指輪を身に着けている。

血統に依らない帝位継承は、大賢帝が古代人より授けられた『継承法』と呼ばれる秘術に基づいて選定される。そして選定の基準は、ない。それは天命にも似た直感で世界の中のただ一人に与えられる。
そうして数年前、天涯孤独の身であった剣士を‥‥真田一馬を。"其れ"は選んだのだ。
帝位の継承が宮廷においてどのように確認されるのかは結人を含め世界の大多数は知らない。其れを知るのは、皇帝不在の宮廷を預かる数人の人間のみ。
しかし、この指輪もある意味正統な帝位継承者を選別する呪具なのだろう、と結人は思っている。
強力な精神加護と魔力強化の其れは、初めて一馬に見せられたとき甚大な魔力を秘めた姿に、ただ圧倒されたものだ。恐らく‥‥否、あれは決して皇帝以外は身に着けられない。
精神の加護というが、それは裏を返せば持ち主を持ち主たらしめる精神を強固に呪縛しているようなものだ。核を守る為の外殻は、外部の介入を許さない。同時に、内部からの解放も許さないのだ。
皇帝を、皇帝たらしめる外殻。‥‥『皇帝』である以外の自我を、雁字搦めにして。

皇帝践祚の鐘が鳴り響く帝都で、指輪と剣を手に静かに笑った一馬を、結人は生涯忘れないだろう。

‥‥一瞬走った胸の痛みを結人は頭をぶるりと振って払い落とし、代わりに隣りに立つ馴染みの二人の姿をジロジロと眺めた。が、特に変わったところは見られない。

「‥‥だからさ。一馬とか将軍は分かるけど、ユンも英士も変わった防具とかアクセサリとか、つけてないじゃん」
「あ、酷いなーユウト、気づいてよ」
「へ?」

結人の言葉にのんびりとした声が挟まれる。視線をやれば、潤慶がヒラヒラと外套の端をつまんで振っていた。そして視線が合うと、ニッコリと笑われた。

「これ、ちょっと特殊な織りでね。古ーい文献見ながらちょっとアレンジ加えて僕が織ったんだけど、その上に加護の意匠を差してるんだよね」
「え、」

‥‥ちょっと待て、それってマジックアイテムって言わないか。

そういわれて結人が覗き込んだ外套は、深紅のずっしりとした布に美しい文様がくまなく刺繍されていた。
カンバーランドの人気意匠士だと結人は聞いていて、それは世間一般の女性向けの服飾を差すのだと思っていたのだが。

「さぁ?本当はこんなに効くと思ってなかったんだけど、うんやっぱり僕って才能あるなァ、ねー凄くないヨンサ?」
「そうだね、術具師はなかなかいないっていうし。ギルドにも居ないでしょ結人?」
「‥‥ああ」

ていうか世界に数えるほどしかいない。

その事実に思わず黙ってしまった結人であるが、その横に立つ英士もまた黙して、じっとその従兄が織ったという外套を見つめていた。‥‥やはり、何事にも図太い友人とはいえ、思うところがあるのだろうか。

「‥‥潤慶」
「なに?」
「それ、ウチで量販したら駄目?」
「ッてオイ!」

‥‥どうやら別の意味でこの商人は黙り込んでいたらしい。

「量販かぁ、ちょっと無理じゃないかなー複雑な意匠だし」
「そうか‥‥惜しいな、ちょうど今ロンギットの生産ラインに空きがああったんだけど」

惜しい、と心底惜しそうな呟きに結人は眩暈がしたが、まさか本当に倒れるわけにはいかないので、とりあえず意識を逸らす為にと英士に声を掛ける。

「‥‥で、ユンは分かったけど、英士は?まさかお前も自分で作ったとかいうなよ」
「ああ、俺?そうだね、俺はちょっとお金持ちな一般人だし。ユンみたいに変な技術も無いしなぁ‥‥」
「‥‥。まぁ、それが普通だろ。つか俺もだし。んじゃお前も持ってないの?でもさっき術にかかんなかったよな」

そう言って首をかしげる結人に、英士は優雅に微笑んだものだ。

「言ったでしょ、ちょっとお金持ちな一般人だって。買ったよ、腕輪」

そういってヒラリと降った腕の長い裾から、凝った意匠の腕輪がチラリとのぞいた。

「‥‥‥‥買った?」
「うん」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」

因みに、特殊な武具や装身具というのは当たり前の話だが滅多には存在しない。
現代、マジックアイテムを作ることが出来る人間は先ほども言ったとおり数人しか存在しておらず、また彼らにしたところで量産できるわけでも、思いどおりの作品が作れるわけでもなく。
あるとすれば、トレジャーハンター達が命懸けでハントしてくる古代遺跡の遺物か、古い血筋の名家に残る家宝だとか、そのくらいなのである。
ようするに、簡単に買えるものではない。

「‥‥‥‥。因みにおいくらでしたか英士サン」
「別に、そんなにはしないよ。‥‥喩えるなら、国庫が空になるくらい?」
「じゅうぶんに「そんなにしない」ことねーだろこの金持ちがーッ!!」
「あははユウト、お金持ちに金持ちがーって全然悪口になってないよー」
「何言ってるのさ俺が稼いだ金だよ、どう使おうが勝手でしょ」
「うるさいうるさーい!大体お前ら商人と意匠士だろ?!なんで戦闘についてきてんだよ!」
「それ言ったら結人だって鍛冶師であって戦士じゃないでしょ、ていうか可愛い一馬の為に決まってるでしょ愚問だね」
「だよねぇ。『可愛いコには旅をさせろ』っていうけど、どうせなら一緒に旅したほうが楽しいに決まってるし。あ、これヤウダの諺ね、最近ヤウダにハマッてるんだよね、僕。‥‥それに」
「「大事な可愛い一馬に剣向けた人間に言われたくない。」」

大氷原の永久凍土も(以下略)の、二回目の台詞に今度こそ結人は凍りつきかけ‥‥て、やっぱり凍らなかった。呑気に凍っていたら死ぬ。
それが目の前の女にか、両脇を占める友人二人にかは解らないが。

「‥‥ああ、そもそもこの女が俺の一馬に剣を向けたんだっけ?」
「うーん、それはちょっと許せないなぁ?」
「というわけで、サクッとやろうか、ユン」
「だねー、ヨンサ」

ふわりと深紅の外套が翻る。
軽やかにロッドを指先で回し、ピタリと止める。

それだけで、女を取り巻く強大な筈の魔物達が凍りついた。

‥‥なんでこんなヤツらが一般人なんて呼ばれてるんだろう、とは果して誰の思いだったか。

「‥‥‥‥うん、サクッとやっちゃってくださいお二人さん」
「「結人は後でサクッとやるから逃げないように」」

そうして始まった戦闘に、後々の「サクッと」を思い多少泣きたい思いに駆られつつ、結人は剣の柄を握る手のひらに力を込めた。




‥‥泣く為には、先ずはこの死地から戻らないといけないのだから。









「‥‥‥‥だから結人、駄目だって言ったのに‥‥」

小さく呟いてため息をついた皇帝の腕を引き、かばう様に前に立つ。
その呟きに苦笑したのは、この素直で苦労性な皇帝を思ってか、はたまた後々友人から食らうだろう「サクッと」に、少々ヤケ気味に剣を振るう鍛冶師を思ってか。
そうしていると、肩越しに声を掛けられた。

「閣下」
「陛下、閣下はお止めください」
「あ、すみません」

そういって反射的に頭を下げた『陛下』の頭を、隙なく構えながらも片腕でわしゃわしゃと混ぜるように撫でた。

「ケースケでいいよ、一馬様」

困ったように見上げてくる目に、"剣聖"将軍こと、山口圭介は首だけで振り向いてからにこりと微笑んだ。その直前、剣を通して発動させた魔法が周囲を覆おうとしていた瘴気を吹き飛ばす。
聖騎士の称号も持つ圭介の剣は、優美な反りを持つ細い刀身だ。
しかしその繊細な外見に見合わぬ、或いは見合いすぎるだけの特別な聖の加護を持つ。勿論、精神呪縛の魔法など問題にもならない。

「‥‥これは、スガに感謝かな」

剣を聖別してくれた、親友であり帝国宰相である人物の名を呟く。
瘴気渦巻く沈める塔には、この上も無い武器だ。
と、ふわりと背後で魔力が揺らめいた。同時に、地下深くに閉ざされている筈の空間に、やわらかな光が満ちる。それは、この若き皇帝自身を示しているような冴々とした光だ。

「『妖精光』か」
「はい。‥‥完璧には魅了魔法を防げないけど、少しでも術法防御力がアップすれば違うだろうから。‥‥じゃ、いきます」
「ああ、そうだな」

短い言葉を取り交わし、魔物の群れへと飛び込んだ。

誰のために、とは言わない。
勿論この場にいる5人全員‥‥些か呑気すぎる会話をしていた、少し離れた場所にいる3人を含め、術防御が上がることは、禍々しいほどに魔力を溜め込んだ『英雄』という名の魔物に対抗する上で不可欠だろう。だから、この皇帝は全員を思い術を果たした。

(すげぇな‥‥)

一馬の成した術法効果に圭介は内心で舌を巻く。
本来『妖精光』は個人のみに有効な術法防御力と素早さ強化の術法なのだが、その範囲を味方全員にまで広げ、かつ鮮やかまでの高い防御力を付与している。
帝位『継承法』による基礎能力継承の効果もあるのだろう。‥‥しかしそれが、このパーティの中で唯一精神防御系の防具を持たない、大切な友人を想ってのことならば、それはそれで良いことだ、と圭介は火球を炸裂させながら思う。

(‥‥皇帝は、悲しい英雄だから)

武門の名家として、圭介は幼い頃から宮廷へと伺候していた。
優れた剣と魔法の才能、人心を得る才覚を持って、近衛軍総司令という軍の頂点を極めた圭介は、同時に多くの皇帝を見守り、そしてその死を、見届けてきた。
自由はなく、戦いに生き、名のみを残し‥‥時には名さえ失い、死んでいく。
皇帝とは、この国の贄となるべく選定された存在だ。
時に己の無力を思うときもある。時の大賢帝を、憎く思ったことさえも。

けれど、彼らは言うのだ。「悔いはない」と。

それが本心からなのか、意志の継承という古代魔法のシステムが言わせた言葉であるのかは、圭介には解らない。
けれど、彼らが。『皇帝』という英雄が、時に泣き、微笑みそして「悔いはない」のだと言うのならば。




「一馬!」
「‥‥結人、皆下がれ!!」

魔物の首領を相手に大立ち回りを演じる(‥‥これが一般人だというのはちょっと問題があるんじゃなかろうか、と少し思わなくも無い)3人の背後へと無尽蔵に湧き出るようにせまる魔物を、圭介は一閃で薙ぎ払い退路を確保する。剣聖の名前は伊達ではなく、吹き上がるような高い魔力がそれだけで弱い魔物を消滅させた。

それは、皇帝もまた同じく。

剣聖の作った退路に飛び込むように駆け戻った友人達と、正面から交差する形で一人進み出た皇帝の周囲には、魔力が齎す烈風が唸りを上げている。
血に塗れ、美しかった髪を振り乱し今は悪鬼の如き形相の『英雄』に対峙した、彼もまた英雄。 元は剣士であったと圭介は聞いていた、その手にある片刃の剣に鮮やかな風と煌めく水の力が集約されていく。惹かれ弾きあうそれらの力はやがて烈しい雷電となり、目を焼く白光が空間を駆け抜けた。

それは皇帝の、成し遂げようとする意志の力そのもの。

「‥‥『召雷』!」

‥‥悔いの無いように、戦えばいい。
圭介はその傍近くで、彼らを見守ろうと。
彼らが悔いを残すことのないよう、彼の為に剣を取る。




‥‥この若き英雄が、少しでも長い間、大切な人と過ごせるよう願いながら。









「‥‥さーて、戻って何か美味いモンでも食うか。一馬様、お前らもなんか食べたいものあるかー?」
「俺は特に、何でも‥‥皆は?」
「ハイハーイ、僕ヤウダでワショクが食べたいなー!」
「将軍、それって奢りですかそれとも経費?」
「‥‥‥‥超金持ちのクセにケチくさいな英士‥‥」
「何言ってるの結人、ケチだから金持ちになるんだよ。というか、食事の前に結人にはサクッと‥‥」
「さぁ行こうぜ一馬ー!メシメシー!!」





title/『ホリゾンゲート』
end.(05.//.2007)

3:敵に操られ仲間を攻撃!操られたのは?

一馬が皇帝になる過程と若菜のお話『サエタ』が(私の脳内に)(殴)ありまして
無事に一馬が皇帝になった後のお話。
結人は随分な扱いですが、この後一馬の為に一対の伝説の剣を作ります。