「おー、おかえりー」

朗らかではあるがどこか気だるげな出迎えの言葉に、渋沢は誠実そうな顔の眉根についと皺を寄せた。




都市国家間の戦闘が後を絶たない現代、賞金稼ぎとして身を立てて数年。
その名声も都市間を問わず呼び習わされるようになった現在にあって、渋沢はチームの顔であった。無論、「顔」といっても表にビジュアルとして露出していると言う意味ではなく、チームの代表者という意味であるが。
先日まで彼らが本拠を構えていた第六都市での「都市指名者」‥‥つまりはその都市でトップのハンターと認められたに等しいチームとして(特に第六都市は名立たる大都市である)立てた功績によるものか、此処第九都市に移って来てからは事務局を解して‥‥或いは非合法に水面下での指名が、格段に増えた。勿論その内容と信頼性については三上や、目の前でのんびり寛いでいる中西ら情報戦に長けたメンバーが吟味した上で受けるわけだが、最終決定は渋沢に一任されている。事務局への登録も渋沢を筆頭に挙げ、表立っての交渉も彼が矢面に立つ為、事務局の人間や同業者には渋沢イコール、彼らチーム、という図式が成り立っていた。
其れは決して嘘でも誇張でもない。現にチーム内のメンツは彼をキャプテンとして最終決定権をゆだねているし、信頼できるチームメイトとして、そしてトップとして彼の決定を信用している。
科学技術の先鋭化の先に引き起こされた都市国家間戦争、人が人を殺し続ける陰惨な世相にあって、渋沢の安定した精神はいっそ珍しいのかもしれない。 ハンターとして一流の腕もさることながら、時にそれ以上に彼を、ひいては彼率いるチームの信用性を高めるのに有効な柔和な笑みと、誰彼問わず安心感を与える容貌は、今この時も健在であった。

‥‥筈なのだが。




「いやーん、キャプテンてば怖い顔してー。‥‥言い訳するとこの現状は俺の望んだものじゃないよ?」
「‥‥そうか」

柔和で安心感を与える筈の容貌はそのままに、ただその背後には渦を巻くような暗雲を背負って、而して呟かれた台詞は途方もなく低い、重い。怖い。

前述の通り、渋沢は賞金稼ぎである。まぁそれをいえば目の前でソファに寝そべり朗らかに笑う中西とてそうではあるのだが、言ってみれば得意分野の違いというものだろうか。片手に平たい盃を携え、少し気だるげな口調で渋沢に向かう中西は主に情報戦を担当するのに対し、渋沢はどちらかと言えば実戦に赴くタイプであった。
基本的には隠密行動が常道であるが、対象者‥‥敵を実際に対峙するのもまた彼らであり、その直接コンタクトにより対象を押さえる人員を指して狭義のハンターと呼ぶ。チームのエースハンターである藤代と並び、渋沢もまた一流のハンティング技術保持者であることは疑いようも無い事実だ。‥‥つまり、目の前の人間一人縊り殺すことなど彼にとっては素手だろうとも容易いことなのである。
並の人間であれば、冷や汗を滝の如くに落とした上で必死のいいわけでも始めそうな剣呑極まる渋沢の様子であったが、そこは現在のところチームメイトである中西には然程の効果はなかったらしい。
まぁ、チームメイト云々以前の当人の気質に由来するものかもしれないが。

第九都市での彼らチームの住まいである、やや広めのアパートメントは、まだ移動してきたばかりというのが窺える雑然ぶりであったが、広いリビングにはチームメンバーである三上気に入りの、そして今現在は中西が寛いでいる、ローソファが据えられていた。
大概の家具機材類は都市都市で購い、処分していくのだが、三上はこのローソファを以前の住まいからそのまま持ち込んできたのだ。あまり物に拘るほうではない彼にしては、珍しいと言えば珍しい。
三上がこのソファを気に入っているから、というのも勿論あるのだろうが、同時にもうひとつ。

「もうねぇ、三上がいーっつも甘やかしてるから、不破のクセなんだろうねー。最初は横にちゃんと座ってたんだよー?なのに、ちょーっと目を離した隙に寝込んじゃってさぁ、そしたらもう後は不破が。渋沢、聞いてる?不、破、が。コイツのほうから擦り寄ってきたんだよー?」

だっから俺のせいじゃないもーん、と妙な節つきで歌うようにいった中西は呵々と笑い、片手に携えた盃を舐めるようにその中身を味わうと、もう片方の手で座った己の腿に頬をこすりつけるようにして眠る不破の頭を、柔らかく撫ぜた。
悪びれない‥‥いや、実際に膝を貸していただけで疚しいことをしていたわけではないにせよ、渋沢と不破の微妙な関係を知っているはずの相手のあまりの悪びれなさに、渋沢は毒気というかなんというか、その状況を捉えた瞬間に身の内に過ぎった様々な感情をカラリと吹き飛ばされてしまい、なんとなしの苦笑と共にため息をついたものだ。
その、キャプテンの背負う微妙な雰囲気が変わったことを察知してか、中西はもう一度ヘラリと笑うと、もういくらも残っていなかった盃を一口で干した。

「三上は?」
「藤代と出てる」
「仕事か?」
「半分は。東の12番にマーケットが立つから何か繋ぎでもつけてくるんだろ。あとは藤代のお買い物だねぇ」
「‥‥エンゲル係数がまた上がるな」

中西の言葉の後半部分に、渋沢はリビングを横切りながら苦笑した。
マーケットとは、文字どおりのマーケット、市場である。とはいえ一般市民が日々の生活の為に立ち寄るものではない。
そこではありとあらゆる情報と武器、時に非合法で隠微な駆け引きが飛び交う。時を変え場所を移り、その情報を知るに足る人間たちにだけ開かれた、いわば裏マーケットだ。
三上はそこで何某かの情報を買い、藤代は武器と、ついでに彼の好きなあまり世間には出回らない嗜好品でも買ってくるつもりだろう。
渋沢の苦笑に中西も思うところがあったのか小さく笑うと、軽く上体を捻るようにして屈み、ソファの足元の床に直に置かれた硝子瓶に手を伸ばした。空になった盃を持つ手で、膝上の人物の頭をずり落ちないように支えてやっている辺り、中西の飄々としているわりにどこか優しい内面が窺える。
渋沢は口の端に微かに笑みをのせながら、ソファの背凭れ側に回ると其れに手をつき、そのまま屈み込むようにして、すっかりと眠り込んでいる人物へと、優しい視線を遣った。




綺麗な強い視線をした不破を、三上と藤代が連れ帰ったのは、少し前のことだ。
『良い目を持ってる』と三上は言った、それは比喩でもなんでもない。
彼は優れたという言葉では足りないほどに、ずば抜けた能力を持つ『スポッター』なのだ。

先鋭化した科学技術は戦争のみならず、全身整形から生体識別信号の詐称、ダミーIDに至るまで、「顔を替える」ありとあらゆる手段を生み出した。寸借詐欺師から重要機密ハッカー、或いは暗殺、無差別テロリストに至るまで、犯罪者たちは顔を名前を服よりも容易く替え、そうして犯罪暦を洗い都市間を渡り、犯罪を繰り返す。
そんな犯罪者を追う各都市の刑事機構、賞金稼ぎたちにとってその時点の「顔」を掴むことは最重要課題だ。事務局が逐一更新するリストは最低限の情報として、それ以上の部分はハンター達が独自ルートで最新情報を手に入れている。三上と藤代が向かったマーケットなどがそうだ。それらを元にハンター達は犯罪者‥‥対象者の顔を追うわけだが、それでも尚追いつかない。解析能力と、あとは勘。この辺りはそれぞれの腕にかかっている。
『スポッター』は、其れを飛び越えた特殊能力者だ。
多かれ少なかれ、職業ハンター達は目が良いし鼻がいい、なにより勘がいい。そうでなくてはやれない職であるという点では、ある意味賞金稼ぎも特殊能力者、特殊技能者といえなくもないが、『スポッター』はそういうレベルではない。彼らは、一瞬で見極める「目」をしている。
もちろん大半のスポッターもデータに基づいた解析を行うが、彼らが本当に見つめるのはその向こう側にある真実だ。是か否かをその目で見極める、文字どおりの「目が良い」連中なのである。
高精度の情報解析能力という点では後天的に身につけ得る能力だという研究者もいるが、むしろ精神感応者や予知能力者に近いという研究者もおり、そのあたりは今もって未知の領域である。




「‥‥疲れてるのか?」
「んー?うーん、ちょっと違うかなぁ」

すよすよと眠る不破を一頻り眺めた後、渋沢は視線は動かさないまま、彼に膝を貸している中西に問うてみた。

不破は良く眠る。むしろ、いつも眠っているといっても過言ではないかもしれない。
チームとして共に行動するようになって以来、ホームにいるときは大抵は三上の傍らで情報の解析をしているか、眠っているかだった。ローソファに掛けて仕事をする三上の、膝に懐くようにして眠る姿は既に日常の光景としてチーム内に馴染んでしまった。「三上が甘やかしてるから」と笑いながらいった中西の言葉はまったき事実である。‥‥アンティークなものはそこそこ好きだが、特に物に執着の無い三上がわざわざ以前のアパートメントからローソファを持って移ってきたのは、三上本人がソファを気に入っている以上に、此処で眠る不破のためだ。この事実一つで、三上が不破をどれだけ大事にしているかが知れようものだろう。
そもそも渋沢は、三上(と藤代)が不破とどこで知り合い、どういった経緯で連れてきたのかも知らない。
渋沢にとっての三上は、一言で言えば相棒だ。
ハンターとして身を立てようと誓ったその時からずっと共に居た存在であり、信頼だとか友情だとか、その辺りを飛び越えた繋がりがある。三上のことを疑ったことは無い。その彼が連れてきたという事実、其れに勝る保証はない。‥‥気にならないといえば、嘘になるのだが。

第六都市で起きたある事件をきっかけに、渋沢と不破は現在、微妙な関係にある。 微妙というか、チームメイトとしては近過ぎるが、恋愛関係というには顔を合わせて唸ってしまいそうな‥‥というか。それなりの身体的接触はしているのだが、言葉が足りないと言うか、何かこう、曖昧と言うか‥‥

「‥‥沢、渋沢ー?キャープテーン、不破に見とれんのは後にしてくんないかなー?」
「‥‥え、あ?うわッ、」

不意に知覚した横からの中西の声に、渋沢は自分の意識していたものよりもずっと近くで不破に見入っていたことに気がつき、慌てて身を起こした。心拍数の増加、体温の上昇。頬が赤くなっているのが自分でもわかる。

「お前もなぁ、アレだねぇ‥‥」
「うるさい何も言うな」
「好きなら好きでいーんじゃねぇの?」
「‥‥‥‥。」

ソファの背に凭れかかり、仰のくようにして渋沢へ顔を向けた中西は、ニマニマと些か性質の悪そうな笑みを浮かべた。
チームの代表として見せる時には非情ですらある顔とは正反対の、歳相応な青年の顔をしている渋沢は面白い。
中西は空の盃に引き寄せた硝子瓶から液体を注ぎつつ、明らかに笑いを含ませた口調で言葉を継ぐ。

「いいじゃないの恋愛。命短し恋せよオトメってね!ああ渋沢はオトメじゃないかーハハハ。つっても日常には潤いがなくちゃねぇ、でもイチャイチャすんのは俺の目の届かないところでやってよね、うっとーしくて後ろから殴りたくなるから」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
「このローソファでも止めといたほうがいいかもねぇ、アキのお気に入りだし?どうせならお前のベッドの上で‥‥」
「あーもーうるさい!」

とどまることのない中西の軽口に暫し耐えていた(というか言葉が単純に出てこなかっただけだが)渋沢であったが、さすがに耐えられなくなったのか一言彼にしては珍しい投げやりな台詞でその言葉を遮ると、中西の指先で軽く支えられていた盃を取り上げ、ハッとした中西が振り仰ぐよりも早く口に含んで‥‥吹き出した。そりゃもう見事に霧吹き状に。

「あーッ!なにやってんだよバカ!もったいない!」
「ちょ‥‥ッ、勿体ない、じゃ、ッゲホ、なくて!‥‥何だこれ?!」
「何って。花酒。」
「は‥‥?」
「あれ渋沢知らない?花のお酒って書いて花酒。なんつーか、可愛い名前だよねぇ。‥‥あーもー高かったんだよコレー、もったいなー‥‥」

尚もぶちぶちという中西は片手で口元を押さえたままの渋沢の手から空になった盃を奪い返すと、持ったままだった硝子瓶から仕切りなおしとばかりにトトト、と花酒を注いだ。灰青の盃に細かな泡が花飾りのようにつく様は、透き通った液体に沈む花の欠片のようである。ふわりと立ち昇る甘やかな香りに、中西は思わず笑ったものだ。

一方、渋沢はといえばそれどころではなかった。

「ちょ、待て中西っ」
「何よ、もうやんないよー」
「いらん!て、そうじゃなく、て」

身体が熱い。口に含んだのはたかだか一秒程度である筈で、更には半分ほどは嚥下することなく吹き出したというのに、舌先から喉に落ちた液体が一瞬で身体に散らせた熱に、渋沢はいっそ愕然とした。瞼の縁が妙に痛く、滑舌がおかしくなっているのが判る。‥‥要するに、酔っている。
普段は意識することもなく操る言葉を、渋沢は懸命にコントロールして言葉を紡いだ。

「花酒って、あの花酒か?!」
「その花酒以外になんの花酒があるっつーのよ」
「‥‥‥‥。中西‥‥。」

渋沢はその場に膝を落とした。そのままローソファの背の上部分に腕を組むようにおき、額を乗せる。別に立っていられないほどではなかったのだが、なんというか、気が抜けたのだ。中西はといえば気にした風もなく、注ぎなおした酒をいつもどおりの飄々とした顔のまま舐めている。

花酒は、可愛いらしい名前に相応しいと言うべきか反してと言うべきか。旨い酒であることは確かで、手間のかかる製造法から今では大都市のトップクラス官僚宅の飾り棚にか、ブラックマーケットに稀にでてくるくらいという稀少さである。勿論そのぶん高価ではあるが、生命の切り売りと評される賞金稼ぎならば出せない額ではない。
器に注いだときに現れる美しい泡沫が花のかけらのようだと言われ、其れを讃えての花酒。

しかし此処で問題なのは、なによりもこの酒、べらぼうに度数が高いという点だ。

冷凍庫に入れても凍らないといえば解るだろうか。それでいて甘く、どこか芳しい香りで、それこそが美しく強い花を思わせる酒なのだ。

渋沢は普段あまり酒類は口にしない。精々がビールか、紅茶にブランデーをたらす程度であまり飲まないこともあって、更には何の心構えもなしに呷ったのがかなり堪えたようだ。ソファの背に懐いたまま、微妙に力が抜けている身体に、ため息をついてしまった。‥‥微妙に酒の味がした。
中西はそんな背後の事情はお構いなしに、盃を片手にもう片方の手で眠ったままの不破の頭を撫でている。

「うん、やっぱ美味しいねぇ。‥‥なのに、この前のマーケットで苦労して藤代に買ってこさせたのに何吹き出してるかなーもー」
「‥‥‥‥ほっとけ」
「不破だって飲み下したのにねー」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?!」

何気なく呟かれた中西の言に、渋沢はガバリと頭を上げた。一瞬クラリときたが、其れに構っている余裕はない。ソファの背越しに身を乗り出すようにした渋沢は勢い込んで言ったものだ。

「いつものように疲れて寝てるんじゃないのか?!」
「え、だから最初に違うっつったじゃん」




『‥‥疲れてるのか?』
『んー?うーん、ちょっと違うかなぁ』




ああ確かに言っていた‥‥。
渋沢はなんだかもう泣きたくなりながら(酔っているからなのかどうなのかは最早彼自身にさえ分からない)、がっくりと項垂れた後、眼下で眠っている不破へと視線を遣った。

ごく小さい寝息に、ふわふわと長めの髪が揺れている。
長い睫が縁取る今は閉じられている目は綺麗な濃茶色をしているのだと、間近で触れ合ったときに知った。
頬が若干色づいているのはアルコールが回っているのだろう。抱きしめたときとは違う色づき方が妙に、こう‥‥

「しーぶさわー。だから不破に見とれんのは後にしろって」
「‥‥‥‥‥‥、呆れてただけだ」

間近い横から掛けられた中西の笑いを含んだ言葉に、渋沢は横目で睨みながら反論すると、尚も盃を傾けながらニヤつくチームメイトを潔く無視して、不破に手を伸ばした。

「不破くん‥‥不破。寝るなら布団に行って寝よう」
「あらぁ大胆ねー、克朗さんたらベッドへのお誘いかしら」
「黙れ中西その気色悪い口調を止めろ殴るぞ蹴るぞ」
「うわぁお前も結構酔ってんなー、口調がおかしいぜ?」

渋沢の言葉に堪えたふうもなく、ケラケラと笑いながら盃を舐める中西も大概酔っているのだろうが(むしろ酔わないほうがおかしいのだ)、渋沢はそれ以上の言葉はきっぱりと無視し、眠る不破の白い襟足からうなじに指を這わせた。

「不破、起きて」
「‥‥う、ん」

吐息のような言葉と同時、それまで良く眠っていた不破が眉間に皺を寄せて身動ぐ。丸まって眠っていた猫のように、モソモソと動いた。首を動かす動きに合わせて、渋沢は中西の膝上から不破の頭を手のひらの上に掬いあげる。

「不破」
「‥‥‥‥しぶ、さわ?」
「そう、俺。此処で寝ちゃダメだよ、風邪を引くって三上にこの前怒られただろう?」
「む‥‥」
「布団に入って寝よう、ね?」
「‥‥ん」

渋沢はそのままソファの背に胸を預ける形で前に乗り出すと、腕をまわして不破の上体を抱き起こした。不破の意識がはっきりとしていないせいかかなり重いが、細身であるし対して気にならない。
「うーん、ラブラブだねお前ら」と横から中西の呑気な声が酒の香りと共に聞こえたが、これまたきっぱりと無視した。
抱き起こした身体はまだ半分以上眠っているらしく、不破は目を閉じたまま腕の中で頼りなげに揺れている。
ソファの前に回って抱き上げたほうがよかったかな、と渋沢が考えていたとき、ふいに温かな熱が首に回された。渋沢は思わず息を呑む。

「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥何ていうか、お前らもういいんじゃね?」

あーもーゴチソウサマですー、などと中西の呆れを全面に押し出した口調の言葉に、渋沢は反論できよう筈もなく。
ただ、首に腕を回して擦り寄ってくる、眠っていたからかアルコールの為か、普段よりやや温かい身体を、そのまま無言で抱き上げた。酒が足にきていなかったのは幸いだとぼんやり思ったものだ。

僅かにでも酔いが回っているぶん慎重を期しながら部屋に連れ帰り、コンフォーターをはずしたままだったベッドの上に不破を下ろす。ふと腕の中から離れていった体温に寂しさのようなものを覚えたが、少し口をあけて再び眠りに落ちた不破の様子に、身体の内側に温かなものを貰った気がした。

「‥‥‥‥‥‥俺も、寝よ」

渋沢は誰に言うでもなく呟くと、不破の横に身体を滑り込ませてその身体を抱きこみ、剥いでいた掛け布団を引っ張りあげた。この布団は先日この都市に移ってきたときに、そういえば一緒に買いに行ったんだっけ、とふとそんなことを思い出す。 小さな寝息が直ぐ傍で聞こえる。‥‥悪くないな、と思った。

曖昧で微妙な関係にある自分たちだけれども、ただこうして共に居ることだけを大事にするのも、悪くはない。

「‥‥けれど」

起きたときにはもう少し、微妙な関係をクリアにする言葉でも贈ってみようかな、なとど考えつつ、渋沢は眠りに落ちていった。
擦り寄ってきた不破が、小さな声でしぶさわ、と呼んだ気がした。






end.(01.22/2006)

続き、というより続きの後の続編(殴)。
間にいろんな事件を挟んでます。気力があればそっちも。