「意外に面白いのだ」
「あー‥‥?何が?」
風祭将は美しくに澄んだ冬空の下、葛藤していた。
河川敷、橋のたもと。から、見える橋の上。
通いなれた場所である。ここでは何十、何百という練習を続け、そして幾度となく貴重な体験、助言を得られた場所だ。
ある時はおやっさん、ある時は松下コーチ。本間先輩や水野くん、あるいは高井たちサッカー部のメンバー。どれもこれも、ぼくの大切な人たちで、大切な、思い出。そして‥‥
「不破くん‥‥」
思わず零れ落ちた言葉に、ハッと口を手のひらでおさえた。この距離では聴こえるわけもないとは知りつつ、けれど、そうしなければならない気がしたのだ。
河川敷、橋のたもと。から見える橋の上。‥‥にいる、大事なチームメイト、不破大地。
そう、彼との出会いも、此処だった気がする。
気がするどころか、ちょうどこの場所だったかもしれない。
視界の縁には見覚えのある看板。記憶にあるより若干日に焼け古びた感は否めないが、それでもそこに書き込まれた文言は衝撃的だ。この程度の川なのに、そんなに『その行為』をする人間がいるのだろうか?ああ人生世知辛い、もっと自分を大事にしなきゃだめだよ!
「‥‥でも!あの時だって、不破くんにそのつもりはなかったわけだし‥‥!」
『自殺多し STOP!飛び込み』
‥‥違う!自殺なんて、彼がするわけない!
ぶんぶんと頭を振った。違う違う。自分に必死に言いきかせる。
‥‥けれど、本当に?言い切れるのか?
確かに、前回は違った。不破は言ったじゃないか、「興味がわいた」だけだと。その可能性、実効性を確かめてみようとしただけなのだと。そしてそこに自分が突っ込んで、結果的には突き落としたわけだが。あれ、これって自殺幇助?いやいや、死んでないし。死ぬ気もなかったし今生きてるんだから結果オーライだよね!ゴールキーパーもゲットしたわけだし僕って結構ツイてるよね!サッカーの神様ありがとうぼくって愛されてるねさすが主人公!!
「‥‥そうじゃなくって」
そう、そんな神様にお礼いってる場合じゃなくて。いやお礼は大事だけど。そうではなく、この現状だ。この現実だ。
河川敷。橋のたもと。からみえる橋の上。にいる不破。‥‥と一緒に居る、三上。
聞くところによれば、現在橋の上にいる二名は、どうやら恋愛関係にある、らしい。
この件に関しては、本当に誠に心の底から不本意でサッカーの神様のバカ!必殺のインサイドキック打ち込んじゃうよ主に三上先輩に!と詰りたい程度には複雑な思いを抱いている。え?サッカーの神様に無理を言うな?知らないよ。だいたい恋愛フラグを立てるならまず主人公で不破君のファーストコンタクト相手の僕が第一候補じゃないのかな!?‥‥いやいや、いや。
「‥‥だから、そうじゃなくて!」
河川敷。橋のたもと。からみえる橋の上。にいる不破。と一緒に居る三上。
看板のかげからじっと様子を伺う。
橋の中央辺りに立っている二人は、妙に真剣な顔をして何事か二言三言、言葉を交わしていた。不破が無表情なのはいつものことだが、三上はといえばなにか堪えるように口元を震わせている、ように見える。視線は、橋を越えた川の中。‥‥自殺多発の、川の中。‥‥まさか心中?!
運命の出会いを果たした二人、けれど彼らはライバル校として敵対する身だった!彼らに降りかかる障害、そして彼らが選んだ結末は‥‥!?うん、こんなあらすじの本を小島さんに借りて読んだことあったよ!ロミジュリ設定は王道ですよね、ってみゆきちゃんも言ってた!
「‥‥ッ、」
でも、彼らには彼らの選択があるし‥‥。
でもでも、自殺なんて良くないし‥‥あとGKいないと困るし‥‥。
不破くんの(ついでに三上先輩の)選択は尊重してあげたい‥‥でも自殺なんて‥‥!
「どうしよう、どうすれば‥‥!」
晴れ渡った冬の空の下、風祭はただ立ち尽くした。
「‥‥‥‥た、確かにおもしれーな‥‥ッ」
「だろう。これほどその人物の心情が顕わになる場面設定は設定しようとしてもなかなかに難しい。手すりは乗り越えやすい手ごろな高さ、駅から徒歩20〜25分という心が空虚になりやすいという立地条件。目の前には過去の事例をほのめかす自殺防止の看板。そんな場所に人が深刻な表情を浮かべ立っていたならどうするか。因みに俺のハトコはこの方法で親友を捕獲したそうだ」
「は?捕獲?」
「迅速な善人選別方法。」
「‥‥‥‥さすがお前のハトコだよ、容赦ねーっつーかなんつーか」
「アレもいいヤツだが風祭もいいヤツだ。‥‥ぬ、もうひとり来たぞ」
「え?‥‥あ、渋沢」
「ふむ、予想通りだなヤツは85%の確率で出現すると思っていたが。因みにこの川の自殺成功率と同じ数値だ」
「イヤな数値比較すんなアホ!っつかアイツなにやってんだよ。看板のかげに隠れられるような体格じゃねーだろ」
「看板の陰に隠れるのはお約束だぞ。ふむ、渋沢めやはりクラシカルな思考の持ち主らしい。伊達に豆大福が好きじゃないな。予測どおりだ。‥‥三上、笑うな。歯を食いしばってでも笑いを堪えろ」
「‥‥そのデータすげぇ気になるから、後で、見せてもらって、いいか‥‥ッ」
「かわまんぞ。だから笑うなと言うのに。まだ実験中だ」
「‥‥あ!渋沢先輩!不破君と三上先輩が‥‥ッ。ど、どうしたら‥‥!」
「ああ、風祭‥‥。落ち着け、落ち着いて、俺たちに出来ることを考えるんだ。武蔵森の十番はお前だと思っている」
「渋沢先輩こそ落ち着いてください!あ、三上先輩すごく辛そうな顔してる‥‥。そんな、三上先輩があんな、歯を食いしばるなんて‥‥!」
「三上‥‥、何故、何故俺に一言相談をしてくれなかったんだ‥‥!」
橋の上、橋のたもと。
美しく澄み渡った冬の空の下、4人の熱い友情物語(笑うところ)は静かに展開する。
彼らの(主に橋の上の二人の)新たな
挑戦
実験は、まだ始まったばかり。
title/『終わりなき実験への道程、あるいは道中(01/橋の上)』
(12.30/2008)
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不破、自重!私も自重!(´∀`)
すみません、橋の上だとこんなんしか(笑)