『平馬の誕生日プレゼント買いたいんだよな』
「じゃ、待ち合わせ、どこにする?」

その一日は、こんな電話から始まる。





「山口くん」
「よッ、久しぶり」

気さくな笑顔でカラフルに彩られた雑踏を抜けてくるその姿に、一馬は軽く頭を下げる。
年も押し迫った季節がらか、それとも聖夜前日の今日この日だからか。やたらと目につくカップルの傍を鮮やかな身ごなしですり抜けてきたその人は、何故だか照れくさそうに笑った。

「もー山口くん言うなよー、照れるじゃん。ケースケでいいって」
「はぁ‥‥いや、でも」
「てか前の合宿ン時、渋沢のこと呼び捨てにしてなかったかお前」
「え、あ、あれは結人につられてっ」

あわあわと言い訳しようとしたところを、不意に伸ばされた手に頭をクシャリをかき混ぜるように撫ぜられて、一馬は思わずぎゅっと目を瞑った。

「あはは、若菜も相変わらずだなー。郭とか、あいつらも元気?」
「あ、はい。‥‥すんません」
「なに謝ってんのさ」
「え、‥‥なんとなく?」

そう答えるとまたもクツクツと笑われたので、一馬の眉間にはぎゅっと皺がよったのだが、ソレを目ざとく見つけた圭介が、頭に載せた手を移動させてムニムニと眉間を揉んできたので、くすぐったさに耐えられなくなった一馬は思わず噴き出したものだ。

「やめろってば」
「だめデスヨー一馬くん、眉間に皺よってたら幸せ逃げちゃいますカラv」
「キモイ。ていうか何そのキャラ」
「えー?語尾にハートマークvでスガ風を目指したんだけど」

にっこりと、それこそ挙げられたユースでのライバルそのままに微笑んでみせた圭介の表情に、一馬は笑いっぱなしだ。
それに合わせるように圭介も笑うものだから、二人の間には笑顔が絶える事はない。

静岡からはるばる東京に、それも一国の首都らしき溢れ返るようなカラフルな雑踏の中での、今日この日の待ち合わせは、形は違えど毎年そんな風だった。

「‥‥で、今年は何買うんだよ」
「んー、いや、あんま考えてねーんだよなー」
「ダメじゃん」
「何だとぅ?ダメとかいうのはこのクチかー!」
「うわッ、止め、ギブギブ!」

他愛ないやりとりを交わしながら、二人は溢れる人波に身を任すように進路を決める。もとより行き先など決まっていないのだ、適当に、力に溢れるこの街を、二人で、歩いていく。

「真田は何がいいと思う?」
「うーん‥‥何かこう、和風っぽいもの、とか?‥‥あ、あーいうのとか」
「え、どれどれ?」
「ほら、あそこのディスプレーの、上の段にある‥‥」
「お前、ああいうのが好きなの」
「あ、うん、どっちかっていうとああいうのが好き、かも。いい感じ」
「そっか、真田はああいうのが好みなんだ」
「や、横山の印象っていうか‥‥いや、好きなんだけど」
「俺もああいうの好きー」
「‥‥ああ、そう」

街は目が痛くなるほどにカラフルで。
行き交う人は誰も彼もが楽しげで。
空気さえも鮮やかに彩る、甘やかさで。

‥‥もちろん、彼らもそのうちの一組、で。





「‥‥うん、真田今日はありがとな!これ明日平馬に渡すから」
「はぁ‥‥うん、横山も気に入ってくれたらいいんだけど」
「大丈夫ダイジョウブ!ばっちりだって!ありがとな!」
「うん」

そろそろと、街路樹に施したイルミネーションが光を増してきたころに、二人は本日のスタート地点に戻ってきていた。その腕の中には、それぞれがいくつかのカラフルなプレゼント。
溢れ返るような人波は朝と変わることなく、ただ違うのは自分たちがお別れの時間だというその一点だけだ。

「新幹線の時間、平気?」
「ああ‥‥うん、そろそろ」

言いかけた言葉は、無機質な呼び出し音とアナウンスが代弁してくれた。もっとも圭介の足ならばあと5秒後にダッシュすれば間に合うタイミングだ。

「んじゃ、行くから」

あと4秒。

「うん、ええと、気をつけて」

あと3秒。

あと2秒、

あと1秒





「メリークリスマス真田、これプレゼント、あとお前のこと好きだから!」





そう言うや、いつだって一馬の憧れる俊足で駆け出した、一つ年上のその人の後ろ姿を見送って、一馬は押しつけられるように渡されたものを一瞬見やって。

それから、一馬も駆け出した。

返るその人を追いかけて、その応えを直接つき返すわけにはいかないけれど。
改札とは逆方向へと走って走って自宅へと、とりあえず帰り着いたその人に一番に電話して捨てゼリフめいた告白に怒ったあげく、「俺もだ!」と叫ぶことは出来るので。





全力疾走する、少し頬の赤い少年の手元では、クリスマスカラーのカラフルなリボンが揺れていた。











「あ、平馬ー、メリークリスマース誕生日おめでとー!これプレゼント♪真田と一緒に選びましたー★」
「‥‥アンタさあ、いい加減俺ダシにすんの止めてくんねぇ?」
「えーそう言うなよ、友人のデートのダシくらいなってくれたっていいじゃん!」
「あーもー‥‥」





end.(2006.12.21)
backgroundimage by [MICROBIZ]

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