何処で何が起こるかなんて。『その時』になれば必ず悟る。








「‥‥で?そっちは、もういいのかよ、」

三上はいつもどおりの少し気だるげな、けれどどこか微妙に嬉しそうでもある、かに見えてやっぱり不機嫌そうという、複雑系なホモサピエンスらしい、大変に微妙な表情をして呟いた。

『‥‥‥一応は。もともとヤツの気まぐれに付き合わされたようなものだからな。』
「ふぅん?」
『全く。終業式も前だというのに、まさか学校から着の身着のままでこんなところまで連れて来られるとは、さすがに思っていなかったぞ‥‥。』

ため息まじりのその台詞に、三上は短い相づちだけを返した。

冬休み前の短縮授業を終えた彼が、校門から高級車で掻っ攫われるように(ように、というかむしろ其れそのものだったらしいのだが)連れ去られ、着いた先の外国語飛び交う空港から電話を掛けてきたあの時は三上とて、声を失うほど驚いたものだが。
何度か見たあの歳若き帝王ならば、そのような振る舞いも似合っているかもしれない。
必要なればこそ、の手段だったのだろうし。
それにしたって、強引で唐突なところは、彼ら一族の遺伝的気質なのだろうか。
埒もないことを、ぼんやりと思う。

片腕では頬杖をつき、もう片方の手で面前に広げられたノートパソコンのキーボード部分をなぜるように動かす。買い換えたばかりのマシンは、サラサラサラとプラスチック独特の擦過音を室内に響かせた。

「そっちは?まだ夕方‥‥にはなってねぇか。」
『ああ、陽もまだある。‥‥とはいえ、街中はどこも、静かになってきているようだが。』
「日本じゃ考えらんねーよな、今日の夜街が静かなんて。」
『これが本来の姿なのだろうが、な。』

視線は、ディスプレイに。正確には、ディスプレイに映る人物と、その上に取り付けられたカメラに。
微かな電子音が、数万キロの距離を一瞬で繋ぐ。
それに混じって静かな室内に、カチカチカチ、と小さく響くのは、壁に掛けたアナログ時計。
シンプルな盤面には、もうすぐその頂点で重なる長短2本の針のほか、ムーンタイドとカレンダー。

『三上、』
「ンだよ?」
『‥‥すまない。』

三上は、ふ、と息を抜くような感じで笑った。
それは彼が、リラックスしたときにする癖のようなものだ。
声をたてない、微笑みというよりはもっとこう、親愛がにじみ出ているような、特定の人物にしか見せない、ひどく優しい笑み。

「ばーっか、謝んなよ。仕方ねぇだろ?」
『しかし、‥‥お前は、楽しみにしていた、し』
「何、俺ばっかりか?ぁあ?」
『‥‥‥‥‥‥俺だって、その、』

歯切れの悪い話し方なんて、出会った頃は全くしないヤツと思っていたのに。
ばつの悪そうな顔で、気恥ずかしそうな顔で、

『今日、三上に会えるのを、楽しみにしていた、のに』

そんなことを言われることになるなんて、
そんなことを言われて、それが心底嬉しいと思えるようになるなんて。

「‥‥ホンット、解んねぇよなー。」
『?何がだ。』

不思議そうな顔をして、まっすぐに見つめてくるその瞳を、愛しいと思うようになるなんて。

カチリと小さな音。同時に、カレンダーの日付部分が、数字をひとつ、プラスした。








「秘密。‥‥メリークリスマス、不破。何がって訊きたいなら、とっとと俺のトコに帰って来な。」








そういう三上に、むくれた顔で、それでも微妙に赤い顔で。
こちらはまだメリークリスマスではないが、了解した。と呟く恋人に、三上はもう一度メリークリスマス、と繰り返したのだった。








ああ本当に、何処で何があるかなんて。
誰とどんな恋におちるかなんて。

『その時』になれば必ず悟る、人生最大の、秘密。



end.
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