「くりすます」
「そう、クリスマス」
「何だ、それは」
育成系ゲームというのがある、のだそうだ。
総じて世間一般(?)に、育てゲーとか言われているらしい其れ、もとよりテレビゲームというものをしない俺は、初めてその言葉を耳にしたとき一体何の呪文か慣用句か、と思ったものだ。
プレイヤーがゲーム内のキャラ、もしくはそれに類する対象物を、文字どおり育てていくゲーム一般、を指すらしい。‥‥と言われても、俺にはよく解らないのだが。
そしてそれを素直に口にしたら、この世の終わりみたいな目で同室の三上や藤代に見られたものだ‥‥。
仕方ないじゃないか、興味ないんだから。
哀れむような目で見るな。
「メリー、クリスマス?」
「そう、其れは挨拶にね。12月25日。その前日がクリスマスイブ」
大体何かを育てるとか。育成だとか。そんなの、無理に決まってるだろう。
落ち着いてるだのとても中学生には見えないだの年齢詐欺だの、陰で(いや、表だっても言われてる気もするが‥‥)言われてることも知っているけど、俺はまだ、15歳、だ。
多少無茶をしたところで、だって子供ですからー、なんて言い訳が通用する年齢だ。未成年だモラトリアムな思春期だ。‥‥こういうこと自分で言っているから疑われることも解ってるから訊くな其処。グラウンド20周させるぞ。
「クリスマスか‥‥。ふむ」
「うん。判った?」
「ぬ、まだまだ資料が足りんぞ。他には?」
「そうだね、歴史的宗教的観点を除いて、日本ではクリスマスっていうのは一般的に‥‥」
興味以前の問題だ。だって俺は何も持ってない。
それでどうして、他人を守り育てることまで気が回るというのだろう。
稼ぎもない、スキルも、住処も、財産も、地位もない。
‥‥持っているのは、この身ひとつと、それから、
「渋沢、渋沢」
「あれ、不破くん。どうした?今日は特に、約束はしてな‥‥」
「フフ、あれから俺は勉強したのだ。さ、行くぞ」
「って、え。何処に?あれ?」
「今日はクリスマスイブだ。宗教的意味合いはおいておくとして、日本的クリスマスの過ごし方を実践するぞ」
「はい?」
「肉屋に注文してターキーも手に入れたし、ケーキも焼いた。プレゼント他各種飾りつけも完璧だ」
「何処の?」
「俺の家の」
「へ、」
「あとはお前がいればいい」
「俺?」
「俺の考察によると日本では、クリスマスは恋人と甘い時を過ごすというのが一般的なのだ。というわけでお前がいる。さ、俺の家に来い」
「え、あ‥‥はい」
持っているのは、この身ひとつと、それから。
「メリークリスマス、だ。渋沢。お前が教えてくれた、今日の挨拶だな」
考察好きで、育て甲斐のありそうな。
ちょっとおかしくて面白い、凄く可愛い恋人だけ。
「‥‥‥‥それだけで十分だなぁ」
「なにか言ったか?渋沢」
「え?ああ、いや。‥‥うん。そうだねメリークリスマス、不破」
育成ゲームに興味を抱いている暇なんて、ないね。
今宵、12月24日。
恋人の家へ、手を引かれて道すがら。
ぼんやりそんなことを、考えた。
end.
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