「耳、赤くなってる」

そんな言葉と一緒に耳に触れてきたのは、冬の大地の色をした毛糸と、その向こうにある指先の熱。
手袋越しの指先はいつもより不器用で、たかが布一枚であるにも関わらず妙なもどかしさを感じて、殆ど反射的に振り返ろうとしたのだが、それは叶わなかった。

「そのまま前向いてて」

耳から頬の半ばまでを、乾いた軽い感触の毛糸の手袋が撫ぜてくる。
同じグローブでもキーパーグローブとは全く違うな、と埒もない事を考えた。
‥‥中にある手は一緒なのにな、とも。
いつだって安心するような、大きな手のひら。

「イヤーマフ持ってくればよかったかなぁ」
「‥‥別に、平気だ」

答えたら、でもさぁ、なんてぐずぐずとした声が耳元で聞こえる。
手のひらひとつぶんくぐもった声がなんだか可笑しくて、知らず口の端に笑みが登る。
途端に、もっと違い位置での、囁き声。

「何笑ってるの」
「別に」

頬を撫ぜる毛糸の指先がくすぐったい。
頬を掠める吐息が、熱い。

「渋沢、」
「‥‥やっぱり、イヤーマフ持ってくればよかった」
「何なのだ先ほどから、拘っているな」
「だって、」

冬の大地の色をした手袋と、年月を重ねた森のような緑のコートに包まれた腕が背後から伸ばされ、抱きしめられる。
腕の熱、渋沢の熱。耳元で、クリアな声。

「こうしてれば、身体はあっためてあげられると思うんだけど、そうしたら耳が寒いだろう?でも耳だけだと、身体が寒いし。‥‥んー、やっぱりイヤーマフが」
「別に。‥‥別に、これでいい」
「でも、」
「渋沢」



「これがいい、と言えばいいか?」



抱きしめてくる腕の強さが、手袋とコート、布一枚を隔てたもどかしい熱が。
その一言で少しだけ増したような気がして、もたらした効果に酷く気分が高揚する。愉快、といえばいいのだろうか。

「‥‥‥‥もー、なんだかなぁ」
「ほう、何だかとは、何だ?」

変わらず耳元で囁くような声に、楽しい気分で応じれば、ふっと熱が一瞬遠のいて、その直後。

「渋‥‥」
「負けてらんないな、ってこと」

帽子ぶんの布一枚向こう側からの、其れは柔らかな囁きと、柔らかな慣れた熱の感触。

「‥‥不破くん、まだ耳が赤いね?」
「うるさい」

そうしてまた耳を手袋に覆われて、聞こえる布一枚分くぐもった声に、どうやって報復してやろうかと考える。
振り返って隔てのない口唇に噛みついて、そうして今夜の決まり文句でも言ってやろうか。‥‥ああ、その上で、もうひとこえ。

「ん?不破くん、何‥‥」
「渋沢、メリークリスマス。それと、‥‥‥‥‥‥」

この世に生ける全てのものに愛を。
目の前の人物に心からの想いを。







聖なる夜、囁いた言葉は、コイツにだけきこえればいい。





end.(2006.01.22)
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