諸人こぞりて




不意に響いた歌声に、真田は伏せ目がちに俯いていた顔を上げた。
身動きにあわせるように、襟元に巻いた濃紺のマフラーの隙間から、冷たい冬の空気が滑り込んできて、知らずふるりと身を震わせる。
深く吐いた息は濃い白を宿したまま、12月の宵闇を飾るイルミネーションを受けて一瞬、虹色を宿した。




諸人こぞりて 迎え奉れ




澄んだ弦の音が乾いた空気に響き渡り、伸びやかな歌声を美しく彩る。
アコースティックギター1本胸に、息をするように歌う人。
よくある路上ライブといえば、それまでなのだけれど。
閉店後のデパートエントランス脇で唐突に始まった其れに、華やかに彩られた通りを行き交う人間も、なんとなし歩調を緩めたりするのは、その技量もさることながら、其れがこの時季、この時間に、もっとも似つかわしいものであるからかと、真田は通りを隔てた場所で歌う声に、ぼんやりと思った。




久しく待ちにし




ピ、と微かな電子音が、響く歌声に混じって消えた。
真田は普段から、携帯のアラーム機能を目覚まし代わりに使っているが、今日はそれ以外にもアラーム設定をしていた。
ピ。ともう一度アラーム音。
アラーム設定時間を過ぎると、解除しない限り定間隔で鳴り続ける機能は、目覚ましには適しているのだが、今日みたいな日には向かない。とても。

「‥‥あ、違うか。」

今日みたいな日、じゃなくて。
彼みたいなヤツと、待ち合わせるときには、だ。

「‥‥遅刻魔め。」




主はきませり 主はきませり




どこか懐かしい感覚を覚える歌声。
真田は決して音楽に明るくはないが、その自分でさえ惹きこまれるのだから、相当上手いのだろう。
改めて見れば、足を止めて聴き入っている人もいる。




諸人こぞりて 迎え奉れ




アラーム音。
実のところ、もう一度どころではなく真田はこの音を聞いている。
真田は軽く眉を顰めると、コートのポケットから出した携帯を取り出した。電源ボタンを長押しすれば、操作画面は一瞬光を宿し、次の瞬間に機能を停止する。




久しく待ちにし 
主はきませり 主はきませり





「‥‥‥‥来ねぇじゃん。」

思わず呟いた後、真田はその台詞に苦笑した。
彼は別に、神様でも万民の救世主でもなんでもない。皆が待ち望んでいるわけじゃない。

待っているのは。唯その人を、世界中の誰よりも待っているのは、








「‥‥‥‥‥‥一馬っ!!」








駆けてくるその人を、待ち望んで、居たのは。




諸人こぞりて 迎え奉れ
久しく待ちにし
主はきませり 主はきませり





息を切らせて頻りに謝るその頭を、真田はグーで1発ガツリと殴る。

「痛ーいッ!!殴る?!殴るかしかもグーでっ!!」
「あたり前だっつの!テメェ結人、何分遅れたと思ってんだよ?!」
「う‥‥ッ。」

頭をさすりつつ、それでもゴメンナサイと謝るその人を。

「‥‥まぁいいよ、今日だけな。」
「‥‥‥‥殴ったくせにー‥‥。」
「あ、結人。」
「何?」

その人を、真田は。

「メリークリスマス。」
「‥‥ん。めりくりすます〜。」




へへへ、と笑う親友を、恋人を。
世界中の誰よりも誰よりも、そう、神様よりも、待っていたのだから。








‥‥我が愛しき主は、きませり。



end.
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