天才というものは総じて突発的で唐突で、イミフメイでともかくワケわからんイキモノなのだと、つくづく根岸靖人は思ったものだ。




「あなたを水煮魚と同じくらい愛してる。」
「‥‥なるほど」

普段は寮生で騒々しい松葉寮玄関が、その時に限って狙ったかのごとく人少な、というか通りがかった自分を除けば、イミフメイの天才達(寮外者含む)だけだったのは、一体誰の配剤なのか。天か?天はやっぱり天才が好きか。こんなにイミフメイなヤツラなのに!
しかしイミフメイな天才達は、不幸な通りすがりを欠片も気にした様子も無い。双方至極真面目に、‥‥といっても一方の人物は普段から表情が極端に薄いわけだが‥‥よりにもよって玄関先で、謎の告白劇真っ最中である。 その片割れ、通りすがりの根岸からすると馴染みの後輩ではなく、いつぞやの不法侵入者は、向かい合って立つ藤代の言葉に、軽く首を傾げた後で、なるほどという言葉どおり納得したように頷き、緩く目を伏せて数瞬黙考したあと、立て板に水の如くに話し出した。

「水煮魚。中華四大料理の一つ四川料理においてここ数年人気を博している料理の一つ。三枚おろしの白身魚を骨・頭ともにブツ切りし湯どおしした後油・唐辛子・サンショウその他香辛料・調味料等を煮立たせた中に魚を漬け揚げ煮た料理」
「あ、すごーい不破、あってるあってる」

パチパチと拍手する藤代は本気で感心しているようで、スゴイスゴイと繰り返している。 拍手を受けるほうはといえば、いつもながらの何を考えているのかわからない無表情で藤代の拍手をごく普通に受け止めていた。

「あのね新聞で読んだんだけど。中国に『あなたを水煮魚と同じくらい愛してる』って歌があるんだってさ、んで水煮魚すごい人気なんだって。っつかそんな美味いのかなー不破食べたことある?」
「いや‥‥似たものなら京介と食べに行ったが。甘辛く煮揚げた白身魚だったな。四川料理ではなかったが、美味かったぞ」
「そっかぁ美味いのか、やっぱ。でもさぁ、俺は水煮魚たべたことないけど それと同じくらい不破を?とかってあり得ない気ィすんだよな、ていうかあり得ない。不破と同じくらい好きなモンなんてほかにないし!」
「む、それは主体者である俺に同意を求められても回答不能の質問だ」
「えー、じゃぁ不破は俺と同じくらい水煮魚が好きなの‥‥ん?あれ、逆?水煮魚と同じくらい、俺が好き?あれ?」
「繰り返すが俺が食べたことあるのは水煮魚と料理方法が似た料理だ。というか、水煮魚は食えるがお前は食えん。同列の比較対象とするには無理が多すぎる」
「えー、そっかなー俺食ったらおいしそうじゃない?水煮魚に勝つ自信あるよ俺!」
「食うより傍に居たほうが楽しい」
「うん俺も!あーもぉ不破大好きー!あ、今日どこ行く?」
「今日は、祖父のサークル発明発表会が‥‥」




‥‥会話が成り立っていないのに何かが成り立つ、このイミフメイな天才二人をどうにかしてくれと、根岸は結構本気で思ったものだ。

「あれぇ?ネギッちゃん何してんの玄関でー」
「‥‥水煮魚の作り方マスターしてたんだよ、悪いか!」





end.(11.27/2006)

2006.11.27の朝○新聞のとある記事にこりゃ書かないと!と眠い頭が脊髄反射した結果です。

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