本日8月27日、関東選抜主将・須釜寿樹の誕生日である。




「だから何か奢ってもらおうと思って。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」

にっこりという擬音がぴったりな笑顔で差し出された手に、山口圭介は無言のままストローの注されたプラスチックカップを渡した。

「ありがとうケースケくんvところでコレ何ですか?」
「期間限定ミルク夕張メロン(大)。780円。」

ふぅん、と透明なカップに注がれたほんのり黄色の生ジュースを眺める須釜をチラリとだけ見た後、圭介はその隣りに‥‥と言っても歩道の片隅にある低い縁石なのだが、に座り込むと、すそそそそ、と此方は鮮やかなピンクをしたスイカジュースを啜り上げた。
そこかしこで配られている無料情報誌に掲載されていたフルーツパーラー。別に情報に踊らされたわけじゃないが、まぁまぁ当たりと言っていい味だ。
たまに口に入るクラッシュアイスが、照りつける8月も残暑の日差しと真っ向勝負な冷たさで、気持ちがいい。

「美味しいですねぇ。」
「あ、そう。」
「ありがと、ケースケくん。」
「別にいい。誕生日だろ。」
「うん。」

相変わらずの帽子姿、今日は小さな丸いサングラスを掛けていて一層年齢不詳な風の友人を、圭介は目だけで見遣る。

「ていうかさ。」
「はい。」
「俺に生ジュース奢らす為に、東京にいるわけじゃないんだろ?」
「あー‥‥。」

顎先を滴り落ちる汗を見て、こいつでも暑いとか感じるんだな、とぼんやりと思った。

東京に来ていたのは偶然だ。
盆にも帰らなかった都内に住んでいる兄弟を見舞うという名目でやってきた都会は、いつ来ても箍の外れたような熱気に満ちていて、多少うんざりしつつもその喧騒をそこそこに楽しんでいたのだが。

『ケースケくん?』

雑踏で掛けられた呼び声は、確かに東海に住まう自分に較べたら格段に都内に居ても不思議ではない人物のものではあったのだけれども。

滑り落ちた汗が、埃に汚れ白くなったアスファルトを一瞬だけ鮮やかな黒へと戻す。焼けた油の匂いが鼻を掠めた気がした。

「まぁ‥‥ね。そうなんですけど。」
「けどもクソもあるかこのヘタレ。」
「急に会いにいって会えなかったらとか、迷惑だとか言われたら怖いじゃないですか。」

あのコも今お休み中なんですよ、というその顔がどんな風だか自分で見てみればいいのによ、と思う。

「偶然会った友達捕まえて誕生日自己申告して780円のジュース奢らせるのはいいのか。」
「え、オッケーでしょケースケくんイイ人だし僕のこと好きだし友達だし。」
「その定義でいうと真田だってイイヤツだしお前のこと好きだし何よりコイビトだからオッケーだ、オッケー。」

うだうだしてねぇで行けば。と。

すそそそそ、とスイカジュースを啜り上げる合間に早口で言ってやった言葉に、須釜はほんの少し驚いたように動きを止めたのだが(噎せ返るとかすればもっと可愛げもあるってもんなのに)、その後クスクスと忍び笑いを零した。

「うん、だからケースケくんて好きなんですよねー。」
「いい友達を持って幸せだって思っとけ。」

はぁい、とどこか呑気な声は、すっとその距離をあけながらだ。
立ち上がった長身を今度は頭ごと仰のくように見上げれば、視線に気づいた須釜が下を向いてにっこりと笑った。

「じゃぁ僕、行きますね。」
「おう。」

もう誰にもタカるなよ、とその背に投げれば、笑ったのか少しだけ肩が揺れ、その後ヒラリと片手を振られた。
雑踏を縫うように、けれど目的へと真っ直ぐ歩いていく姿勢の良い長身は、8月の日差しをそのまま吸い込んで光っているみたいだと思う。

恋をした人間は輝いてる、なんて少女めいたことなんかが頭を掠めたりもして。

「でもまぁ、実際輝いてる、かな?」

ヘタレだけど。と続けて呟きながら己も立ち上がる。飲みきったスイカジュースのカップを歩き出しざまに店横のダストボックスへと突っ込んで、ふたたび喧騒と残暑の熱気に包まれた街の中へと歩き出す。
そこで、ふと気がついた。

「‥‥そういや、誕生日おめでとうとか言ってねーや。」

まぁいいか。




それはきっと、一つ下の小生意気だが素直な少年が飽きるほど言ってやることだろうから。




end.(08.28/2005)

友達なスガとケースケくん。で、須真。
やっと手に入れたコイビトには格好つけたいというスガ。一馬は誕生日なんて知りません。でも祝って欲しい。けど自己申告‥‥え〜?とかなんとか考えてぐるぐるしてたらケースケくん発見!ちょうどいいや誕生日ってことでタカろう。みたいな。(笑)そういう話です。

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