俺は酷く飽きっぽいって、おんなじ寮の奴ら(名前覚えてないけど)が言っているのを聞いたことがある。
通りすがりにたまたま耳に入ってきたその声。
スタスタとその横を通り過ぎたら、なんかバツの悪そうな顔してたから、悪口、いや陰口のつもりだったのかも知れない。
いつも思うんだけど、アレって楽しいのかな?ヒトの噂話とか。よくわかんないな。
楽しいんならやってれば(言ってれば)いいと思うけど。勝手に。
俺としては他人に何言われようが関係ないし。
でも俺、そんな飽きっぽくないとおもうんだけどなぁ。
そりゃ、熱中するものはたくさんあるけど。
そう、例えばこのお菓子とか、ゲームとか、‥‥アイツとか。
「‥‥誠二。」
「ほえ?なにー?」
「お前、其れ気に入ったのは判るけど寝る前まで食べてんなよ。太るよ?」
「ん、でも気に入っちゃってさぁ。」
「デブったFWは見苦しいと思うけど。」
「たく、世の中のぽっちゃり系の人に喧嘩売ってるよソレ。」
「ぽっちゃり系のFWはきっと数える程度しかいないだろうから、その程度の数なら喧嘩の売買も大丈夫だろ。」
「売買って何だよそれー。」
そう言いながら俺は手に持っていた冬季限定チョコを、箱からガサッと一掴み、ベッド脇に立ってる笠井に渡した。賄賂賄賂。
笠井はちょっと眉を顰めたけど、それ以上は何も言ってこないで、渡したチョコの袋を一個開けながら、俺のベッドの上にポフッて乗ってきた。軽めの体重を受けてほんのちょっとベッドが揺れた。
そのまま寝転がったので、布団の上掛けをはぐって掛けて、一緒の布団にもぐる。あったか。冬はやっぱり人肌が気持ちいいや。
ぽりぽりと、耳元でチョコを噛み砕く音がする。
甘い匂いと咀嚼音につられて、軽いキスをした。チョコの味がした。殴られた。
「痛。殴ることないじゃんかー。」
「俺はタダな男じゃないの。」
「んじゃチョコの代金ってことで。」
「うわ、セコイね誠二。」
ぽりぽりぽりとチョコを食べる。最近の俺のマイブーム商品。
笠井は一個食べ終えて、もう眠くなったらしい。ウトウトしてる。構わずに食べ続けた。
ぽりぽり、ぽりぽり。ああ、美味しいな、コレ。
「なぁなぁ、たくー。」
「ん、何?」
‥‥そう、他人になんて言われようが、関係ないんだけど。
「俺ってさぁ、飽きっぽいかな?」
ちょっとだけ、気になったんだ。
「あー?‥‥飽きっぽいっていうか‥‥ま、サイクルが激しくはあるね、お前。」
「サイクル。」
「そ。」
「飽きっぽいのかー‥‥。」
「ついでに忘れっぽい。」
「‥‥‥‥‥‥。」
笠井の言葉。眠いせいかちょっとなげやりちっくだった。
ぽりぽりと。今一番すきなお菓子を食べながら、俺って飽きっぽいのかと思う。
いつかこのお菓子も飽きちゃうのかな。
いつか、アイツのことも飽きちゃうのかな。
噛み付くような視線とか、結構えっちなカラダとか(絶対初めてじゃなかったよなぁ‥‥ちッ、どっちと先にヤッたんだ?)。
いつか飽きて、俺は捨ててしまうのかな。
だからあんなに、アイツは怯えているのだろうか。
「‥‥別に、いいんじゃないの。それでもさ。」
「え?」
自分の考えに没入していたせいで、一瞬笠井の言葉がわかんなかった。
フイッて笠井の方に顔を向けたら、さっきまでウトウトしてたはずの猫目はパッチリと開いてて、俺を見ていた。
「いいじゃん。飽きっぽくても。」
「‥‥そうかな。」
イイのかな。忘れてもいいのかな。
「飽きて、捨てて、忘れて。‥‥それからまた好きになればいいだけのことじゃん?」
「‥‥‥‥あ、」
ああ。なるほど。
「あったまイイ、たく。」
「今ごろ気づいた?」
そう言って、ニヤリと笑った笠井の顔はすごいカッコよかったね。
俺がその、発想の大転換に目をぱちぱちさせてる間に、笠井はパフンと布団に身を沈めた。
そんで、目を閉じて一言。
「そうでもなけりゃ、とてもじゃないけどあの人に付き合ってらんない。」
ウンザリしたような声で、けど口元が笑ってるのが見えたから。
俺はその言葉に相槌を返しながら、天の邪鬼で口の悪いけれどカワイイ「笠井の」先輩のことを思い出しつつ、声を立てずに笑ってみた。
「お前もいい加減寝ろっての。チョコも今日はもうヤメ。」
「はぁい。‥‥あ、このチョコ残り、全部たくにやるね。」
「‥‥‥‥飽きたの?全く‥‥。」
「ん?イヤイヤコレは相談料♪」
飽きて捨てられるのが怖い?
大丈夫。俺ってば飽きっぽいけど、忘れっぽいからさ。
何度でも好きになるから、心配しないでよ?
end.(10.21.2001)
藤真で笠三。黒い藤代というより性質悪い藤代