煙草は、嫌いだ。

第一に、身体に悪い。
喫煙することで、かなり肺活量が落ちると聞いている。サッカー‥‥プロスポーツ選手として身を立てている上で、それは致命的だ。肺活量はスタミナ、ひいては運動能力に直結していると言っても過言ではないというのに。
自分が吸っていなくても、例えば喫煙者と(例えその場で喫煙していないとしても、喫煙習慣を持つ人物と)同席したら、即座に判ってしまう独特の匂いもどうにも受け付けない。満員電車などで乗り合わせたときはかなり辛いものがある。
体臭が葉っぱを燻した匂いなんだぞ?それってどうなんだ。
そういえば、先だっては煙草の税率が上がったんだっけ‥‥それでも構わず買う人は後を絶たないんだよな。最近では嫌煙ムードも高まって、駅や空港などでの全面禁煙、なんて迫害(というのか?)も受けているというのに。
不思議だ。
お金がかかって、身体に悪くて、多くの他人からは嫌がられる。なのに何で、と思うのだ。

‥‥思うのだ、けれども。

「‥‥‥‥何?渋沢、」
「いや、別に。」
「ンだよ、別にとか言いながら見てんじゃねーよ。っつか、吸いたいの?」
「いや、そういうわけじゃない。」
「だよなー、お前昔っからそういうところ、キチンとしてるもんな。」
「‥‥どういうところだ?」
「スポーツ選手が喫煙なんてもっての外!とか思ってるところ。」
「ああ‥‥‥まぁ、な。」

歯切れ悪い言葉を返せば、目の前のスモーカーはくつくつと笑う。
指先に慣れた様子で挿んだ煙草からは、かすかに甘い、紫煙。
見るともなく、真っ直ぐに立ち昇る姿を追う。

「お前らしいよ、そういうの。」

呟き声に目を遣れば、色づいた吐息の如く、笑んだ口元から淡い色。




目が、合った。




「‥‥‥‥苦い。」
「バーカ、この苦味が好いんだっつの。」

キスの距離を保ったままの言葉に、軽い笑いを含んだ声が返る。
眼前の面から伏せるように視線を外せば、火傷をしないようと気遣ったのか、腕ごと遠く離された指先から、淡く立ち昇る色。低温の橙の焔。
それを反射する、整った顔立ち。

煙草なんて、嫌いな筈なのに。

「‥‥‥‥三上の味がする。」

この味は、嫌いじゃない、と。

その呟きに返るのは、密やかな笑い声。 近づいてくる口唇に、再び静かに瞼を下ろす。
閉ざされる視界の端で、長く綺麗な指先が煙草を揉み消す姿を捉えた。




瞬間煌いた焔がたなびく白を熱く照らし、静かに二人の吐息に紛れて、消えた。




end.(01.18/2004)

プロリーガー渋沢と、小学校教諭三上。大人パラレル書くなら煙草ネタは外せないでしょ!

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