昨日の続きが今日で、今日の続きが明日。
それは当然、それは本当。
‥‥本当に?
入浴を済ませて自室に戻ったら、見慣れた同室者が見慣れないもの片手に見慣れないものを目の前において見慣れない作業をしていた。
‥‥ので、とりあえず驚いておく。
「わぁ驚いた。」
「イヤイヤイヤそれ驚いてねーよな。」
いや、驚いているぞ本当に。そう思いもしたが、口に出すのはやめておく。
いい加減長い付き合いだ、下らないことで寝る前まで口論なんて面倒だし、なにより、振り返りもせずに作業に集中している三上が、なんだか、こう、面白かったからだ。‥‥いや、面白いは違うか?珍しい?確かに珍しいがそれだけじゃなくて、もっとこう‥‥
「つか渋沢、とりあえずドア閉めろ。」
「ああ、うん。」
「洗面器を置いて髪を乾かして朝練のメニュー確認して布団に入って本日の悪事を反省して、そして寝ろ。おやすみ。」
「ああ、うん。おやすみ。メニューの確認はもうしてる。ていうか悪事?」
「お、や、す、み。」
一文字づつ強く区切るように強調された言葉と一緒に、三上がここに至って漸く顔を上げた。床に直座りした三上と閉めたドアの前に突っ立っている自分、普段はさして感じない視線の高低差はかなりのもので、なんだかオカシな感じだ。
まぁ、一方は手に洗面器他入浴セット、一方は彫刻刀と包丁、という持ち物も大概オカシな感じではあったが。
「ジャック・オ・ランタンか。」
「カボチャの煮つけでも作り始めるように見えるか?」
いや見えないけどな。
けれど深夜に自室で彫刻刀片手にカボチャ細工、というのも大概だろうし、ちょっとくらい混乱してもいいのではないかと思う。
とはいえ、カレンダーとほんの少しの宗教知識、むしろ日本ではお祭り知識か?があれば、解らないでもない行動なのだけれど。
「ハロウィン。」
「そう。」
「それで、カボチャのランタン?」
「そう。」
いつだって、どこか眠たげで不機嫌そうな表情の三上は、今も不機嫌そうな表情で黙々と目の前に置かれたカボチャを彫刻している。
「渋沢。」
「何だ?」
「昨日の次は何だ?」
「今日だろう。」
「じゃぁ今日の次は?」
「明日。」
「だよな。」
「だな。」
「でも、それじゃ楽しくねぇし。」
新聞紙の上のカボチャ、彫刻刀と包丁、中身を出すためのスプーン。そして不機嫌そうな表情の、本当は楽しそうな三上。
昨日の続きが今日で、今日の続きが明日。淡々とした毎日。
淡々とした表情の、凛と伸びた背中を思い出す。
淡々とした日々を彩る、三上のひとりだけの、特別な人。
「‥‥まぁ、特別な日を演出というのも、アリかもしれないな。」
「だろ。」
洗面器を置いて髪を乾かし、メニューの確認は終えているから布団に入って、一言そう言ったら、聞き慣れた声音の、少しだけ楽しげな肯定が返ってきた。
横倒しになった視界には、カボチャを相手に集中しきりの同室者の、ちょっとまるまった背中。その姿はなんだかこう、面白い。‥‥違う、珍しい。ああこれもまだ違うな、そう、言うなれば‥‥
「可愛い、だな。」
「は?何か言ったか?」
「いいや何でも。‥‥それじゃ三上、おやすみ。」
「ん、ああ、おやすみ。」
呟いた声は静かな室内において幸いにも三上の耳には届かなかったらしく、相変わらず彫刻刀とスプーン片手に作業を続けている。就寝の挨拶にヒラリと利き手に持ったスプーンが振られた。
微かにカボチャ色に染まった銀が電灯の光を弾いて酷く眩しく、そのまま目を閉じて眠ることにした。
不機嫌そうな表情の可愛い親友が、淡々とした表情の可愛い不破と、特別な日を過ごせますように、と。
悪事を反省する代わりに何となく祈ってみたりして。
end.(10.31/2005)
ハロウィン記念。未完で終わっちゃいました。
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