昨日の続きの今日と言う普段。
‥‥でも、それは
「いつから調理実習室は技術室になったんでしょーかー?」
「‥‥うっさい中西。食材持ってるだろ、家庭科室でいんだよ。」
カラカラカラと、なんとも太平楽なスライドドアの音に合わせて、呑気な声音で皮肉れば、なんとも苦しい言い訳が返された。横目に睨みつけてくる視線に肩をすくめて返答とし、カラカラカラとドアを閉める。
遠く聞こえる、昼休みを迎えた校内のざわめき。
パタリと閉じきるドア音が、やっぱり呑気な音だと思った。
「4限サボったって?」
「近藤かよ」
「不正解、渋沢でしたー。」
「‥‥もともと自習だったんだよ、4限は」
調理実習室は大きな調理台と窓際に大きく取られた水場で、普通教室2つぶんの広さになっている。テニスコートに面した南側は、シンクの端から天井まで届く高さのある窓で、柱に沿うようにして換気扇が設えられていた。
特別教室棟の2階。授業外でくる生徒は、少ない。
中西は大きな机を幾つも迂回しながら、暖かい秋の光を落とす窓際へと、正確には、窓際にあるローチェストほどの高さの器具庫を椅子代わりにして細工物を作っている、幼馴染みのもとへと歩み寄った。
覗き込んだ手元には深緑とオレンジ色の、三上曰く『食材』。
「でもそんだけ中身無くっちゃ食材になんないよねぇ。」
「‥‥‥‥元食材。」
「苦しいねアキ。」
「うるせぇ。カボチャ食いたきゃ食堂行け、食堂。」
会話の間もその手が止まることはなかった。ザリザリと掻き出されるオレンジ色が、隣に置かれた皿の中に小さな山を作っている。
隣に座った。
秋分もとうに過ぎ、次第に南中点の高度を下げていっている太陽が、調理室に広く光を零している。隣に座り作業をしている幼馴染みの深緑の制服が光を受けて、新緑色に見えた。秋なのにな、とぼんやりと思う。
「秋かぁ‥‥。」
「んあ?何だよ、」
「あ、違う違う、Autumnの秋。」
「‥‥。アキって呼ぶなよ。」
「返事したくせに。」
そういってぺたりと背中に懐けば、肩越しにちらりと視線を投げられたが、中西は構わずに肩口に顔を埋めた。
窓からの日差しに曝されて、いつもの体温よりやや高い。腕を動かしている筋肉が、ザリザリとカボチャの中身を削り出す音に合わせて動く。
目を閉じればそのぶん澄まされた耳が、漣のように遠くさんざめく校内の音を捉えた。それにふわりと乗るように、三上の手元の音が重なる。
普段は絶対に聞かないだろう音。
普段はこんなこと、しないだろう幼馴染み。
昨日の続きの今日と言う普段。‥‥でもそれは、
「アキ。」
特別を見つけた瞬間に変わる。
「よかったね。」
不意にバラバラと軽いものが頭に降って来た。
小さくて軽い感触に、中西は顔を上げる。
「‥‥何、」
「やる。」
「え?」
上げた視線で周囲を見回していたところに、至近距離からの幼馴染みの声に、反射的に顔をやる。緩く振り向いた三上の顔が、鼻先が触れるほど近くにあった。
小さな頃からずっと一緒だった、幼馴染み。
カタリとスプーンを置く音がしたので、肩に置いた手を緩く離した。
上体を捻るようにした三上は、無表情にごく近い位置にある幼馴染みの顔を一瞬見て、リノリウムの床に落ちた小さな欠片を拾った。
「やるよ。」
「何、」
「treat.」
そう言って、制服の胸ポケットに押し込まれた小さなキャンディを、中西は不思議な、というよりいっそ奇妙な気分で見遣った。
「‥‥甘いもの嫌いが、珍しいもの持ってるなぁ。」
「珍しいだろ。」
「うん。」
「これも特別ってことだろ。」
「‥‥え、」
ごく間近、囁くように言われた言葉と、一瞬だけの笑顔と。
「‥‥アキ、」
「何だよ」
再び背を向けてランタン作りにもどった幼馴染の背に声をかけた。
もどってくる、普段どおりの、どこか不機嫌そうな声。
けれど、もう。
「アキー。」
「だから何だって。」
「ありがとね。」
title/『evergreen』
end.(10.31/2005)
これもハロウィン記念。基本は幼馴染み設定。永遠変わらぬ緑、の意味。
これに本当は不破有希と三不破が続くはずでした。