集中を切らさないでいる。




『その瞬間』がいつ来るかは、解らない。
‥‥否、いつ来るか、それこそを知る為に、集中する。
常に考え、1秒でも先を読み、数多の予想の中から最も可能性の高い筋道を限定して。
そして、潰す。
まるでもとから無かったもののように。跡形もなく。

前を見据えて、迎え撃つ。

其れが仕事。
そうやって、守りとおす。
後ろにある、抱えている、全てを。

「ディフェンダーって、そういうものだと思ってます」

締めくくるように最後にそう言いきれば、そうか、と返された。
低く落ち着いた、ゆったりとした声。‥‥自分とは、まるで違う。

(それはとても優しくて、)

「‥‥コーヒー、熱かったか?」
「え?‥‥いえ、はい」

あんまりにも曖昧すぎる返事に、その人が軽い笑い声を零す。
頭上から降ってくるような其れに一瞬顔を上げかけて、けれど結局、俯いたままだった。
手渡された缶コーヒーは素手で持つには少し熱かったけれど、持てないほどじゃない。けれど空いた片手が妙に落ち着かなかったから、時折り持ち替えては、空いた手のひらから抜けていく熱を追うように、だらりと下げた自分の指先を見ていた。

「笠井は、とてもディフェンダーらしいな」
「‥‥そうですか?」

うん、なんて普段他の‥‥藤代とかは除いて、後輩に向かって使っている鷹揚な声とは違う、少しくだけた、親しげな口調。笑みさえ含んで。
顔が、上げられない。

(優しくて、甘くて、)

予測はしていた。
考えて、先を読んで、その道筋を読み切って、‥‥潰せると。
潰さなくては、いけないと。
まるでもとから無かったもののように。跡形もなく。

(‥‥それは、俺だけに向けられる)




‥‥その想いを、受け入れては、いけないと。




「笠井、」




集中が切れる。その瞬間、たった一瞬。




手のひらから缶コーヒーが滑り落ちる。
それは結構に高い音を響かせて床に落ちたのだろうけれど、もう聞こえなかった。
代わりに指先に与えられた熱はずっと熱く。
引き寄せられて抱き締められた腕と身体は、熱く、強く。
‥‥いっそ悔しささえ感じるほどに。




「‥‥キャプテン」
「何だ?」
「そういえば貴方もとから俺の後ろに陣取ってたんでしたね」

悔しい、と本当に悔しくて抱き締められたまま呟いたら、その人はやっぱり軽く笑ったようだった。





end.(08.03/2007)

一瞬の隙も逃がさずに。もうとっくに受け入れていたのだけれど。
渋笠はポエムな感じが大好きです(笑)

back