『寝ても覚めても忘れないよ。』




「それって、無理かな」
「無理だろ」

三上は髪を拭うタオルの隙間からその声の主へと目を遣りながら、一言で答えた。

ベッドの上掛けの更に上に身体を投げ出して、胸の上には開いたまま伏せた本。
その本に添えるように手を置いて、瞼を閉じて動かない幼馴染みの姿は至極見慣れた光景だったが、三上は眉を顰めて言を継いだ。

「布団入れよ。風邪ひくぞ」
「んー、アキが来てくれたら入るー」

年端も行かない子どもめいた言葉を紡ぐのは、聞き慣れた声で。
三上は肩をすくめると、湯を含んだ髪を丁寧に拭った。
タオルに吸い込まれていく水分は、刻一刻と冬の大気に熱を奪われていく。
ゆっくりと使った湯は身体の芯まで温めてくれていたが、流石に冬の夜ともなるとその効果は長時間とまではいかないらしい。

カタカタと、凍夜の闇を填め込んだ窓が鳴いた。

早めに布団に入ってしまわなければ、こんな夜は下手をすれば寒くて眠れない。
寝巻き代わりの薄いシャツ姿で、上掛けの上に寝転がっているなんて論外だ。

カチリとドライヤーのスイッチを切って振り向いた三上の視界には、先ほどと変わらぬ光景。

「中西」
「だからー、アキが来たら入るってば」
「ったく‥‥。オラッ、一旦どけよ、布団はぐれねぇだろ」
「ん。」

のそのそと起き上がってベッドの上を移動する幼馴染みを、邪魔とばかりにヒラヒラとてのひらを振って退かせると、三上は上掛けを捲った。
と同時に、バサリと何かが落ちる音。

「っと、悪ィ、本、落とした?」
「ん?ああ別にいいって。‥‥あ、ついでに机に置いといてー」
「‥‥‥。」

拾い上げた本を言われたとおりに置いて振り返れば、捲ったはずの布団はひとりぶんの身体を包んで元に戻されており。
三上が微妙な表情でベッドサイドに立つと同時に、その端がさっと内から捲り上げられ、軽やかな笑みと声に迎えられた。

「さ、アキー。どうぞー」
「‥‥‥‥‥‥。」

何かもう、何を言う気力も失せたといった風情で、三上は部屋の灯りを落とすともそもそと捲られた布団の中へともぐった。柔らかな布団の中、身体を落ち着けたところでふわりと上掛けを直されて、ふと目を上げれば直ぐ傍にほんの少し笑みを含んだ幼馴染みの其れ。

同じ布団の中、伝わってくる体温は幼い頃も、今も、何の変わりも無く。

「‥‥‥‥『寝ても覚めても、忘れないよ』、だったか?」
「ん、そう。さっきの本にあったから」

囁くような声は、明かりを落としてほんの少し静けさを増した室内に、相応しく。

「‥‥そんなん無理だろ。寝てる間って、そんなんコントロールできねぇっての」
「えー、無理かなぁ。まぁ、そこはホラ、気合いで?」
「何の気合いだよ‥‥。っつーか気合いとは無縁のクセに何言ってんだか」
「あー、そいやそうだね、無理だね」
「諦め早ェな、オイ」

呆れたような三上の声に、クスクスと忍び笑いが返される。
布団の中の空気が揺れて、丁寧に乾かした三上の髪がふわりと揺れた。
そして囁くような、否、耳元で、囁かれた声は。




「でもね、ホラ、俺ちっちゃい頃からずっと一緒にいて、これからもずっと一緒に居る予定だから。アキのこと身体に染み付いてる気がするんだよね。だから多分、寝てても忘れないと思うよ。」




冬の夜、灯りを落とした部屋の、暖かな布団の中。
ヒタリと視線を絡めて数秒、三上は緩いため息を落として呟いた。

「ていうか、寝る前に目ェ覚めるようなセリフ吐いてんじゃねぇよ。」
「それじゃ、寝ても覚めても忘れられないようなことでもしようか?」

そんな囁きと一緒に触れてくる、昔も今も変わらない体温と、やわらかく重ねられた口唇に、三上はため息の代わりに瞼をそっと、降ろした。




title/『寝ても覚めても忘れないよ』
end.(../2005)

幼馴染み中三。仲良し幼馴染みが一緒に寝るの可愛い。
この二人はフィジカルな関係はちゅーだけかも。でも一緒にいる。
『恋天』様よりお題拝借。適度にシャッフルして8つほどこなしたい気分です。
此方様のお題はラブい気分になる上、サイト内の語り口がオモシロ可愛いのですv


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