『渋沢克朗』を、誰もが出来た人間だと誉めそやす。
けれど、そんなにいい人間じゃないことは自分が一番良く知っている。




「‥‥から、京介のドイツでの滞在先にあるスタジアムに行ったのだが、‥‥」
「うん」

話を聞く。時々相づちを打って。
そうすれば、意外なほどに話好きな彼は、淡々としたキレイな声で話をする。

「‥‥その時の風祭と水野のやり取りは、佐藤が間にいたから」
「そうなんだ」

傍に座る。お茶を入れてあげて、目を見て。
クールな外見とは裏腹に付き合ってみれば驚くほどに素直で可愛い性格で、知れば知るほど好きになる。
姿かたち、話す言葉、感情、声、肌の温かみや唇の感触まで。
それらはとても愛すべき、大切にすべきものなのに。

不破の話を聞く。それはハトコだったり、チームメイトだったり。
それらは、俺の知らない不破だ。自分の見たことの無い、彼の世界の話。
そこに、俺は、『渋沢克朗』は居ない。

‥‥それだけで気分が悪くなってくる。腹が立つ。
自分の前にいるのに、俺以外の人間のことを考えないでくれと。

彼の世界を尊重したい、大切にしたいのは本当。
けれど、それがたまらなく腹立たしく憎らしいのも、事実。
我が侭で自分勝手で、独占欲のかたまりだ。
‥‥でも表面上は穏やかな顔で聞いているから、本当に始末に負えない。

不破は自分のことを信じきっているように見える。
だからこそ、触れたときも受け入れてくれたのだろう。恐らく他の誰も知らない顔を自分だけが知っている。それもまた事実としてあって、それでもなお、それ以上に自分のことを見て欲しいのだ。

引き寄せてキスをする。
驚いたように身体を一瞬強張らせたけれど、力を抜いて身体を寄せてくれた。

「‥‥そんなに俺のこと、信用しないで。俺はそんなに出来た人間じゃない」

ちょっと驚いた顔の不破。
ほろ苦い気分でその顔を見守っていると、思わぬことを言われた。

「俺はお前のことを、出来た人間だと思ったことはない」
「え、」
「そもそも『出来た人間』の定義が俺には不明だ。他人と軋轢を生じない、何事も月並み、若しくはそれ以上にこなす、といった意味ならば確かにお前がそうと言えなくもないが‥‥」

けれど、それは違うのだろう、と彼は言う。
その言葉を、ただ、聞く。

「ただ言えることは、渋沢という人間が俺は好きで、信用しているのだ。『出来た人間』だからお前の傍にいるわけではない」

ああ、この人は。本当に、

「‥‥うん」
「渋沢?」
「ありがとう」

出来た人間だと誉めそやされる。
別に、それが負担なわけではないのだ。他人と軋轢無く付き合うのは無理やりにしているわけではないし、ここにこんな性格でいるのは自分の意思なわけで。
実際のところ、他人に出来た人間と呼ばれようが、いつか失望されようがかまわないとさえ思っているのだけれど、でも不破にだけは、幻滅されるのがいやだった。

『出来た人間』ではないと、彼はそばにいてくれないかもしれない。
怖かった。
自分はそんなに良い人間ではないのだ。それは自分が一番良くわかっていたから。

けれど、




(それでもいいと、君が言ってくれるなら)




「‥‥ありがとう」




「まぁ、出来た人間の定義は保留として、渋沢はイイ奴だと思うぞ」
「‥‥こんな俺に付き合ってくれる不破のほうが、イイヤツだと思うけど」





title/『Sequence Meditation』
end.(2007.05.12)

タイトルは AXS から。我が青春時代(笑)

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