自分は『頭が良い』らしい。
それが専らの周囲の評価だ。

彼らのいう『頭の良さ』は、単純に計算能力や記憶力、先天的なものも含めた器質的問題、現時点での事実確認めいたものに過ぎず、本来だからどうと言うわけではないものだ。一般的な基準値からすれば、演算能力が高いとか、身体能力が高いとか。そういう話だ。それだけの、話だ。

とはいえ、それらの周囲の事実認定を否定するわけではない。

記憶力や演算能力が高ければ、より多くの知識を効率よく学習、吸収できる。
身体能力が高ければ、運動競技を実践的に学習でき、生成の経過、一般に普及するに至った理由などの分析の一助となることが多い。

自分は、彼らのいう『頭の良さ』に由来する解析容量が平均より若干広い。そういう意味では、『頭が良い』という他人の言葉を否定する謂れはなく、また己もその評価を否定することもない。
自分は頭が良い。それは事実。

しかし。

「‥‥‥‥お前の言葉は理解に苦しむ。」
「いいよ、それで」

解らなくていいんだ。そういって、笑う。

苦しいと思うのは、解らないからだ。現時点での自分の知識と能力が処理できる容量外の言動だ。
知らないことを知りたいと思う欲求、それは正しい筈。しかしそれさえも「解らなくていい」と否定される。その否定の理由も解らない。解らない事が多すぎる。

「‥‥解らない」
「うん、ごめんね」

そういって、笑う。ただ、笑う。

謝罪など欲しくはない。欲しいのは解答だ。正しい知識が欲しい。

何故、お前は笑うのか。
何故、優しく頭を撫ぜるのか。
何故、‥‥何故、泣きそうになってまで、笑うのか。

お前がくれた、言葉の意味は。

「ごめん」

謝罪などいらない。
否定など要らない。
悔しい。
憎らしい。

‥‥何故。

「好きになって、ごめんね」

苦しい。
心が、痛い。

‥‥何故。

「それでも、不破のことが好きなんだよ、ずっと、凄く、好きなんだ」







知識を越えた場所を撃ち抜く言葉。
何かが溢れるような、‥‥何かを、受け取るような。







(撃ち抜かれたその場所は砕けて壊れ受け取った言葉と思いによって再構築されて、それは新たな知識の収納場所となり、そして、)















「‥‥ということがあったな」
「あー‥‥」

抱き締めようと此方に伸ばした腕はそのまま、しかし視線は逸らすという器用なことをしてのける相手に対しては、襟首をひっつかんで此方へ向かせるという対処方法をすでに学習済みだ。
立位の相手を座っている自分が強引に引き寄せたのだ。前触れなしの動作はかなりの負荷をその身体にかけたはずではあるが、今は斟酌などしない。
さすがのボディバランスで踏みとどまった相手から絶妙のタイミングで手を離し、しかしその身体が逃げる前に今度は顎先を指で捕らえてホールドする。

「渋沢」

そうして名前を呼べば、こいつはもう動かない。
それらはすべて学習の成果だ。
あの日からこちら、全てにおいて新しい知識と感情を学んできた結果と思えば、多少浮き立つ気持ちもおかしくはないだろう。

「‥‥不破くん、ちょっと笑顔が怖いよ」
「失礼な。‥‥ああ、お前はそういえば告白のときから失礼だったな。大体『好きだ』と告げると同時謝るヤツがあるか。失礼にもほどがあるぞお前。言われたほうの身にもなってみろ。自己完結されては応えようがないではないか、全く」
「‥‥はい、全くそのとおりですごめんなさい、だからあの、不破くん」

手を離して、と言われる前に軽く重ねるだけのキスをしてから、軽く向うへ押しやるように解放する。不意をつかれた人間にありがちな抵抗無い動作で、渋沢は隣りへと腰を落とした。脳内でのシュミレーションどおりの動きだ。

「‥‥不破くんは、さぁ‥‥」
「む、なんだ」

ため息をつかれるのはシュミレーション外だった。なので、呼び声に素直に応じて其方を向けば、緩い拘束と温かい体温を与えられた。
とても、気持ちがいい。
気持ちがいいと、渋沢に教えられた。

「‥‥意外性の塊というか。いやそれは想像どおりだったけど。あと可愛いし」
「その並列はおかしいぞ渋沢」
「え?そうかな」

そういって人の頭上でウンウンと唸り出した渋沢に、擦り寄って抱き締め返す。温かい身体は、とても気持ちがよい。

「渋沢」

呼べば、こちらを向いて笑う。
嬉しい。
気分がよい。

‥‥何故。

「不破くん、好きだよ」
「今度は謝るな」
「うん、もう学習したからね」

微笑んでくちづける、そしてまた抱き締められる。
気分が良い。
気持ちが好い。

‥‥何故。







「‥‥その理由は、もう知っている」







何か言った?と問いかけてくる渋沢に、なんでもないと目線で答えてから、触れてくる指先に逆らわずに目を閉じた。

これから先もまだ、学習すべきことは多くあるのだろう。
まだ触れてはいない知識も世界には無数にある。
演算能力、記憶力、身体能力。それらが人より若干勝っている『頭が良い』、それは事実。それに今は、心を、貰ったから。

これからも、少しずつ学習していく。
これからも、少しずつ広がるだろう、想いとともに。




title/『高等難解恋愛論』 end.(05.07.2007)

拍手で渋不破リクを貰って。
不破の学習能力の高さに渋沢はびっくりしてればいいと思います。
「でもそこが可愛いんだけどな!」
「あーハイハイハイわかったら。もーウゼーよお前」
「‥‥いや解られても困るんだが三上。あの可愛さは俺だけのものっていうか」
「‥‥‥‥。本気でウゼー‥‥」


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