その声にまるで掬い上げられたかのように半ば伏せていた顔を上げた不破に、呟いた三上のほうが驚いた。
たくさんの音を全部浚い上げてシェイクしてからもう一度ぶちまけたみたいな、地下鉄特有の轟音が、適度に混んだ車内をぬるい空気と一緒くたになって満たしている。
呟き声なんてかき消してしまうにきまってる、そんな音。
気がつかないに決まってる。
もしも自分だったら、気がつかない。
なのに。
いつもながらの淡い表情でくるりと辺りを見回して、一度瞬きをしてから席を立ち、人波を縫うように歩いてくるなんて。偶然だな、なんて淡々とした声音で話し掛けてくるなんて。
「‥‥オマエ、なんで気がつくんだよこの状況で」
混んだ車内。唸りを上げる轟音。
気がつかないに決まってる。
もしも自分だったら、気がつかない。
なのに。
「ならば、三上は何故俺に気がついた?」
「それは、」
そんなの、俺が不破のことが
「‥‥仕方ねぇだろ、気づくモンは気づくんだよッ」
「そうだな、仕方がないことだ」
こっくりと、妙に芝居じみた大げさな頷きと、やっぱり淡々とした口調に少しムカついたりもしたのだけれど。
車内を満たす轟音にかき消されるような不破の囁きも、捉えてしまったので。
「好きな相手に気づけないなんて、そんなこと出来ないから」
「‥‥‥‥‥‥仕方がねぇなー、ったく」
「全くだ。」
明後日のほうを向きながら頷きあう、二人ともの頬が微かに赤いのは、気づいているのかいないのかは。
それは二人にしか、判らないことだ。
end.(11.03/2004)
目に見えない赤い糸なんて信じないけれど、よくわからない『何か』が存在してしまう、それがコイビト関係というものです。
back