例えば、振り向いてくれないかとか、触りたいとか、手を繋ぎたいとか?
「‥‥イヤイヤイヤイヤありえへんやろ。どこの乙女やの俺」
「ぬ、何か言ったか?」
「へ?あ、いやなんでも!なんでもあらへんで?!」
振り返った不破にブンブンと首を横に振りつつ答える様は、あからさまに挙動不審だっただろうが、どうやら不問に処してくれるらしい。珍しいなと少し思うが、その珍しさが今は救いだ。
再び前を向きスタスタと歩いていく後ろ姿を追う。追いながら、後ろ姿観賞。しかしまぁ、いつ見ても姿勢がいい。最近松下に言われて筋トレメニューを変えたとかなんとか言っていたが、‥‥背筋というか、肩甲骨のあたり?その辺に張りが出てきたような。ああ、触ったらそれはさぞかし‥‥
「どうかしたか」
「は?何が」
「‥‥。人の背後から手を伸ばしての接触というのは、人を呼ぶ手段と取るのが一般的だと思うのだがな」
「‥‥うぉ!?」
呆れ口調に、跳ね上げた腕を意味もなく背後に隠す。
手のひらに残る体温が失われるのが少し惜しいと思った。‥‥予想どおりの、予想以上のしなやかさはしっかり記憶しているあたり、なんかもう、‥‥困る。しっかりしろ俺。
「な、なんもあらへんでー」
「‥‥そうか」
その一言で、再び不破は前を向く。これまた不問らしい。
なんでも追求したがる不破なのに、ずいぶんと珍しいと思い、‥‥思って、いきなり血の気が引いた。
「不破!」
「なんだ」
「俺のことどうでもエエとか思ってへん?!」
「‥‥‥‥‥。なんというか、お前は本当に行動がいきなり過ぎるな」
これでもかと呆れたため息をつかれたが、今はそれどころではない。呼び止めて、目を見て、問い質す。
なんでもないなんて濁すわけにもいかない。
「どうでもいいとは思っていない。ただ、どうして言わないのかとは思っている」
「へ?」
「振り向けというのなら言えばいいし、触りたいなら触ればいい。何をされてもかまわんが‥‥ただ、『なんでもない』というのは止めろ。俺としても、そう言われると、そうか、としか言い様が無くなる」
‥‥‥‥なんでもないなんて、濁したらいけない。いけなかった。
「不破」
「何だ」
「振り向いて欲しいやけど」
「振り向いてるが」
「触りたい」
「触ってるだろう」
「‥‥手ェ、繋ぎたい」
「そうか」
なんの躊躇いもなしに伸ばされた腕が、手のひらが指先が触って、絡んで、繋がれていくのをじっと見る。
「これでいいか?」
「‥‥不破センセは、あれやねーなんちゅーかもうホントに、」
「どれで何といってもう本当に、なんだ?」
‥‥例えば、振り向いてくれないかとか、触りたいとか、手を繋ぎたいとか。
それを不破は躊躇い無く叶えてくれて、こうして傍に居てくれて。
だから、何ていうかもう本当に。
「‥‥好きやわ」
end.(2007.07.08)
街で見かけた可愛い高校生カップルを見て。手を繋いで、仲良くね。
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