「三上、おでんを買いにいくぞ」

キテレツな内装の玄関先で、冬の冷気に凍ったように冷え切ったコートもマフラーも靴さえ脱ぐ間もなく告げられた台詞に、つきかけたため息を無理やり飲み込んだ。

「‥‥で?それはバカ犬か、それとも年齢詐称キャプテンか」
「藤代だ」

上がりかまちに腰掛けて、丁寧にブーツの紐を締めている不破の頭のてっぺんを眺めながら、返ってきた名前に今度こそため息をつく。

『冬といえばコンビニおでん!っつーわけで三上センパイ!レツゴ★』
『レツゴ★じゃねー!‥‥あああもうッ引っ張んな!』
『ははは、犬は喜び庭駆け回りというヤツだな。頑張れ、三上』
『わざとらしい爽やか声で笑ってんじゃねぇ!ていうかコイツを止めろ!』

強引なバカ犬に引っ張られ、意外と酷い事をさらりとのたまう親友と共に、雪の舞う夜道を走ったのはつい先日。
ほかほかのおでんは冷えた身体にそれなりに美味であったのだが。
いっそ面白いくらいに物知らずな不破が、口にするどころかその存在さえ知らなかったのだろうコンビニおでんに興味を持ったのも分かるのだが。
だからといって、少ない自由時間を恋人とイチャイチャしようと走ってきた、雪こそ無いが冗談みたいに寒い夜道に、なんだって即リターンしなければならないのか。

「‥‥あのな、不破」

だから、言おうと思った。
外は寒いからとか、おでんが食いたいなら今度買ってきてやるからとか。
そういうことを、言おうと思ったのだ。

が。

「一緒に行って楽しかったと、藤代は言った。‥‥アイツだけ、ずるい。俺も三上と一緒に行きたい」

仰のくように見上げてきた視線に、降参のため息をつく。

「‥‥ついでに豚まんとカレーまん買うか」
「いつも思うのだが豚まんと肉まんの違いは何なのだ?製造方法か内容物か、それとも地域の慣習による差異が‥‥」
「ハイハイそういうのは歩きながら話しましょーネ。ていうかオマエ薄着過ぎだっつの。何かはおるもの‥‥ああもういい、コレ巻いてろ」

脱ぎにくそうなブーツを履き終え、上がりかまちに座っている不破に、首から外したマフラーをまきつける。首に触れた毛糸に驚いたのか、んむ、と不破が小さな声を立てて、立ったままの自分を見上げてきた。
上から手を伸ばして巻きつけたからか、顎先と頬がマフラーに埋まってしまっている。かろうじて覗いている薄い唇に、屈みこんで、ちゅっと音を立ててキス。
普段の淡々とした表情が冗談みたいな、目を丸くして驚く不破に、ニヤリとキスの距離で笑いかけてから、一気に上体を起こしてキテレツなドアを勢い良く開ける。

「っしゃ、おでんが俺を待ってるぜ!」
「‥‥むッ、待て三上!」

冬の冷気に凍りつきそうな、冗談みたいに寒い夜道。
即座に追いかけてきた不破の、後ろから掴んできた手のひらのあったかさに笑いそうになりながら、あったかいおでんの待つコンビニへと、走ることにした。




title/『ウィンターマリーゴールド』
end.(2007.01.07)

Tagetes Patula:マリーゴールド 「輝けし聖母マリアの花」
春から秋まで咲き続ける花です。うちでは冬でも咲いてる。
あんなに可憐なのにものすごいタフネスなあたりがかわいい。
花言葉「常に可愛らしい」