ドアを開けると、菓子の載った皿を前に三つ指ついた友人達が端座していた。
「‥‥‥‥。」
「ちょっと一馬、なにドア閉めようとしてるの。」
「そうだぞ失礼なー。」
閉めようとしたドアは難なく阻まれ、敢え無く逆戻り。
「‥‥‥で?」
「本日の菓子はまめ大福でございます。」
「日本茶じゃないと駄目でございます。」
微妙な日本語だ。英士はともかく結人のそれはどうなんだ。微妙すぎてうっかり俺の表情まで微妙になってしまった。
「‥‥‥だから?」
「ホラホラ一馬、何か思い出さない?」
「そうだぞ、一馬ー。まめ大福と日本茶だぞー?」
と、申されましてもですね。(つられて微妙な日本語)
「‥‥‥別に、何もないし。」
「そっけないなぁ、一馬。」
「愛が足りないんじゃねぇの?」
好き勝手なことを口々に言いながら友人達は立ち上がると俺の脇をすり抜けて、先ほど俺を閉じ込めた(?)ドアをくぐって部屋を後にする。
「今日の本当のお菓子はリンゴのコンポートだよ、一馬。」
「俺カフェオレにしたい、英士今日牛乳あるか?あ、一馬ミルクどうするー?」
フェードアウトしていくその声を背後に、部屋に残されたのは俺と、皿の上のまめ大福。
此処に至って漸く提げていた鞄を下ろし、軽く息をつきながらこの部屋の定位置に座る。何度も来た部屋。見たことないものなんかない場所。
見たことないのはそれこそ、皿の上のまめ大福くらいで。
何か思い出さないか、って言われても。
ちょいちょい、と触れてみる。ふに、と音がしそうな感触。やわらかいけれど確かに其処にあって、地味なクセに存在を主張する。さらさらとして、ちょっと冷たい。ほんのりと甘い匂い。
‥‥何か思い出さないか、って言われても、ね。
嬉しそうに食べる、あのひとの、
「‥‥一馬お待たせ。」
「ていうか牛乳くらい買い置きしとけよ英士、大きくなれねぇぞ?」
「結人みたいに横にばかり大きくなるのも問題だと思うけどね。‥‥って、え?」
「うっせェ結人サマのダイナマイツバディを保つには‥‥んぁ?」
「「一馬?」」
人の気配のない部屋を、二人は見回した。
本来の居主である英士は勿論、幼馴染みである結人にとっても見慣れた部屋に、あるはずのもう一人の幼馴染みの姿がない。
一瞬戸惑った二人はけれどその後見つけた友人の名残りに、顔を見合わせて笑ったものだ。
見慣れた字で書かれた、見慣れない書置きと。
一口だけかじられた、彼の恋人の好物であるお菓子。
『行く。思い出させたお前らが悪い。』
‥‥何か思い出さないかって、言われても。
思い出したら会いたくなるから、思い出したくないんだよ。
一口かじって、知った甘さはもう忘れられない。
end.(09.15/2003)
『一口だけまめ大福を齧る一馬』が書きたかったのでした。
男らしくガッと一口で全部食うのも可愛いけどな!
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