部屋に戻ると、ほのかに甘い香り。
ルームメイトが、林檎を食べていた。

「もらった。」

誰かに届いた差し入れを貰ってきたのだろう。
全国各地から集う寮生ともなれば、実家から何が届いてもおかしくはない。
そういえば林檎は、今が季節だ。

それにしたって、常日頃から甘いものが嫌いと明言しているルームメイトが果物を食べているところを見るのは、なんだか不思議な気もする。
だって、甘いだろうに。

「林檎は甘くない。」
「‥‥何も言ってないんだが。」
「顔に書いてあった。」

首を捻る俺を無視して、ルームメイトは林檎を食べている。

大雑把に八等分された林檎。
白い果肉はほのかに金色、蜜は入っていない。まだ若い林檎のようだ。
確かに甘くはないかもしれない。

けれど林檎だし。甘いと思うんだけど。




‥‥だって、確かに、




彼は、




眼前に突然の飛来物。‥‥条件反射的に出した手に納まったのは、綺麗な赤い、まぁるい林檎だ。
投げつけられて当たるほど間抜けではないけれど、当たったらかなり痛かったと思われる。
抗議しようとした言葉は、出掛けにあっさり遮られた。

「林檎は甘くない。甘いのは『お前の林檎』だろ。」
「‥‥‥‥何も言ってないんだが。」
「恋する間抜け顔に、書いてあった。」

甘いの食べたいなら、そっち行けば?

言いながら、笑ってヒラヒラと手を振るルームメイトに苦笑を返して、戻ったばかりの部屋を出る。
外出届は、たぶんルームメイトが出してくれるだろう。うん、そう顔に書いてあった。なんて。




手元から、ほのかに甘い香り。
ルームメイトは甘くないと言うけれど。

林檎好きな彼があんなに甘いんだから、林檎はやっぱり、甘いと思う。




end.(09.12/2003)

‥‥真田が好きなのは林檎じゃなくてりんごジュースだけど(笑)
きっと一馬はりんご味です。林檎みたら一馬を思い出しちゃうのです。
美味しいので渋沢さんは食べに行っっちゃうのです。

back