風が吹けば桶屋が儲かる。
理由なんて、そんなもの。





部屋に戻ると、不破が居た。

「おかえりなさい、だ。三上。」
「‥‥‥‥‥‥いやもう今更なにも言わねぇけどよ‥‥。」

三上は脱力感‥‥断じて先ほどまで打ち込んでいた部活動の疲れから来るものではない、何ともいえない気分を抱えながら、とりあえず自室のドアを閉めた。
不自然にならぬように、廊下にいる人間に気取られないように。曲がりなりにも松葉寮、平日の来客禁なのである。まぁ、来客禁はともかくも、以前の部活侵入騒動から、この目の前の不法侵入者個人に屈託を抱く人間も少なからず居るわけで。

「特にばれてはいないぞ?」
「心を読むな!」

ばれたらどうなることか‥‥と、思っていた矢先の台詞に思わず大声で返してしまい、三上は慌てて後ろ手にドアを施錠する。プライバシー皆無な寮生活において、施錠していないドアなどウェルカムボードを掲げているのと大差ない。唯一この部屋に入ってくるべき正当な理由をもつ同室者は、キャプテンとしての雑務に追われている頃で、帰ってくるにはまだ早い。鍵を掛けていたところで支障はないだろう。
鍵を掛け、とりあえずの砦を確保した三上は大きく一つ、息をはいた。

なんで此処に居るのかとか。
ていうかどうやって入ったのか、とか。

いろいろ考えねばならない点はあるのだが、自室だといわんばかりのあまりにも泰然とした様子の不破に、全部の理由を『不破だから』で済ませてしまっていいかな、と些か投げやりに思ったものだ。

「で?」
「『風が吹けば桶屋が儲かる』を実践してみた。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥意味判んねぇし。」

三上は大きく、大きく息をはいた。

言っておくが、三上とて決して不破に会えて嫌なわけではないのである。
その関係は曲がりなりにも、世間一般で言うところの(まぁ同性という時点で大きく曲がっている上に『世間一般』から逸脱していないわけでもないが)恋愛関係にあるわけだし、不破が唐突なのも突拍子もないのも、今に始まったことではない。況してや他校生、ハードな部活中心生活を双方繰り広げているとあっては、会える時間などそうそう取れよう筈もなく。





‥‥‥‥ああ。そうか。





「‥‥何時ぶり、だっけか?」
「18日ぶりだな。」
「そっか。」

三度目のため息は、ごくごく小さく。

ゆっくりとした足取りで傍へ寄る。ベッドに腰掛けている不破の頭は、三上より低い位置にあって、普段とは違う目線に三上は心のうちで笑った。
頭を撫ぜれば、柔らかくもないが硬くもない、ふわふわとした髪は体温を僅かに移し、ほんのりと温かかった。

「その間に電話が2回、メールが6通だ。」
「‥‥‥‥よく覚えてんなぁ。」

呆れたようにそういえば、当然だとばかりに見上げる視線。
忘れよう筈もない、真っ直ぐで綺麗な。

「『風が吹いた』から?」
「‥‥‥‥そうだ。」

なんで此処にいるのかとか。
どうやって入ったのか、とか。

風が吹いたら桶屋が儲かるのと同じくらい、そんなの全部、『不破だから』の一言で済ませてしまえばいい話で。

「風が吹くのが悪い。寒いのが悪い。‥‥会いたくなったのは、俺のせいじゃない。」
「ハイハイ。」





「‥‥そ、だな。今日は風が吹いてて寒いから、」
「ぬ?」
「風が吹いてて、寒いから。キスしようと思うんだけど。っつーかイヤっていってもするけど。だって風が吹いてるからな。」
「‥‥‥‥‥‥まぁ、それでは、仕方がないな。」
「ああ。」
「‥‥でも、」
「何?」

「別に、風が吹かずとも、問題はないぞ?」

   

風が吹いたら桶屋が儲かる。
理由なんて、そこらじゅうに転がってる。




end.(03.06/2004)

うん。問題ないよ(笑)
っつーか、ウチの三不破の不破さん、三上のことを好き過ぎです。

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