会いに来た理由?‥‥太陽が眩しかったから。
「それは殺人動機だろう」
からりと告げたその理由に欠片も動じた風もなく。
いつもどおりの淡々とした口調で告げられながら、差し出されたガラスコップを受け取った。中身は程よく冷えた水。彼の自宅で供されるものといえばほとんどの場合が水だ。
最近、食後には日本茶がでてくるようになったけど。
「『異邦人』か。何かの課題か?」
「コンクール用の読書感想文。まだ読んではいないけど、有名なくだりだから」
そうだな、と言葉少なに頷く彼はきっと既に読んでいるのだろう。文学が好き、というわけではなく、単純に文字情報を取り入れるという意味での、濫読に近い感じ。
そう、最近解り始めた。
初めて言葉を交わしたのは、結構以前。
深く親交を結ぶようになったのは、最近の事。
そして付き合ってみればみるほど、不思議な人物だと知り。
興味深すぎる存在。ここ最近では、最も、なによりも、誰よりも。
(‥‥あれ?)
「渋沢」
「え?」
呼び声に、殆ど反射で顔を上げた。
「で、うちに来た理由は何だ。太陽が眩しかったからでも別にかまわんが、用や理由があるなら聞くぞ」
「‥‥え?」
不意に、思考が止まった。
ごく近い位置(当然だ、隣に座っているのだから)、長い指にはテーピングが施されている(一昨日の選抜練習で自分がつき指防止にと巻いてやった)、水の入ったグラス(選ぶのはいつも同じ銘柄、ここの水が好きなのだと小さく言った彼、それをずっと覚えている自分)。
「理由は、」
思考が揺れる。
此方を見ている視線。いつだって揺るがない真っ直ぐな目。
誰とも違う圧倒的な存在感。時折酷く、
触れたくなる。
「‥‥あ」
揺れた思考が、走り出す。それは一つの答えに向かって。
会いに来た理由。会いたいとおもった理由。
『太陽が眩しかったから』?
「‥‥君のことが、好きだから」
するりと零れ落ちた想いは眩い太陽のよう。
二つめの理由に軽く目を見張った不破へ、ただ君に会いたかったんだと告げた。
恋に落ちていたのだと、知った。
title/『理由』
end.(2007.09.06)
カミュの『異邦人』。あれは殺人動機ですけどね。
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