たとえば西から太陽が昇ったりとか。
ありえないことを想像したりして。




「‥‥なぁ、」

かけた声はガサガサに掠れていて、なんだかもう、我ながら酷く滑稽だったけれど、それはもう仕方が無いと、いっそ冷静に思った。

「なぁ、泣くなよ」

自分で言っておいてそれは無理だ、とも思った。
泣くな、なんてそんな静止どうして聞けるっていうんだ。
止まれと言われて止まるドロボウがいないのと一緒じゃないか。
無理だ。(俺の、言葉では。)

「‥‥泣くなよ。」

それでもこの言葉を繰り返す。それしか出来ない。‥‥俺には、それしか。

「不破」




泣かないヤツだと思っていた。
‥‥思っていた、じゃないな。考えたこともなかったんだ。
何でも出来て、何にでも冷めていて、いつだって傲然と頭を上げている人間。
恐らくこの学校の大半の人間は、それは教師や取り巻く大人を含め、そう思っているのだろう。
実際不破はあらゆることを飄々とこなすことが出来たし、こなしてきたし。
それで壊れるほどに泣いたり怒ったりする人間も、居たから、だから「破壊屋」なんて渾名をつけられた。

自分達とは違うのだと。
泣いたり笑ったり、そんなこと、しないのだと。思ってた。




「不破、」

不破は微動だにせず、涙を零す。

いっそ声をあげ、その悲しさを痛みを、想いを表現してくれたなら。
もしかしたらもっとかける言葉が見つかったのかもしれない。
けれど、不破はこんなときも俯かないで、凛と伸ばした背筋さえいっそ呆れるほどに真っ直ぐで。

滑稽で、哀れで、‥‥零す涙は、綺麗で。

「泣くなよ」

人の気配を失い、夕陽に沈んでいく水紅色を満たした部室に、はらはらと落ちる涙だけが光っていた。









シゲが卒業式を待たずに京都へ行ったのだと知ったのは翌日だった。









たとえば西から太陽が昇ったりとか。
ありえないことを想像したりして。

いや、在り得ないことだから想像するのだ。想像しかできないから。

西から太陽が昇ればいいと心の底から思う。
そうしたらこの哀れな人も、笑えるだろう。




(それは在り得ない、想像なのだけど)




end.(09.07/2005)

題名は『セキエイ』と。対になるシゲ不破のお話があって、いつか長く書き直したい気もする。
シゲは卒業式前に(卒業資格は上水で貰って)京都に行く設定。