例えば、天井まで届きそうなプレゼントの山であるとか。
勿論、なんだか高そうなブランドものばかり(ブランドの名前?知るわけないだろ、縁なんてない)。

或いは、どこかのホテルとかクラブを借りきってのパーティとか。
どっかのIT企業社長のパーティがどうとかってテレビで見た。
豪勢な食事、高そう、ってか高いワインとかシャンパンとか?一本数十万するんだってさ。(数十万。ぐるナイのゴチバトルかっての。)

そういう、益体もない、下らない、使い古されたイメージ。
そんなわけないんだろうなぁと思いながらも、
そういうの、全然しなかったかって言われたら、それは嘘になる。

「住む世界が違う」なんて、それこそ使い古された言葉だ。





「そんな暇があるのなら書類の一枚にでも目を通す」
「‥‥まぁ、お前はそういうヤツだよな」

朗々とした声音は出会って以来如何なるときも変わらない、目の前の『友人』の言葉に、直人は苦笑めいたものの混ざった言葉を返しながら、片手に携えたコンビニ袋を磨き抜かれた机の上に置いた。
ポリ袋のたてるざらついた音は、機能的で優雅に整えられた黒須カンパニー本社のプレジデントルームにはおよそ不釣合いな音ではあったが、それは言っても仕方がないことだと直人は思う。

‥‥そう、自分は一般人。庶民の持ち物は庶民らしく。慎ましやかに。

内心で呟かれたそんな思いは、言葉面だけ取れば自虐的ともいえそうな言葉だが、無論そうではない。むしろそうあらんとする決意めいた、けれどそうはならない現実に直面しどこか諦観の混ざる奇妙な具合であったのだが、声に出されぬ呟きは其れだけでしかなく。
当然、繊細なつくりの磁器を、品の良い所作で苦もなく扱いながら茶を喫する目の前の『友人』が、そうと解ろうはずもなく。
直人はやはり諦めにも似た(いっそ突き抜けた感心だ)何かを感じつつ、掠れた音を立てながら袋の中身を取り出して、その包みを解いていく。カシャカシャとプラスチックのたてる軽い音が続いた。

「因みに俺はまだ未成年だ。酒は飲めないことになっている」
「‥‥‥‥あー、そういえばそうだった」

あんまり態度がでかいから気づきませんでした、とは言わないでおくことにした。言葉の含みについてもとりあえず、無視。ええと、皿はさっき用意してもらったから‥‥

「お前が飲みたいのであれば、用意す‥‥」
「わーッ、いらない要らない要ーらーなーいッ!結構です!!ていうかぼくも未成年!!」

言いかけた言葉を半ばで強引に阻止する。
うっかりすると身体が沈み込みそうなソファから身体を起こして、精緻な透かしの施された机を思わず叩いた。机上のものがそれぞれに軽い音を立てたが、机の持ち主、というよりこの部屋の主である友人は気にした風もなく、呼吸ほどにも自然に優雅な所作で紅茶を飲みつつ、「そうか」と一言応じただけだ。
直人はコーヒーショップの二の舞が阻止できたことに、とりあえずの安堵を覚えた。‥‥そもそもこの安堵感が、原因を踏まえればなんとも可笑しなものであることに思い至り、底知れぬ脱力感に見舞われるのはまた別の話だが。

ともかく、と己の中でどうにか気分を切り替えることに成功すると、ひとつ息をついてから中断していた机上の作業を再開した。
綺麗な模様の入った皿と銀器。友人の手の中にあるティーカップと同じセットなのは今友人が飲んでいる紅茶(因みに自分の前にも同じものがサーブされている)も、皿や銀器を用意してくれたのも同一人物であるからだ。
視線をめぐらせれば、巧みに切られた視界の向こうで部下に何某かの指示を出している、第一秘書の姿勢の良い長身が少しだけ窺えた。今日の土産の中身を告げ皿とフォークをくれるように頼んだとき、一瞬の間の後、ふと視線を緩ませ微笑んだ口元は、今はきりっと引き締められているのだろうと予想する。見えないけれど。
同じ総帥執務室の中にあってプライベート色の強いこの場所は、特別なパーテーションを用いず視線と音を見事に切っていた。どういった原理なのかわからないながらも、上手く作ってるなぁとそんな素直な感想を抱きながら、直人はプラ製の受け皿から「土産」を取り出し皿に載せ、フォークを添えて前に押し出した。

「はい、これ。コンビニで買ったヤツだけど。」

そんな言葉を添えて押しやった、皿の上には苺の飾られたショートケーキ。
1個で320円のものにするか、2個セットで500円のものにするか数分迷った挙句、やはり自分も食べたいと思い(ケチくさいとかいうな!)2個セットのものを買ってきた。
自分のぶんは面倒だからとプラ容器をそのまま皿にして置いた。
視線を上げれば、不思議なものでもみたかのように瞬きをする友人と視線がかちあった。
真っ直ぐで強い視線。これも出会ったときから変わらないものの一つだと不意におもう。

「誕生日だろ。だからケーキ食べようぜ」

‥‥そしてこの笑顔も、変わらないものの一つだと、やっぱり思う。

強い視線がふっと緩んで、いっそあどけない笑顔。
言葉一つ、視線一つで巨大企業の命運を決めてしまえる人間なのに。
もくもくと250円のケーキを口に運んで、「悪くないな」といつもの口調で応える言葉。
望めばどんなに高価なものだって口に出来るだろうに。

おかしな人間とおかしなきっかけで始まった『友人』関係。
何から何まで違う、文字どおりに「住む世界が違う」この友人との関係を本気で絶とうと思わない理由は。

「ありがとう、直人。うれしい」

エキセントリックなほどの素直さが、今となってはそれなりに馴染んでしまっただなんて、言ってなどやらない。‥‥でもまぁ、

「京介」

プレゼントの山も豪勢なパーティも遠い世界の話のこと。
庶民は庶民らしく、慎ましやかに、素直な言葉を贈っておこう。

「誕生日おめでとう、これからもほどほどに、よろしくな」





返された本日二度目の笑顔に、もう少しこの『友人』関係は切れそうもない、と直人はケーキを口に運びながら思った。







title/『shortcake movie』
end.(11.17./2005)





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