春は別れの季節だと、最初に言ったのは誰だろう。




「随分可愛いらしモンが植わっとるなぁ」

背中越しに響く声は少しだけ遠く、今の季節の空気のようだと不破は思う。(曖昧で、どこか落ち着かない)

広い開放窓を壁の二面に配したリビングは、窓際に座るとまるで屋外にいるかのような錯覚さえ起こさせた。降りそそぐ春の光はどこまでも柔らかく穏やかで、窓越しに見える庭の新緑を鮮やかに、華やかに浮かび上がらせる。
背中合わせに座る人物が言うところの『可愛いらしいモン』も、その一つだ。

「数年前、母が植えたものだ。その母を含めた家族全員、たいして手入れをした覚えはないのだが、毎年この時期になると数輪、花を咲かせる」
「へぇ」

背中越しに聞こえる、相づちめいた声はやはりどこか遠く、不破は日差しを受けて柔らかに光るフローリングから視線を窓越しの庭へと遣った。
自分を含め留守がちな家人のおざなりな世話にもめげず、そこには鮮やかな赤い春の花が、柔らかな光を全身に受けながら咲いていた。スルリと伸びた緑の茎と、綺麗な曲線を描く葉。カップ型に整った同型の花弁とガクが、3枚づつ。

「チューリップなぁ、久々に見たわ」
「そうか」
「なんや、春っぽいなぁ」
「春だからな」

背中を合わせてする他愛のない会話はぼんやりと、穏やかだった。
降り注ぐ光は変わることなく柔らかで、暖かく二人を包んでいた。

「もう、春だからな」

そう言った不破の、微かに震えた声も。
躊躇いがちに触れてきた、指先の冷たさも。

春の空気は全て溶かし込んで、二人を包んでいた。




「な、あのチューリップ、来年も咲くやろか?」
「今年咲いたからといって、来年も咲くとは限らない」

最後に交わしたその言葉に、相変わらずやねぇセンセはと苦笑した、金髪を春の風が柔らかく撫ぜていた。




翌年も赤い花は咲いたけれど、春の風に揺れた金髪は、以来見ていない。




end.(04.28/2005)

シゲ不破の日記念その2。記念のワリにお別れネタ。
『年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず』‥‥長い話のワンシーンぽい感じを出したく。

back