例えば、本棚の本の配置。

彼の部屋にはたくさん本があって、壁の一面が本棚になってて上から下まで本がぎっしりつまっている。その中でもサッカー関係の雑誌(ゴールキーパー読本は俺が使っていたのをプレゼントしたものだ)、インタビュースクラップなんてのは読ませてもらったことがあるのだけれど、それ以外はからっきし。何せ日本語どころか英語でさえない。
けれど、それらが法則を持って並んでるのは知っている。

いつ見ても、順序良く。
いつ見ても、定位置に。

だから、何気なく言ったことがあった。
綺麗好きなんだねとか、几帳面なんだなとか、そんな感じのこと。




『───いや、そういうわけでもないが。ただ、いつもの場所にいつものものがあるのは、‥‥  』




「だからこれも、そういうのなのかなぁ」

微かな衣擦れに紛れ込ませるように呟いた声は、必然的に独り言になる。
カーテンの隙間から見える外は未だ夜の気配を色濃く残す、朝まだき。
淡い色のベッドリネンが微かな朝の光を吸い込んで、優しく光を灯しているようにも見えて、綺麗だ。
‥‥そこに散る、髪の色とのコントラストは、もっと綺麗だ。
不意にこみ上げてきた笑いを噛み殺すようにシーツに顔を伏せたけれど、直ぐ傍の温かみにますます笑いたくなって、ぐっと拳を握りしめた。我ながら寝覚めは良いほうだと思うけれど、それにしたって抜群のハイテンション。
当たり前といえば当たり前なのだけれども。

目覚めた瞬間好きな相手が隣りで寝ていて、テンションが低いなんて其方のほうがどうかしている。

淡い色味のシーツの上を、無駄な肉の無い、けれどしっかりとした大きな手のひらが動いている。
昨晩幾度も絡めて抱き寄せた、長い指先で布を辿るように、手繰るように。
潔いほどの強い視線は瞼の下、浅い寝息はいつもどおり。‥‥声が擦れてなければいいのだけれどと、数刻前を思い返して赤くなったのは、自分だけの秘密として。

今はただ、ゆったりとした動きでシーツを手繰る、不破の手を見ていた。

寝ていることは確実で、だからこれはいわゆる寝惚けているというか、無意識の動きというものなのだろう。
この恋人より早く起きたことはこれまでも幾度かあったけれど、こんな風にぱたぱたと動く手は見たことがなかった。
‥‥けれど、その動きに察せられるものは、何となく、というか。

「‥‥やっぱり、そういうことなのか、とか、うぬぼれてもいいのかな俺」

呟く声はまだ独り言。
布を手繰る軽い音に、そうっと手を伸ばせば。




触れた指先を、握り込まれて。




『‥‥ただ、いつもの場所にいつものものがあるのは、落ち着くから』




言って少しだけ笑った、その笑顔が、寝息に混ざる。




「‥‥俺の手は、君の手の中が、定位置。」




呟いた声は、やはり独り言。
けれど布を手繰る音が消えた部屋に響いた声は、どうしようもなく甘く蕩けていたから。独り言でよかったと思う。
静けさを取り戻した夜明けの部屋で、定位置を確保した己の手に不破の熱を貰いながら、再び押し寄せてきた眠りの波に緩やかに身を任せる。
輪郭を失っていく意識の縁で、繋いだ手からその身体ごと抱き寄せた。




無意識に擦り寄ってきたその身体の定位置が、ずっとこの腕の中であればいいと願いながら。





title/『standerd day and night』
end.(08.09/2007)

早起きしたキャプテンがぱたぱたしてる不破の手をこれまで見たことがなかったというのは
これまでは無意識で手ェ繋いで寝てたからという設定。


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