三上は甘いものが嫌いだった。
そんなわけで、自室のドアを開けた瞬間、思いっきり顔をしかめた。

「ああ、おかえり三上」
「む、邪魔しているぞ」

耳を打つのは、どこか余裕と深みのある声と、泰然自若過ぎな声。
いつもどおりといえばいつもどおりのことで、いっそいつも過ぎて三上はため息をつく。否、ため息しかつけない。

「三上もお茶飲むか?今淹れたとこだから」
「茶菓子もあるぞ」

掛けられる声に背を向けて、寮内用の楽な服に着替える。
今朝適当に脱いでベッドに投げておいた服が丁寧に畳まれて置かれていたことに、服を手にとってから気がつき、さらに嫌そうに顔をしかめた。
服だけではなく、部屋全体が今朝より片付いていることに気が付かないほど、三上も鈍いわけじゃない。

「不破くん、三上はあまり甘いもの得意じゃないから」
「そうなのか」
「ていうか、そんな毎回お菓子持ってこなくてもいいんだよ?」
「最近買うのが楽しくなってきたのだ」

コポコポと、どこか呑気な湯の音が会話に混じる。
カチャカチャと、陶製の湯飲みが立てる音もどこか呑気だ。

「ああ、‥‥それは確かに、それは解らなくもないなぁ」
「む、そうか」
「やっぱり店ごとに品揃えも味も違うからね」
「そうなのだ、店ごとに扱う菓子類の方向性、原材料の選別方法、また包装技術に至るまであらゆる面での比較が実に興味深い」

背を向けているせいでサウンドオンリーな会話は、ある意味いっそうその言葉に乗せられた、細やかな感情を浮き上がらせる。

「そう。ああ、じゃぁ今度一緒にお菓子屋めぐりでもしようか。不破くんどんなお菓子が好きかな」
「渋沢は豆大福が好きだったな」
「あはは、覚えててくれたんだね、ありがとう」
「別に礼を言われることではない」
「うん、でも覚えててくれて嬉しいからね」
「‥‥そうか」
「そうだよ。それで不破くんはどんなのが‥‥あれ、三上?どこか行くのか」

同室者の声には後ろ手にヒラリと指先を振って、三上は自室のドアを開ける。
ドアを閉める直前に背中で聞いた親友の、たった一人だけに向けられる声の甘さに。
三上はやはり、思いっきり顔をしかめたのだった。





「‥‥あれぇ三上、今日もブラック?胃に悪いよー」
「うっせぇ、甘いの食らわされた後に砂糖入りなんざ飲めるか」





甘いものなんか、嫌いだ。
他人の甘い恋愛現場なんかに付き合ってられるか。





title/『強制シュガーライフ』
end.(2006.12.30)

最後の会話は中西相手。
渋沢も不破も、三上大好きです。


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