ため息をついたら、幸せが逃げるんだって。





「だから先輩、もうため息ついたら駄目です。禁止。」
「いや、禁止って言われても。」

目の前の後輩は、たまにこういった事を唐突に言ってくる。
三年引退後はサッカー部副主将を引き継ぎ、破天荒な言動の主将兼エースの手綱を巧みに捌く、理路整然とした姿からは想像もつかないような、突拍子もない事を。

今日も今日とて熱を分け合い、程よい疲労と触れる肌の心地よさに眠りに落ちかけた、その時に。

「っつーか、何それ。」
「今日クラスの女子が言ってたんです。なんか、占いの雑誌に書いてあったんだって。」

また不可思議な情報ソースですね笠井くん‥‥。

生真面目な顔とは正反対なその情報の胡乱さ加減に、俺は思わずため息を零した。

「あっ、だからため息禁止ですってば。それじゃなくても三上先輩幸薄いんですから、なけなしの幸福逃がしてどうするんですか。」
「いやだから禁止って言われても。っつか幸薄いって何だよコラ。」
「え。自覚ないんですか。ますます幸薄いなぁ、可哀相‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

あまりにもサラリとしすぎな暴言と哀れみさえ含んだ視線に、逆に毒気を抜かれて返す言葉も思いつかない。これが何かと騒がしい天才エースあたりだったら即座に蹴り飛ばしてやるし、あの爽やか笑顔の同室者だったら教科書(それも一番分厚い現国のヤツ)を思いっきり投げつけてやるのに。
そんな気さえ起こさせない、ある意味コイツも天才だぜ‥‥。

疲労からくる眠気と、なんともいえない脱力感に目を閉じて、ため息。

「あ、ほらまた。駄目ですってば、ため息禁止令。発布。施行。違反者には罰則があります。」
「はい〜?‥‥って、」




会話をしながらも、もう殆ど眠りに落ちかけていた俺の瞼を再び上げさせたのは。




「‥‥‥‥はい、徴収完了。」
「‥‥安いんだか高いんだかわかんねぇ罰だな、オイ。」

ちゅ、と音を立てて離れていった唇にそんな嘯きを返せば、長めの前髪が触れる距離にいる笠井がにんまりと笑った。

「充分高いですよ、世界にひとつだけしかない、俺だけが徴収できる貴重な罰則です。‥‥まぁ、先輩がため息つこうがつくまいが、勝手に徴収させて貰いますけど。」

そう言って甘やかに笑う徴収人に、俺はもう一度深いため息をついて、静かに目を閉じその唇を、引き寄せた。




「ま、先輩がいくらため息ついてどん底まで幸せ逃がしても、俺が充分幸せにしてあげますから安心してくださいね。」
「だーから人を勝手に不幸認定すんなよ‥‥。」




そうして今日もため息をつく、そんな幸せな日々。




end.(10.06/2002)

笛界の不幸看板(嫌な看板だ)を背負って立つ2枚看板の一人、三上亮。そんな彼の不幸具合は、例えていうなら福引きに行って自分の前の人間が1等ノートパソコンを当てて、自分の後ろの人間が特等の産地直送海産物詰め合わせ(ウニ・イクラ等)を当ててしまう、そんな不幸具合です。(※自分は残念賞のポケットティッシュ。)

暴言大王笠井。でも三上先輩怒らない。笠井だから。藤代やらキャプだったら上記のとおりバイオレンスな展開(笑)になってしまいます。

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