小さく響く金属音。
流れるように動く指先を、頬杖をついてじっと見つめる。
「‥‥‥‥器用だね、お前。」
「えぇまぁ。‥‥あ、先輩此れ持っててもらえます?」
「ん、」
否定しねぇのか、と心の中で突っ込みつつも、笠井の握った拳から降るように落ちる金属の欠片を、上に向けて広げた手のひらに受け取った。
天井灯をうけて輝くそれは鈍い銀色。
ごくごく小さな欠片みたいな、螺子やピン。
それらは今現在、笠井の手によって分解されている時計を構成する、細かいが大事な部品たちだ。
時計が壊れた、と何気なく言ったら。
じゃぁ直しましょう、と事も無げに言われた。
「壊れたっていうか‥‥先輩、此れ投げませんでした?部品がことごとくずれてるんですけど。」
「‥‥‥‥‥‥。」
投げました。そりゃもう思いっきり。そしてバカ代の頭にクリーンヒットして跳ね返ったところをキャプテン様にニコヤカ〜にキャッチングされました(ついでに説教もされた)。
‥‥なーんてバカ正直に言うわけもなく、沈黙を通す。
沈黙は金。先人の教えは守るべきだ。
「時計って精密機械なんですから。藤代くらいの軽〜い頭だろうが壊れますからね。投げちゃ駄目です。渋沢キャプテンにも言われたでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
雄弁は銀。‥‥喋ったのは渋沢か。あとでシメる。
小さく響く金属音。
器用に動く指先を、机に伏せるように頬をくっつけてじっと見つめる。
笠井はわりと、手がでかい。でかいというか、指が長い、というか。
俺よりタッパねぇのにな、と言ったらもの凄い笑顔を返されたから、あれ以来言ってないのだが。‥‥アレは怖かった‥‥。
鍵盤触るにはこのほうが有利ですよ、といつだか言っていた。どういう意味かよく分からねんだけど。弾きやすいってことか?
長い指。細くは‥‥ねぇかな。日に焼けて、少し荒れた指先。爪は丁寧につまれている。手の甲に擦り傷がある。‥‥ああ、そういえばこの前派手にコケてたか。藤代削ろうとして逆に吹っ飛ばされてた。まぁ、藤代が巧いっつーのもあるんだけど‥‥もう少し身体の重心落としてくべきだよな。ボディバランスが課題だって、本人も言ってたけどよ。
小さな傷やアザはいくつも。綺麗な手、とはいえない。
同時に、こんなに綺麗に動く手を、他に知らない。
「ところでお前、何で時計とか修理出来んの。」
「‥‥‥‥趣味?」
‥‥‥‥いや、そんな疑問系で返されても‥‥。まぁいいけど。
小さく響く金属音。
小さな傷やアザもたくさんある指先が、ごく間近で、奇術めいた手並みで機械を分解していく。‥‥思わず、見とれる。
意外なほどに器用に動く、大きな手。指先。流れるような所作、それはどこか、艶めかしくさえあり。
その指先が、不意に止まる。
怪訝に思ってあげた視線の先、どこか困ったような表情の後輩。
「‥‥‥‥。あのですね、先輩。」
「‥‥何。」
「あんまりそう、眺められると、やり難いんですけど‥‥。」
「だって見てるの、面白いし。お前、本当、器用なのな。」
困った風な表情の後輩。
どちらかといえば飄々とした態度や表情を崩さない目の前の人物が、珍しくもあからさまに困惑している顔は、見ていて結構に楽しいもので。
視線はそのまま、机に懐いた姿勢もそのまま、声を立てずに笑った、ら。
「‥‥‥‥っ、」
一瞬の空白とため息で、少し変わった。‥‥ちょっと待て。
「あのね、三上先輩。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥な、何。」
ちょっと待てそれ以上喋るな、と声を大にして言いたいが、後輩相手にそんな「いかにもうろたえてます」的態度をとる事などしたくはない。
それが先輩の矜持というものだ。
耐えろ、俺!
「俺が器用なことなんて、先輩の身体が一番良く知ってるでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥ッ!!」
‥‥‥‥。耐えれませんでした。
耳まで赤くして突っ伏す上から、クスクスと楽しげな笑い声が聞こえる。
小さく響く金属音。
器用な指先は、伏せてしまった顔では見えないけれど。
「じゃ、時計バラしたあとは、三上先輩バラしましょうか。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
「大丈夫、俺、器用ですからね。ついでに優しく気持ちよく。先輩お墨付き。」
優雅に動いているだろう、年下の恋人の指先が持つ熱も、俺にもたらす熱も。
既に十分、知っているから。
このまま伏せて、時計が終わるのを待ってやる。チキショウめ。
end.(10.06/2002)
‥‥‥‥‥ゆってることがオヤジくさいよ、笠井くん‥‥(笑)
ネタは『愛の在る日々』から零れたヤツです。時計分解してるのは、その為です。キャプからネタ奪ってますけどね!
笠井くんが器用かどうかなぞそのあたりは当然捏造。でもなんとなく器用そうだから。だってピアノだし。(?)忍者だし。(!)
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