不破大地という男は、大雑把にいえば淡白だ。
何事にも淡々、突発事項にも冷静、素っ気無く。言葉どおりのポーカーフェイス。
だからいつも、ほんの少しだけ不満があったことは確かだ。
何をしても、何をしてやっても不破は変わらない。いっそ清々しいほどにいつもどおり。
それが不破だと、だから好きなのだと思いはすれど、けれどでも。
‥‥‥‥‥‥なーんて、考えたのが間違いだったのか。
「いらっしゃいませ。」
玄関口にて、三つ指ついてお出迎え。
‥‥いらっしゃいませんでした、と玄関扉を閉めかけたのは、伏せた不破に見えてなかったなら良いのだけれどと、三上は後々思ったものだった。
「‥‥で。今回は、誰に何を吹き込まれたんだよ、ああ?」
三上はそう言いながら、ガシガシと黒髪をかき混ぜた。
どかりと腰を下ろした場所は、奇天烈な作りの不破家の玄関上がりかまち。
尤も、見慣れてしまってその奇天烈さに驚くようなことも今では殆ど無いわけだが。
その傍には、書道か作法の教書にでも出てきそうな、凛然たる美しい姿勢で座った、不破がいて。
「藤代が、」
と、小首をかしげてそう切り出した時点で、三上の脳内「いつかシメるリスト」トップに藤代が躍り出たのは当然といえば当然であった。しかし三上は、目の前の恋人を見習ってポーカーフェイスだ。何故といって、此処で何か言おうものなら会話が明後日の方向に飛んでいくことは間違いないからだ。
とりあえず黙って、不破の話を聞く。
「俺が、三上に冷たいのではないか、と」
そんな話し出しで(玄関で!)始まった話を纏めると、こうだった。
どうやら三上の隙をついて(!)不破と遊んでいるらしい藤代が、会話の端々で現れる三上と不破の遣り取りについて、不破にアドバイスを送ったらしい。
曰く、
『不破はさぁ、いっつもなにしてても冷静っていうか、マイペースじゃん?まぁソコが可愛いところでもあるけどー、でもさぁ、たまには?ちょっと三上先輩を大事にしてますーってアピールっていうか?そういうの、したらいいんじゃない?たぶんあのヒト嬉しがるよ、単純だから!』
「‥‥あンのバカ代、いつかシメる‥‥ッ!」
「三上、」
独り言めいた呟きと同時、脳内にて「いつかシメる」リスト整理に掛かっていた三上を現実世界へと引き戻したのは、当然といえば当然の目の前に端座する不破だった。
はっと我に返った三上は直ぐにそちらを見遣る。そこには、凛然と端座し、いつもどおりに此方を真っ直ぐに見る、ポーカーフェイスの不破の姿があって。
‥‥その、真っ直ぐな視線に、僅かに傷ついたような色を混ぜて。
「不破、」
「‥‥俺は、また何か間違えたのだろうか?お前の、気に食わないことをまた、何か、」
「それは違う。」
言葉を遮って三上は言った。言わなければいけなかった。
「‥‥違ェよ、ちょっと驚いただけ。いっつもなら、『よく来た三上、勝手にあがれ』とか何とか、そんなのだけだろ?だから、いつもと違うし、ちょっと驚いただけだっつの。‥‥ああ、えーと、失礼致します?って返すのか?なんか違うな、あー‥‥」
三上は必死に言葉を紡ぐ。
不破も大概喋らないが、自分もそう饒舌なわけでも、言葉が巧いわけでもない。
どちらかというといつも皮肉が口をついて、それはそれで自分のスタイルだからいいけれど、それでも、たまには後悔することも、あって。
傷つけたいわけじゃないのにと、思うこともあって。
‥‥そして今は、傷つけてはいけない相手なのだと、解っていて。
「別に怒ったわけじゃねーよ、お前が間違えたわけでもない。ちょっと極端でびっくりしたけどな。‥‥お前が迎えてくれるんなら、別にどんなんでもいいから。な?」
「‥‥そうか」
そう言って、ポーカーフェイスの口の端で少しだけ笑った、その事こそに、三上が嬉しがったのだと。
それはまぁ、二人だけが知っていればいいことだ。
「‥‥よく来た、三上。上がってくれ」
「ん。」
そんな二人のいつもながらのポーカーフェイスな遣り取りに、今日は一つ甘いキスが混ざったことも、二人だけが知っていればいいことだった。
end.(11.20/2006)
恋人には共有する秘密があるのです。
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