「待つの、好きなんだ」







玄関という場所は人が出入りするところなわけで混雑して当たり前。
まして百数十って人間が住んでる寮の、年末の帰省日最終日ともなれば尚更のこと。

「中西先輩、お先失礼します!」
「んー、また来年ねー」
「タクシー呼ぶんで、途中駅まで一緒にいきませんか?」
「んー、また今度ねー」

猥雑な雰囲気の中、けれど何故かゆったり茫洋とした空気を纏わせて佇みひらひらと指先を振る最高学年生に、帰省用の大きな荷物を抱えた下級生たちは挨拶をしては駆け出して行く。

「なあ、中西先輩なんであんなとこ居んの?」

一年生は不思議そうに。

「そりゃ、待ってっからだろ」

二年生は理由知り顔で。



そうして人の流れも時間と共に流れは緩やかに、穏やかに。
喧騒の代わりに冬の静けさが冷気とともに耳を打つ、玄関にはけれど変わらず、眠るようにひっそりと佇む姿。
カツリと小さく響いた足音に、うっそりと瞼を上げる。

「三上」

名前を呼んで、笑う。

「‥‥中西、お前さぁ」

けれどそれとは対照的に、三上は苦い表情で。

「寒ィんだし、部屋で待ってろよ」
「んー?平気これくらい」

笑みを含んだ軽やかな口調に、三上は更に眉を顰める。

「見てるほうが寒い」
「でも、玄関好きなんだもん」

そういって、笑う。

人の行き交う猥雑な場所。
出たり入ったり、様々な理由で様々な事情で、様々な表情で通り過ぎて行く人を見ているのが、好きだ。
自分の関わりない場所で、自分と関わりなく交わされる日常を眺めるのは、意外に面白い。‥‥それに、



「いつアキがくるかなーって、楽しみが続くのがいいんだよねぇ」



いろんな人が行き交う玄関。それは自分に関係のない関係。
自分とは繋がらない流れ。切り離された場所で眺めるだけの。

けれど、自分にも。

「アキがさぁ、」

名前を呼んで。呼ばれて。

「アキが眠そ〜な目でだるそ〜に歩いてくるの見るの、好き」

そんな人が居るのだと。待っている人が、他の誰でもない、自分の為に歩いてきてくれる人がいるのだと。
だから。



三上はいつもどおりの眠そうな目で、大きな荷物を持ってため息をついて、中西を見る。

「‥‥まぁ、いいけど」
「うん。気にしないでいいよ」

そういって、笑う。
そうしたら、三上も少しだけ笑う。

(だから、それだけで、もう。)

「そんじゃ、帰るとするか。どっか寄ってくか?」
「んー?ケーキ屋とかー?バースデーケーキ!」
「却下。」

並んで歩いて、寮を出る。
冬の日暮れは早くて外はすっかり冬の夜色で、けれど並んで歩いてたらそんなこと気にもならず。
誕生日おめでと、ボソボソと呟く声に軽い相づちを返して、並んで歩いた。



「そんじゃ、夜お前ん家行くからな」
「はぁい、玄関で待ってまーす」
「ていうか別に、どこにいても迎えにいくけど?」
「うん、でも迎えたいんだよねぇ。これは譲れないわー」

歌うように言った言葉に三上が笑う。
その笑顔に、一瞬でも早く会いたいから待っているのだと。
そう言ったなら、きっとまた呆れて、けれど綺麗に笑うだろう。

だから、それだけで、もういい。
その笑顔を迎えに、今夜もまた、玄関に佇む。







「待つの、好きなんだ。アキのことだけ。」




title/『きみを待ってる』
end.(12.28/2007)

中西誕生日記念。
幼馴染みの二人。noteの中西好きさんに60の質問のQ24準拠で。

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