(深々と、寒さが身体に染み入る季節です。)




───冬はいいな。




「え?」

ポソリと呟かれた言葉に、三上はマフラーにうずめるようにしていた顔を上げた。 吐いた息は濃く白く、代わりに開いた襟元から夜の空気が滲みてきて、不随意反射の震えがひとつ。

「寒いか?」
「‥‥、そりゃまぁ、冬だし。」

合った目線の先で笑われたような気がして、三上はぼそぼそと小さな声で呟いたけれど、澄んだ夜の空気はクリアに声を相手に届けてしまう。
あとちょっとで寮だから、そう言われながら背中を二回、撫でるように叩かれる。
フリース越しの感触はなんだか普段とは違っていて、少し不思議な気分になった。

「どうした?」
「あ、いや‥‥」

ほんの僅かな感情の機微にどうして気がつくのかと、それこそ不思議な気分に駆られながら、三上は再び寄越された視線から、なんとなく焦った気持ちで己の其れを逃がす。同時にゆるりとマフラーが揺れて、冷気を懐の中に迎え入れた。
深々と沈むような空気。ふたたび身体がふるりと震える。

「冬が‥‥冬は?どうとかって、」
「え?」
「さっきお前、なんか言ってたじゃん。」

風はなく、夜闇に冷やされた空気は静かに地上に降り積もるよう。
ひっそりと佇む葉を落とした立ち木たちも、こそりとも会話しない。

冷たく澄んだ、冬の夜。




───冬はいいな。




「ああ、それは‥‥うん。そう、」

ゆっくりと、けれどペースを保って運ばれていた足が不意に止められた。
それにつられる形で反射的に足を止めた三上の重心が、ほんの少しだけ崩れたところに、




「ほら、冬はさ。‥‥熱が普段よりも心地良いなぁと。」




掠めた熱いくちびると至近距離の囁きに、めいっぱいのしかめっ面を返せば、クスクスと小さな忍び笑いが聞こえてくる。
白い呼気は淡く細く、冷たい冬夜にやんわりと溶けていく。

「ったく、あー‥‥渋沢。」

「何、みか‥‥」




途切れた科白と、握り込んだてのひらの熱の気持ちよさに、三上はニヤリと笑って見せて。
引っ張り寄せた耳元に、ひそりと囁き声を流し込んだ。

ああ、本当に。




───冬は、いいな。




(深々と、温かさが心に染み入る季節です。)





title/『ウインターシーン』
end.(2004.12.31)

不破誕更新。不破じゃないけど。

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