中学生男子たるもの、いつ何時も腹を空かせているくらいが普通です。









成長期の少年の食欲と書いて、『凍れる星』と読む。

「凍れる星って?」
「ブラックホール。」

朝食を食べてから朝練、そのあと軽〜く2度目の朝食、2時限の後には購買でパン購入、昼食は勿論きっちり摂って(日により購買にてプラスα有り)、放課となれば腹が減っては戦が‥‥もとい部活は出来ぬとばかりにこれまた購買に走り、部活が終われば近所のコンビニは大盛況、そして夕飯には食堂にてさくさくさくさくさくさ(中略)くさくさく栄養吸収(御代わり有り)。‥‥そして、それでも足りない。

「際限がないということだ。」
「なるほど確かにな。」

三上は深く頷きながら、もそもそと口元を動かした。
そんな己の言葉に頷く三上を見やりつつ、渋沢は勉強机に置いた急須を手に取る。

「お茶、もう一杯いるか?」
「おぅ。」

軽く応える三上の手には、新たに夜食おにぎり(渋沢手製)が摘まれていた。

「‥‥というか、三上最近食べすぎじゃないか?」
「そっか?」

差し出されたお茶をずず〜っと啜りながら、三上は事も無げに応える。
渋沢は自らの湯呑みに茶を注ぎながら、何も盛られていない皿へと目をやった。

「俺のが無いぞ、三上‥‥。」
「あー、悪ぃ悪ぃ。」

爪の先ほども悪く思ってなさげな三上の言葉に、渋沢はため息をつく。
真っ白な空の大皿、そこには数分前まで、夜食用にと守護神の大きな手でもって握られた、それは大きな握り飯がこれでもかと積まれていたのだが。

「はー‥‥食った食った♪」
「‥‥確かに食ったな、お前は。」

俺は食えてないんだが。なんて言外の言葉は、現在の三上には右から左へ素通りらしい。成長期の少年の胃袋をたっぷりと満たした三上は、上機嫌にフローリング上に、文字どおり転がっていた。
ゴロゴロと転がりながら、時折膝から下をパタパタと動かしたりと、めずらしいほどにあからさまに上機嫌な様子は、どこかノドを鳴らして丸まっている猫のようで、渋沢はお茶を飲むふりで口元を隠して忍び笑いながら、その姿を見つめた。

「しかしよく食うな、このところ。」
「あー、‥‥言われてみればそうかも。」

渋沢の言葉に、転がっていた三上が仰向けに転がった。艶のある黒髪が音もなくフローリング上に広がる。室内灯が直接目を刺激したのか、軽く眉を寄せてまばたきをしながら言葉をつむぐ。

その様子を、渋沢はじっと見ている。

「‥‥成長期とか?あ、そうだ俺この1ヶ月で1センチ、背ェ伸びたんだぜ!」
「へぇ、そうなのか?」
「おぉよ、この調子で行けば75くらいは今年中にいけるかも。‥‥藤代を見下ろす日も近いぜェ。」
「かもな。」

軽く返される肯定の相づちと幸せな未来予想図に、三上はくすくすと笑いながら、更に機嫌よく床に懐く。
満たした胃袋が良い具合に体温を保ってくれるのか、肌や頬に触れるフローリングの温度さえもこの上も無く心地よく感じられ、三上は満足げなため息を一つ、落とした。
そう、彼はこのときとても幸せだった。

‥‥幸せ過ぎて、渋沢の視線にある種の熱が加わった瞬間を、見逃した。(笑)

「んー、あとはウエイトをもうちょっと‥‥、って、何、渋沢。」
「んー?いや、アレだなぁと思ってな。」

不意に翳った室内灯に、三上はピクリと眉を上げた。
過った嫌な予感に、続いて間髪入れず目蓋も上げたのだが、時既に遅く。

「‥‥ッちょ、お前ドコ触ってんだコラァッ!」

上機嫌な猫のように寝転んでいた三上は、本物の猫も真っ青な猫足で忍び寄っていた渋沢により、いつの間にやら逃げようの無い体勢に持っていかれており。
奇術師めいた手際のよさで組み敷いた恋人の衣服を剥いでいく渋沢は、先刻までとは打って変わって冷や汗を流さんばかりにして、先刻とは別の意味で床に懐く三上に、この上も無い上機嫌な笑顔でもってのたまったものだ。

「俺も腹が減ってるんだよ、三上。」




俺も成長期だし、思春期だし。腹は減ってるし。なのにお前だけ満足だなんて、不公平だろう?




「食べさせて貰うぞ?」
「や、ちょっと止め‥‥ッ、ぁン、‥‥」









その翌日。

「はよーございまーッスセンパイ方!‥‥って三上センパイ、朝からスゲェ食欲っすね。」
「あぁ、なんと言っても成長期だしな。‥‥運動すれば、腹は減るだろう?」
「‥‥?早朝ランニングでも行ったんスか?お疲れ様ッス!」

朝からハイテンション且つ無邪気な後輩に、上機嫌な笑みを返す渋沢の頭を、テメェが応えるなァッ!!とその隣りで旺盛な食欲を発揮している三上が、容赦なく殴る。
その様を眺めるともなしに眺めつつ、昨晩、何処からともなく漏れ聴こえる、壮絶に悩ましくも艶っぽい声に眠れなかった、某二人部屋の近隣の寮生達は、寝不足と欲求不満で微妙に進まぬ食欲に、深い深いため息をついたので、あった。









中学生男子たるもの、いつ何時も腹を空かせているくらいが普通です。
うっかりルームメイト兼恋人を食べたからって、それは仕方のないことです。‥‥多分。





title/『お夜食はいかが?1』
end.(2003.02.12)

うん、仕方がないよねニコ(´ω`*)

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