「まったく、何で君はいつもそうなんだい?」
「それはこっちの台詞だよ!」
バン!と机に拳を入れたら書類がヒラリと舞った。
兄弟と、いつもの台詞、いつものやりとり。
僕の兄弟はとってもワガママ気侭。なまじワガママも押し通せる力があるもんだから本当に始末に負えなくて、だからときどきビシッ!と言ってやんないとなって思ってる。‥‥まぁ90パーセント諦めちゃうんだけど(だってアイツ怖いんだよ!なんで僕が訪ねるときいつもチェーンソーとかトンカチとか持ってるのさ?!)、残りの10パーセント、なけなしの何かを振り絞って意見したりもする。だって兄弟だからね。そういうところはちゃんとしないとって言ってたのは、あれはイギリスさんだったっけ?うん、フランスさんが言いそうな台詞じゃないし、たぶんそうだよね‥‥って、ん?
「‥‥あ、ちょっと、アメリカ!?」
‥‥とまぁ、僕がぼんやり(ほんのちょっとだけだよ?!)してる隙に、アイツときたら「いかにもアメリカ人!」な具合の、こう大きく腕を広げて肩をすくめたりなんかして、そんなオーバーリアクションを残してスタスタ歩いていってしまった。‥‥ああもう、アイツ歩くの速いから追いつけないのに!‥‥もう。
なんだか気が抜けて、膝の力が抜ける。音も立てずに僕を受け止めてくれる油圧式の椅子の音。ああ、いつの間にか立ってたんだ。乱暴に腰掛けたわりに欠片も軋まない、この椅子見習って(しかもアメリカ製だ!)おとなしく話を聴けっていうんだ、アイツめ。
「アメリカめー‥‥」
「んー?なに、兄弟ゲンカはもうお終いか?」
「ケンカじゃないですっ、隣国としてのれっきとした意見ですから!」
があッて吼えるように言い返したら、ものすご〜くしょうがないなぁって感じの苦笑と一緒に頭を撫でられた。
いつの間に傍にきたんだか‥‥まぁ会議の後だから居たって別に不思議じゃないんだけど、それを差し引いてもフランスさんはいつだって「俺フランス人だからー」っていう華やかオーラのくせに、気がついたら隣に居たりするからこの人はこの人でアメリカとは別の意味で始末に負えない。まぁ、小さな頃一緒に暮らしてたから気配に慣れちゃってるってのもあるのかもだけど。‥‥ていうかいつまで頭撫でられるんだろ。
「もう、子供じゃないんですからやめてくださいよ」
「あーはいはい、子供じゃないよなーだからケンカは止めな?」
「むー‥‥」
‥‥もう、本当に気が抜けた。そりゃ確かにフランスさんやイギリスさんからすれば僕たち兄弟なんててんで子供で、「仕方がないなァ」って気分になっちゃうのかもだけど。‥‥けどさぁ。
「‥‥意見くらい、聞いてくれてもいいのに」
「ん?」
優しく頭を撫でてくる手。低くて優しい、柔らかい声は僕の話を全然聞いてくれないあの兄弟とは正反対で、なんだか小さな頃を思い出しそうになる。俯いてしまった僕に、優しさだけを伝えてくれる手のひらに、ほろほろと言葉を落としてしまいたくなる。
「アメリカは。‥‥もう、力も強いし、僕だって頼ってるところもあるけれど。けど、強いからってずっとあの調子だと、良くないです。‥‥イイヤツなのに。本当に陽気でおおらかでカッコイイし、だから、変なところで誤解されるのなんて、ダメです。僕が、イヤなんです」
‥‥ああ、そっか。不意に、ストンと納得した。
そうだ、僕はアメリカのことを、他の皆に悪く言われたくないんだ。
アイツはとても強引でマイペース過ぎるくらいマイペースでワガママ気侭で、力もあるし時々本気で酷いことしてくるし酷いヤツなんだけど。けど、‥‥だって、兄弟だから。
小さい頃一緒に過ごした、良く似た面差し、くっついて一緒に眠った夜、傍に居たフランスさんやイギリスさん、彼らが居ないときは、二人で過ごした全ての記憶。‥‥僕の、大切な兄弟。
「‥‥お前は本当にいいコだねぇ」
「‥‥‥‥もう、だから子供じゃないですってば。って、うわッ!」
頭を撫でていた手が離れたと思ったら、ガバッと思いっきり抱き締められた。座ってる僕の隣に立ってたフランスさんだから、ちょうど胸に頭を抱き込まれる体勢になっちゃって、ちょっとフランスさん、苦しいですってば!
「フ、フランスさん苦しいです」
「お?ああ、ゴメンゴメン、お兄さんカナの優しさにキュンてなりすぎちゃったよー」
「はぁ‥‥」
放してくれたフランスさんを見上げると、何だか花を飛ばしてる感じのキラキラオーラを背景に、また頭を撫でてくれた。あー可愛いーとか呟いてるけど、何のことだろ?可愛い?‥‥ああもういいや、好きなだけ撫でてくださいって気分だ。
‥‥とはいえ、今これからは、ダメだけどね。
机の上に投げてた資料をかき集めて立ち上がる。絶妙のタイミングで頭から手を離してくれたフランスさんに、姿勢を正して向き合った。いろんなことを解った上での、優しい笑顔。ああ、やっぱりフランスさんは大人だなぁってこういうとき、凄く思う。
「それじゃあ、僕もう行きますね」
「はいはい。あ、なんならお兄さんが特製ハンバーガーでも作ってやろうか?」
青いケーキは作んないけどね!と綺麗なウインクで言われたのに、軽く笑う。
フランスさん特製ハンバーガー。そういえば、アメリカのうちにはフランスさんもちょっとの間だけど滞在してたこともあって(それじゃなくてもフランスさんのごはん美味しいし)、だからきっと、手土産に持って帰ったらアメリカだって上機嫌になるだろうし、ていうか僕個人も特製ハンバーガーにすっごく惹かれるんだけど。
「‥‥今日はいいです」
「そう?」
「はい」
シンプルに答えたら、フランスさんは苦笑した。つられて、僕も笑った。
軽いハグと握手でお別れの挨拶をして、背を向ける。さあ、早くうちに戻らないと。
今度一緒に食べにおいでって声に、はーいって子供みたいに返事をした。
「‥‥遅いよ、君。おかえり」
「アメリカが早過ぎるんだろ。ただいま」
「パンケーキ食べたい」
「メイプルシロップかけるかい?」
「あー、うん」
カチャリと自宅のドアを開ければ聞き慣れた声がポイと寄越された。
兄弟と、いつもの台詞、いつものやりとり。
ワガママ気侭で始末に負えない兄弟だけど、そう、兄弟だから。
特製ハンバーガー持って帰るより、僕の焼いたパンケーキとメイプルシロップをねだって食べてくれるアメリカだから。
だから結局、このまま。いつまで経っても変わらない僕ら。
だって僕らは兄弟だからね。‥‥仲良くやろうぜ、OK?
Yes,Yes,my brother!
the end.(2008.08.08)
「‥‥だから!蛍光ブルーのケーキ輸出するとかホンット止めなってば!!」
「日本はいいって言ってくれたぞ!」
「日本さん顔真っ青だっただろ!?」
「あっはっは、青いケーキとかけてくれたのかな?素敵なジョークだよね!」
「あーあーあー君ってやつはあああ‥‥ッ!」