秋っていいよね。
収穫の秋、実りの秋。視界いっぱいの小麦畑、ゆらゆらと秋風にたなびく黄金色の穂はとても綺麗だよ。‥‥‥‥うん、君のところも似たようなものだよね、けれどほら、僕の家のほうが秋は短いから。だからかな、冬の前の豊かな黄金は本当に、すごく綺麗だと思うんだ。きらきらしてて、ええと、その、ちょっと、あの人の髪みたいだ、とか。思うんだよね、あはは。‥‥‥‥うるさいなぁ、全然違うよ、僕や君の髪とは。すっごくきらきらで綺麗なんだから!
冬も好きだよ。
雪はねぇ、本当、見飽きるくらい見てるし場所によっては年中見れるんだけどさ。けれど、それでも時々、ああ綺麗だなって思うんだ。それに、冴えた銀の雪原に立ってると、独りなんだなって思う。‥‥‥‥ん?ああいや、寂しいとかじゃないよ。‥‥‥‥うんそうだね、ありがとう。今年もスキーにおいでよ?歓迎するから。あっ、でもくれぐれも先に連絡はとってくれよな。‥‥‥‥もう、去年なんて大変だったんだからな!それにもしかしたら居ないかもしれないし。‥‥‥‥ああ、そうじゃなくて。去年ね、カナディアンロッキーのほうに別荘借りて過ごそうかって話をしたから。‥‥‥‥ふふ、この前あの人のところに行った時、陛下が「今冬は何かあるの?長期休暇をとるためにあの子、随分と働いているみたいだけれど」だって!ああ、どこら辺の別荘にしようかなぁ、すっごく楽しみなんだ!
春は勿論楽しみさ。
やっぱりね、春は待ち遠しいよ。雪は嫌いじゃないけれど、なんといっても長いから。それに、春は花がたくさん咲くだろう?‥‥‥‥いいじゃないかっ、好きなんだから!大体君だって昔っから僕のところによくブーケ持ってくるじゃないか。なんだい、君だって花が好きなくせに。‥‥‥‥庭を造るの、好きなんだよね。僕もだけど、ほら、あの人。小さい頃彼が植えてくれた薔薇垣、すっごく大きくなったんだよ。春になると、手入れに来てくれるんだ。薔薇の花びらいれた紅茶淹れてくれたり。‥‥‥‥勿論メイプルシロップもいれるよ!あれ、この前僕が君の家に置いて帰ったシロップ使いきったっけ?‥‥‥‥そう?じゃ、また持っていくね。ホットケーキにかけると美味しいよ、君も使ってくれ。あ、コーヒーにメイプルシロップ入れるかい?はい、どうぞ。‥‥‥‥分かったってば、また作りにいくさ。
それから、夏は‥‥
「あ、イギリスさん!‥‥じゃあアメリカ、また後でね」
「ああ」
言い置いて席を立つ兄弟を、俺はメイプルシロップがたっぷりと落とされたコーヒーをかき混ぜながら見送る。
軽やかな足取りは、ふわふわとしたいつもの彼と同じようでいて、全く違っている。あの足取りは、彼の傍へ向かう為、それだけのもの。彼以外には、‥‥俺には。決して向けられない、軽やかで甘やかな。恋をする人のもの。
秋がいいと言う君。
視界を占める黄金の穂海が、彼の髪のように美しいから。
(俺の髪とは違うと言い切るその純粋で無邪気な残酷さ)
冬が好きだと言う君。
銀雪に閉ざされて、ただ二人の世界を楽しめるから。
(雪嵐の夜ただ二人だけ寄り添って眠った日々を君は忘れてしまった)
春が楽しみだと言う君。
君の為に植えられた薔薇を、君の為に手入れをしに来る彼に会えるから。
(俺の届けるブーケは美しく花瓶に活けられて、そうしてすぐに枯れてしまう)
「‥‥じゃあ、夏は?」
聞きそびれた回答は、もう君の頭の中にはないのだろう。だってほら、彼の傍で笑う君は、もう彼しか見えていない。
秋も、冬も、春も。君が好きなのは、その全てに君が愛する彼がいるからなんだろう?なら、夏がどうだなんて、聞かなくたって解るっていうものだ。
‥‥ああ、けれど、そうだね。
「‥‥夏なんて嫌いだよ」
じりじりと照りつける太陽。
灼熱の光は全てを焼き尽くす勢いで世界を燃え上がらせ、白く熱く染め上げる。息をすれば身体の内から焼かれていく、涙さえも焼き尽くす灼熱。‥‥焼き尽くす、この恋慕に似て。
そんな熱、君なんて触れたらきっと、泣いてしまうよ。
だから君も、夏は嫌いでいるといい。
美しい秋を、冬を、春を。君はただ、愛する彼の傍で、愛され笑っていたらいい。
君を苛む真夏の太陽は、俺がずっと呑み込んでいてあげるから。
「イギリスさん、お久しぶりです!」
「バァカ、この前も会っただろ?ああ、カナダ、冬の別荘の件なんだが、ちょうどいいところが‥‥」
甘ったるい色をした二人ぶんの声を遠く聞きながら、甘ったるいコーヒーを飲んだ。彼が落とした金色のシロップは甘く体内を焼いて、音も無く身体の奥底に沈殿していく。
甘い金色の糖蜜に溺れた太陽を思い描いて、俺は小さく笑った。
溺れる太陽
the end.(2008.10.19)
好きなひとの傍で、君は美しく笑っていてくれよ。
好きなきみの傍で、俺は静かに想いを呑み干すから。