特別な朝を、さてどうやって迎えよう?
バァン!と勢い良く開かれたドアの音と、ガバッ!と椅子の背当てごと背中から熱くて重い身体に抱き締められたのと。その二つがせいぜい2秒以内の出来事だっていうのは、のんびり屋の僕には手品みたいにさえ感じられた。
だって、手にしてたベーグルを置く暇さえなかったんだよ?
彼は僕がのんびりだからだっていつもいうけれど、僕にしてみれば彼が早すぎるんだ。
今だって、ほら。
「ああ、おはよ、アメリ‥‥」
「カナダ、君!なんで起こしてくれなかったんだい?!」
あのね、君、本当もう少し、のんびりしなよ。っていうか、僕の話を聞いてくれよな。そんなにぎゅうぎゅう抱きつかれるの結構苦しいんだってば。あと耳元で喚かれるのも結構キツイんだ、キミ声がおっきいんだから。それと君、朝からなんだってそんなにテンションが高いんだい。
‥‥と、その全部を言ったとしてもきっとアメリカは聞かないだろうから、とりあえず一言だけ、反論することにした。
「起こしたよ」
「俺はさっきまで寝てたぞ?!」
「起こしたけど、君が起きなかっただけだよ」
「それは起こしたって言わな‥‥ッうぐ」
問答無用で片手に持ってたベーグルを肩越しにアメリカの口に突っ込んだ。世の中話し合いも大切だけれど、時には実力行使も大事だってこの前新聞の論説で読んだっけ。全くもってその通りだね。
僕ははふぅとため息をついて、肩口でむごむごと動いてるアメリカの顎の感触と、ぽしょぽしょと落ちてくるベーグルの欠片を頭を緩く傾けて避けながら、おっとりと卓上のコーヒーへと手を伸ばす。‥‥ぎゅうぎゅうと抱きつかれてるせいで腕が伸ばしにくいけれど、そーっと‥‥よし、なんとか捕捉。
「はいコーヒー」
腕をたたんで、おっとりと肩口へ。頬っぺた辺りがカップから伝わる熱で少しだけほかほかする。カップの縁をアメリカの唇が捉えたのをカップ越しの振動で知って、それから、そろそろと其れを傾けた。
こくり、こくり、アメリカの喉の音が僕の耳のすぐそばで聴こえる。
それをきっかり3回聴いてからカップの角度を元に戻して、やっぱりおっとりと卓上へ戻した、ところで。
ぎゅうぅっと、アメリカの腕が僕を強く抱き締めてきたのに、やっぱりはふぅと息を零した。
「‥‥なんで起こしてくれなかったんだい」
「君が寝てたから」
「俺は起こして欲しかった」
「疲れてるのかなって思ったから」
「‥‥‥‥それは君のほうこそ、だろ」
大きな声のアメリカが、すごくすごく小さな声で囁く。耳元。少し拗ねた、ちょっとだけ眠気の残る優しい声。
昨日もいっぱい優しい声で、‥‥少し掠れた、熱くて優しい声で。
僕に囁いてくれたよね。
『‥‥カナダ、』
キスをして、しがみつく僕の腕をぎゅってしてくれて。
痛がって泣く僕を抱き締めて、息さえ上手く出来なくなってた僕を宥めて。
けど君も少し苦しそうな、ちょっと泣きそうな顔で。
『‥‥好きだよ、好きだ君のこと、が。‥‥カナダ。だから、』
「‥‥まったく、今日は俺が食事を用意する筈だったのに。コーヒーだって君好みにちゃんと入れてベッドまで運んであげるつもりだったんだぞ?ていうかベーグル、今朝の為にわざわざ買って来たのに、それに、」
「アメリカ」
ぶちぶちと肩口で続く言葉は、僕が名前を呼べばぴたっとおさまった。
もう、最初からそうやって静かにしてくれてたらよかったのに。君、本当騒がしいったらないよ。
‥‥ああ、いや。でも。これくらいでいいのかも。
ごく普通に迎えた特別な朝を、どうしていいのかわかんなくなるよりは。
「アメリカ。言っとくけど、僕ちゃんと起こしたからね」
「‥‥ちゃんと目を覚ますまで起こしてくれよ」
「嫌だよ」
「何で!」
「‥‥顔、合わせるの。ちょっと、恥ずかしかった、から」
ガバッ!と起き上がりかけたアメリカの頭を、ガシッ!とコンマ差で競り勝って押さえつけるのに成功した。ついでに抱きついてきてる腕も上から押さえつけて、動けないように逆ホールドする。なんだ、僕だってやれば出来るじゃないか。‥‥ちょっと身体が痛いけど。いや、結構、かなり。
「カナダ?!ちょ、カナダ離してくれよ!あ、違う離さなくっていいんだけど‥‥ってあれ、これも違うな、ええと、‥‥あ、そうだ抱き締めさせてくれ!これで正解だね!なぁってば!!」
ああもう、君は本当にうるさい。声が大きい。まったくもう、何で僕がそろそろとのんびり動いてると思ってるんだい。なんかもう身体は中も外も痛いし、君の腕は強いし、あったかいし、‥‥本当にどうしようもないよ。どうしようもないくらい、好きだよ。
「カナダ、ねぇってば!」
「うるさい!‥‥もうちょっとそこでおとなしくしててよ!」
「いや!此処はヒーローっぽく恋人を熱烈に抱き締めるシーンだろう?!ねぇってば、ちょっと!カナダー!?」
「うるさーい!」
じたじたと暴れるアメリカを全力で押さえつけて。
せめてこの頬の赤らみがひくまではと何故だか全力の力較べになっちゃった、特別な日、初めての日の朝。
僕ららしいって笑いあって、特別甘い、モーニングコーヒーとベーグル味のキスをするまでは、もう少し。
First Fight Morning
the end.(2009.05.24)
初めてエッチした翌日の朝のお話。
カナダさんがおっとり動いてるのは当然痛いからです(´∀`)
アメリカは初めての日の朝にいろいろ夢があったんだよ、モーニングコーヒーとか(笑)
「『昨夜の君は素敵だったよ』、も言ってないのに‥‥!」
「言わなくっていいよ、まったく‥‥。ほら、ベーグル食べよ?コーヒーも入ってるから。メイプルシロップいれるかい?」
「あー、うん。くそ、ベッドルームで君にサーブするのが夢だったんだぞ‥‥」
「はいはいはい。ほら、コーヒー。熱いから気をつけてね」
「モーニングコーヒー‥‥」
「‥‥。君、本当可愛いよねぇ」
「な!なに言ってるんだい?!可愛いのは君のほうだろう!」
「えー?いや、最中もなんか、こう‥‥。うん、『昨日の君はすっごく素敵で可愛かったよ?』‥‥プッ」
「ちょ、言われた!台詞取られたー!!!」