ゆっくりゆったり丁寧に、手間を掛けて編み上げよう。
少しずつ形になっていくそれに、さあ何を入れて出かけようか。









不意に響いた硬質な音に、フランスは反射的に指先の動きを止めた。

その止めの動作に、硬質さとは無縁の軽く柔らかな音が指先から零れる。
聞き慣れた軽い音と指先の感触は、一瞬揺れた精神をやんわりと宥めてくれた。フランスは一呼吸置いてから手元に落としていた視線をゆるりと上げ、そのまま仰のくように上へと目を遣る。石造りの床に厚織りの毛織物を敷いて直に座り込んでいるせいか、普段より天井が高く感じられた。
その普段より高い天井をぐるりと見回せば、硬質な音の正体はすぐに知るところとなる。雪避けにと傾斜をつけた屋根に配した、小さな嵌め込み窓が小刻みに揺れていた。硝子越しには四角く切り取られた青く澄んだ空が見えるばかりだが、どうやら外は強い風が吹いているらしい。
その硬い音にフランスはふとこの地の、長く厳しい季節を思い出す。
この世界のあらゆるものを冷たく白く染め上げんばかりの雪嵐、厚く着込んだ衣服の隙間からそろりと這い込み、身体の芯の熱まで根こそぎ奪わんばかりの厳しい冷え込み。初めてこの地で冬を迎えた年は、まさしく息を呑んだものだ。何せ吐く息さえも凍りつくのだ。
あの雪と氷の季節を肉体が思い出したのか、知らず震えた己の反応に、フランスは苦笑する。つられて指先に絡み捉えたものもまたカサリと小さくざわめいて、フランスの笑みを深めた。
一面の雪原も凍りついた湖面も本国に全くないわけではなく、そもそも全て承知の上でこの地での越冬を試みたのだから、後悔であるとかそういったものは一切ない。ないものの、さすがに堪えた事実までなかったと己に偽る理由もこれまたないので、フランスはひとつ大きく息をついて気分を切り替えることにした。
なにより、7月ともなればさしものこの地でも雪の混じった風などは吹かないし、‥‥凍りつきそうなあの季節も、独りで過ごしたわけではなかったのだから。

そう、傍に寄り添い、あたためてくれている存在が居てこその。
凍りついた厳しい世界の、けれども辛くはない日々だった。



「カナダ」



ぽふん、と。
背中に掛けられたごく軽い負荷に、フランスは甘やかな声でその重みの正体を呼ぶ。
床へ直座りしている為ゆるく丸めていた彼の背中は、どうやらその小さな存在にとっては格好のクライミングコースに思えたようだ。ぶつかるように抱きついてくるなり服の布地を小さな手のひらで握り締めて、よじよじと登られているらしい己の背中に、フランスは軽く笑って前に屈んだ。

「う?」
「はぁい、登はん終了。‥‥ほら、こっちおいで」

屈んだまま顔を横に向ければ、肩には零れそうに大きな目をした、愛らしいこどもの顔。
真っ直ぐに向けられる、静謐な湖水の色をした瞳に甘く笑いかけてから、フランスは腕を伸ばして己の肩を乗り越えさせるように、胸へと抱き込んだ。
ふわふわとした糖蜜色の髪からはまさしくシュガーのように甘いこどもの匂いがして、フランスは湧き上がる愛しさのままに笑みを零した。
ああ、可愛い可愛い可愛い。

「フランスさん」
「ん?どうしたー?」

急激な視界の転換に驚いていたのか、しばらくの間ぱちぱちとその大きな目を瞬かせていたカナダであったが、そこが己を庇護し愛してくれている存在の腕の中と知るや、ふんわりと笑ってその名前を口にした。
覚えたてのフランス語はやや舌っ足らずで、けれど丁寧に話そうとしている様がいよいよ愛らしいと、フランスは心の底から思ったものだ。

フランスがこの小さな存在と出会ってから、まだいくらの年月も重ねてはいない。
それなりに過去の記憶も自我もあり、己がどういった『存在』であるのかも認識しているようだが、フランスにしてみれば今はまだ庇護し守ってやるばかりの存在だ。
実際問題、現在この大陸には複数の顔見知り‥‥それも顔をあわせれば「やあ元気だった?」では済まされない連中も複数、それぞれの思惑で家や足場を築いている。そんなところにこんな幼子一人を置いて本国に帰ってなどいられないという事情も、あるにはあるのだが。

「あのね、フランスさん、手が止まったから、お仕事終わったって、だからぎゅってしていいかなって思ったの」

‥‥‥‥もうカナダが可愛いからずっと傍に居たいって理由でもいいんじゃねえかな。

とまあ、本国の上司が聞けば葡萄が房ごとワインが壜ごと投げつけられそうなことを思ったフランスであったが、同時にその言葉に己の指先から馴染んだ感触が失せていることに、ようやく気がついた。

「‥‥あら、」
「?」

フランスの視線が己を越えて床に向けられているのに気がついたカナダが、その視線を追って身体を捩る。
向かい合うようにして抱いていた小さな身体の動きを妨げぬよう、フランスは適度に腕を緩めてカナダが方向転換するのをしばし待つ。胡坐をかいた膝の上に小さな身体がおさまり、やわらかい背中が己の胸にふんわりとした重みをかけてくるのを確認してから、腕を伸ばして床に散らばったものを拾った。
カサリと軽い音をたてて拾い上げた其れは、先ほどまでフランスが指先に絡めていたものだ。それまで頑なに指先に保持していたものを、カナダを抱き取るときに投げ捨てていたようだ。
我ながらあからさまだなと内心で苦笑しつつ身体の前に掲げれば、合わせてカナダの目が追ってくるのが分かる。
フランスはこれが何であるのか問うように、子供の眼前でヒラヒラと動かした。
きっちりと下準備した其れはしんなりと長く、彼の指先の動きに合わせて滑らかに揺れた。

「これ、なあに?」
「フランス柳だよ。籠を編む、材料だ」

カナダがきちんと聞き取れるようにゆっくりとした口調で答えてから、フランスは脇に置いていた9割がた編み上がっている籠を引き寄せた。 底を平らに作ってから二重に厚く編み上げて箱型形状を安定させている大きめの蓋つきバスケットだ。同じ籠でも普段使いのマルシェ籠とは違い、完成させるにはかなり手間と時間と体力腕力がいる品である。
実際、編み始めたのはこの住処が雪と氷に閉ざされていた季節だった。
身体が冷えないよう毛皮の上掛けで小さなこどもをすっぽりと包んでやり、暖炉の傍らで寝かしつけながら、その枕元で丁寧に、ゆっくりと編んでいったことを、フランスはやわらかな気分で思い出す。

「あとは持ち手つけて、内側に布を張れば出来上がりだな。‥‥触ってもいいぞ」

そう言ってカナダを膝から降ろしてやれば、カナダはキラキラとした目で一度此方を見遣ってから自分とそう大きさの変わらない籠へと向き直り、そうっと小さな手を伸ばす。
そのあまりに慎重な様子に小さく笑いながら、フランスは床に散らばっていたフランス柳をかき集めていった。本体ではなく、仕上げにかごに取り付ける小さな細工物を編んでいたので、たいした量はない。
しっかりと下処理し薄く均一になるよう加工した柳は、繊維の目も揃ってしんなりと扱いやすい。バスケット本体は、それこそカナダを入れても壊れない程度の強度を出す為に、強く太い繊維の詰まったもので厚く編み上げたが、今手元に残っているのは羊毛糸のように柔らかな其ればかりだ。
そんな柳を見るともなしに眺めていたフランスであったが、ふと視線を転じて傍らのこどもへと目を遣った。
カナダは何がそんなに気に入ったのか、大きなバスケットを飽く事もなく眺め、そろそろとした手つきで触っている。
その姿にもはや何度目かすら判らない笑みを口の端に浮かべ、フランスは手元の柳をスルスルと編み始めた。扱いやすい繊維なうえ長年慣れ親しんだ作業である、目的のものはあっという間に編み上がった。

「カーナダ」

呼び声と、編み終わりの処理をする鉄鋏のシャキリと鋭い音に驚いたのか、バスケットを触っていたカナダが振り向く。大きな目が先ずフランスの顔へ、それからその手元に現れたものに向けられた。それにフランスは薄く笑って、手のひらのものをカナダへと差し出した。

「やるよ。これも、その籠と同じ、かばんだ」

それは確かに小さなカバンであった。
もっとも、カバンというには小さく、せいぜいがカナダの両のてのひらぶんほどの大きさしかない。平面を二枚剥ぎ合わせたようなつくりは、カバンというよりコインケースだとか、小物入れといった風だ。
けれども小さなこどもの手の中にあれば、確かにカバンといって差し支えない大きさにも見える。

「鞄だよ。言ってみな?」
「かばん」
「そう」
「ぼくの?」
「そ、お前の、かばん。いろんなものを入れておく袋だ。大事なものをそこにいれておけば、失くさずに持ち運べるだろ?」
「だいじなもの‥‥」

フランスの台詞をところどころ復誦しながら、カナダは手のひらに乗せられた小さなカバンをじーっと見つめていた。これまた後ろのバスケットと同様、フランスには何がそこまで彼を惹きつけるのかは解らなかったが、こどもとはえてしてそう言うものだと納得して、ナシナシとそのふわふわした頭を撫ぜてやる。撫ぜながらカナダと己の編んだ小さな作品を見て、この大きさなら肩から提げられるポシェットに出来るかな、と考えた。

(なんか肩紐になるようなモンあったっけなー‥‥共で編んでもいいけど、それじゃ肩に痛ぇだろうし。あー、なけりゃ俺のベルトを一つ切って‥‥ああそうだ、アスコットタイを解いて細く仕立て直せば‥‥)

と、そのようなことをアレコレと考えていた為、彼は気づくのが遅れた。
思案しながら一頻りこどもの頭を撫ぜ、ちょうどよいタイがあったと結論し、自室へ取りに行こうと立ちあがったところで、ようやっと気がついた。

「フランスさん」
「‥‥ん?って、え、‥‥カナダ?!」

ふわふわした蜜色の髪は、いつものとおり。
ふくふくした白いてのひらが、フランスの服の裾を握ってくるのも、いつものとおり。
小さな身体も愛くるしい顔立ちも普段のまま、唯一普段と違ったのが。



見上げてくる湖水色の大きな瞳が、まさしく湖のように水を湛えて潤んでいたことだ。



「え、あ、どうした?!お兄さんなんかしちゃった?!」

先ほどまであんなに楽しそうだったのに一体何が?!と。フランスはまさに泡を食って、足元の小さな身体を抱き上げた。
まだまだ小さなその身体は、実のところ片腕でかかえ上げることもできるくらいなのだが、フランスは両腕でそっと抱き上げる。
片方の腕に座らせ、背中を支えて視線をあわせられる高さまで持ち上げてやれば、大きな其れにいっぱい涙を溜めた目が、フランスの目をじぃっと見て、それから更に困ったように俯くと、フランスの首にしがみついてきた。首の後ろが微妙にちくちくするのは、彼が先ほど渡した柳製のカバンを持っているからだろう。

フランスは困惑した。

抱きついてきてくれるところを鑑みるに、嫌われたわけではないらしい。かといって、己の名を呼び、顔を見てから泣きそうになったのだから、原因は恐らく自分にあるのだろう。むしろ自分以外というほうが怖い。この家には、自分とカナダ、そして彼のペットの(というかこれまでの親と言うか、一緒に居て小さなカナダの面倒をみてくれていた)シロクマが居るだけなのだ。そのシロクマは今はどこかに出かけている。‥‥あれ、これカナダを泣かしたと知られたら、結構怖いことになるのではなかろうか。だって相手はクマだし。

そんな具合に、困惑どころか混乱したフランスの思考を現実まで引き戻してくれたのは、その原因たるカナダ本人だった。

「フランスさん」
「‥‥え?あ、ああ何だ?」

いつのまにか顔を上げていたカナダが、腕の中から見上げるようにしてフランスを呼ぶ。そのこどもの目には未だ涙が溜まって困ったように眉が寄せられていたが、今すぐに泣きそうというほどではない様子に、フランスはほんの少しだけ安堵した。 僅かでも怯えさせないようにと、フランスは最大限意識してやわらかな微笑を浮かべる。
本国やその周辺の国々で、魅力ある人間ならば男女を問わず殆ど無意識で振り撒いてきた笑顔、よく言えば優雅悪く言えば軽薄な物腰を知る悪友たちがこの姿を見たならば、爆笑するかいっそ居た堪れない気分になって目を逸らしたことだろう。
まあ、そうされたところで今のフランスは「だからどうした」と堂々言い放つだろうが。
それなりに長く生き抜いてきた中で、小さな子供‥‥こどもの『国』はいくらか見てきたし、幼かったイギリスやイタリアらの面倒をみたこともあったが、今腕に抱いているこの存在は、別格なのだ。
自分でも、何故これほどまでと思わなくもないほどに。
出会い、その小さな身体を抱きとってからまだ本当に幾らも経っていない。長い年月を渡ってきたフランスにしてみれば、それこそ瞬きするほどの時間にしかすぎないものだ。
そう、それこそ編み籠でいうなら、未だ底面さえ編みあがってはいない状態かもしれない。全体図など想像もつかない。
‥‥この関係は、脆く儚い。周辺の連中がどうこうより、フランスとカナダの繋がりは未だ、編み始めの結び目にしかすぎないのである。

だからこそ。だからこそ、努力を重ねるのだ。
この小さな存在を守れるだけの強さを持とう。あたたかな腕を伸ばされるに足る存在であろう。その笑顔をいつまでも見つめていられるように、仕事が終われば背中に抱きついてこられるように。
あの厳しく閉ざされた雪と氷の世界を、ただふたり寄り添い、熱を分け合って過ごせる存在であるように。

フランスさん、と小さな声が呼ぶ。
気長に教えてはいるものの、まだまだ慣れない言葉をそれでも懸命に組み立て操って気持ちを伝えようとするカナダの言葉を、フランスはじっと待つ。星屑を沈めた湖のような瞳にはいまだ涙の気配があったが、どうやら涙を零すより問題解決の為にフランスに意見することにしたようだ。

小さな手のひらが、フランスの頬にそっと触れてくる。
まるで先ほど、籠に触れていたときのような手つきだ。

けれど動かぬ籠とは違い、フランスはその小さな手をとってそっと包み込んでやり、己の頬にぴたりとくっつけてやった。
ふにふにと柔らかく熱い手と、そうすることでどこかほっとしたように解かれたカナダの眉に、フランスこそほっとした気分で内心で大きく息をついた。
しかしカナダはといえば、まだ泣きそうになるほど困った事態が全面解決したわけではないらしい。
まるで何かを決意するように、一度きゅっと口を噤んでから、再びフランスの名を呼んだ。

「フランスさん」
「ん‥‥此処に居るから、ゆっくりでいいから、思ったこと言ってみな?」

さすがに再三名を呼ばれれば、何かを伝えたいらしいことに気がつく。
ずっと一緒に待ってるから、と。言い含めるように伝えれば、今度こそ安心したように微かではあるが、幼い顔に笑顔が広がった。フランスさん、とまた名前を呼ばれる。‥‥はて、言い回しが思いつかないのだろうか。
とりあえず立ったままも何だからと、フランスはカナダを抱いたまま続き部屋になっている居間へと移動する。此方の部屋もまた石造りの床の素朴なものだが、立派な拵えの暖炉を構えて(夏でも寒い日があるので薪も置いてある)その前にはフランスが本国から運んできた優雅な作りのソファを置いていた。
移動に揺れる身体を安定させる為か、きゅっと肩の辺りの布地を握りこむ白く小さな拳に和やかな気分になりながら、フランスはこどもごとゆっくりとソファへ腰を据えた。膝の上に改めて抱き上げるようにして、小さな可愛い子と向き合う。大きな瞳が見上げてきたので、それに微笑んで目の縁に唇を寄せ、涙を吸い取ってやる。

「カナダ」
「あのね、だいじなの、フランスさん」
「?」

フランスを見上げて言い募る姿は、懸命だ。
きゅっと結んだ手には、先ほどフランスがあげたばかりの、小さな編み鞄がある。
それは小さな手に、そっと抱かれていた。大切そうに。
フランスが彼に与える愛情そのものを、そっと抱くように。



「ぼくの大事なものは、フランスさん。でも、このカバンじゃ、フランスさん入らないから。どうしようって」



いつも一緒に、居たいのに、と。
そう言って心から困ったように首を傾げるカナダを、フランスはそっと大切に、抱き締めた。
小さな身体はけれどとても温かく、あの閉ざされた雪と氷の日々のように、フランスの身体と精神にやわらかな温度を与えてくれる。
‥‥ああもう、本当にこのこどもは。

「‥‥‥‥うんうん、その大きさじゃ、確かにおにーさんちょっと入んないな」
「うん。どうしよう。失くしちゃわないかな。どうしよう」
「大丈夫」
「?」
「失くさないよ、大丈夫。カバンに入れなくても、一緒に居るよ。‥‥ずっと、一緒に居るから」

囁いて、抱き締めた。
その身体は本当に小さくて、少し力を入れれば抱き潰してしまいそうなほど華奢な身体には、けれど一途で優しい思いに溢れている。
なんて可愛い、なんていとおしい。‥‥もう、手離せない。

「あー‥‥マジ鞄入れて持って帰りてぇ‥‥」
「もう、だから、入らないよ」
「うん?ああ、そうねお兄さんは入らないねぇ」

ニヨニヨと笑みが止まないフランスに、真剣に取り合ってくれていないとでも感じたのか、カナダはその小さな頬をぷっと膨らませて、微妙に怒っているようだ。
その姿すらも可愛くて、ますますフランスの笑みは深くなる一方で。

「もう、いいもん」
「あー、待って待って。うん、確かにおにーさん鞄に入らない!けど、実は秘密の技があるんだぞ?」
「え?」

ひみつのわざ、と復誦したカナダに、フランスが殊更しかつめらしい顔を作り頷いて見せれば、大きな目をキラキラと瞬かせてフランスを見上げて来た。

「ひみつのわざって、なあに?教えて」
「うん、それはだなー‥‥ほら、手」
「手?」

手を差し出せば躊躇いもなく乗せられる、小さな小さな可愛い手。
それをそっと押し包んで、フランスは甘やかに笑い、告げた。



「こうして離れないように、手を繋いでれば。鞄に入れなくたって失くさないし、見失わないぞ。どうだ?」



冷たく厳しい冬を二人で越えた日に見た、春の光の如く。
そのカナダの鮮やかな笑顔を、フランスは一生忘れないと思った。
‥‥自分たちの重ねた日々は浅く、結んだ絆はほんの編み目の一目にしかすぎないのだけれども。ゆっくりと丁寧に、過ごした日々を一目一目、編みこんでいけたらいい。

握りこんだ小さな手の熱に、フランスは思った。









「‥‥じゃあ、今日はその鞄に入る大事なものを探しに行くか」
「はい!」

元気な返事に、よし!とフランスも快活に返し、それじゃ準備しておいでと送り出す。トタトタトタと、離れていく軽い足音をまるで音楽を鑑賞するかのようにじっと聞いてから、フランスはよっこらせーと立ち上がった。腕から消えたこども一人ぶんの重みに、やけに自分の身が軽い気がして逆に落ち着かない。
すっかりハマってしまったと、自分に呆れる。呆れつつ、ちっとも嫌だと思っていない自分に、苦笑した。
軽く身体を解すように腰を捻ったり腕を伸ばしたりしながら、編み仕事をしていた場所へと戻る。散らばった柳を手早く集めて、鋏などの金道具と一緒にまとめて先ほどのバスケットの中に放り込んだ。
しっかりとしたつくりのバスケットは、結構な重みのある鋏などにもびくともせず、澄ました風に佇んでいる。‥‥バスケットが完成したら、甘いお菓子とごはんを入れてハイキングにでも行こうか。
ぷりぷりのシュリンプに熟れたアボガドのスライスを挟んだクロワッサン、桜色のスモークサーモンにブリー・ド・モーを添えたブリオッシュ。それともココアクッキーと生クリームをたっぷりはせたスイートサンドウィッチ?

「フランスさーん!」
「ああ、今行く」

まあ、それはカナダと一緒に考えればいいか、ととりあえずの結論をつけて、フランスは玄関へと向かった。
背後の高い位置で、風に叩かれた窓がもう一度鳴いたけれど、もう振り返らずに。
‥‥あの熱い小さな手を握っていれば、やや強い風だって、きっと心地よいものだろう。

「さーて、大事なもの見つかるかなー?」

玄関先で今か今かと待ち構えていたカナダが、にっこりと笑って手を伸ばしてくる。
その手をそっと大切に握り返して、フランスは扉を開けた。









ゆっくりゆったり丁寧に、手間を掛けて編み上げよう。
少しずつ形になっていくそれに、今はまだこの愛だけを詰め込んで。









 アエリエンヌ





la fin.(2008.06.30)

出会って本当に初期の話。兄ちゃんメロメロ。
フランスのひとはカゴが好きらしいですよ。カゴ専門店とか。
しかし何で子供って、すぐ登りたがるんでしょうね‥‥。