西洋の方が椅子に座られている姿というのは、非常に美しいと常々思います。

椅子の文化床の文化、などと区分けされもするほどに、椅子に座る行為と床に座る行為とは、大きく違う。ああ、優劣はありませんとも。ただ、単純に違うというだけですよ。
なにせ筋肉のつき方、果ては骨格までも左右するというのですから!
私は床、というか畳に慣れた国であって、当然拙宅も多くは畳敷きの部屋なのですが、この一世紀ほどの流れで一般の皆さんのお宅は和洋折衷、というのが一般的になりました。というわけで、我が家にも当然西洋式のテーブルセットなどというものもありますし、西洋への憧れのままに洋室などというものも設えております。
当然そこには椅子もあります。洋室ですからね。
家具やインテリアなど美的センスといえばフランスさんかイタリアくん、などが思いつく皆さんです。現在の洋室を整える際には、親しかったイタリアくんにあれこれと選んでもらったものです。最近ではスウェーデンさんの家具なども人気があるようなので、少し気になっているのですが、それはまた別のお話として。

そう、洋室には椅子がある。
そうして、西洋の方が椅子に座る姿は非常に美しい。
痩躯を暖かそうなセーターに包み、本を片手に冬の日差しも柔らかな窓辺の椅子に端座する姿は、いわく言い難い美しさなのです。

「いぎりすさん、のぼるのー」

たとえその膝や背中や肩を問わず、小さな子どもがセーターを伸ばす勢いでうごうごと動き回っていたとしても。

そう。子どもが、美しく座るイギリスさんの身体にへばりつくというかすがりつくというか‥‥まさにこう、うごうご、と。
小さな小さな指先がセーターに掛けられて、おっとりとした動きで身体を揺らしながら大人の背中を上っていきます。まっしろな、まだ歩きなれていない足の裏をみせて‥‥靴下がドアの脇に投げ置かれていますね、躾けに厳しいお父様(‥‥お母様?)に叱られては可哀想なので、居間にでも持っていっておきましょうか。おお、背中を上りきりましたね!ふむ、肩に乗ってから金髪をわしゃわしゃと掻き混ぜて遊んで、おやおや、今度は帰り道ですか?って大胆ですね!頭から胸へと下山、いや下イギリスさん開始?ですか。殆ど逆立ち状態ですねぇ、いやそれはいくらなんでも落ちる‥‥って、ほら!

「きゃぅッ」
「こら、あぶない」

間一髪、胸元を降りるどころか床に落ちかけた小さな子どもを、ほっそりとして見える保護者の腕がひょいとすくい上げました。あれでイギリスさんは意外に力のある方なので不思議ではないのですが、なんていうか、本当に小荷物を持ち上げるように片手で受け止めて、ころんと回して膝上に。

「‥‥あれぇ?」

‥‥どうやら急激な視点の転換についていけなかった子どもは、きょときょとと辺りを見回してから、己を膝に抱いている保護者へと、解らないままににっこり笑いかけました。

「いぎりすさん」
「ん。」

細い、少し冷たい指先が猫の毛のような甘い色の髪をゆっくりとすいています。頭に乗せられた大人の手が気になるのか、小さな手を伸ばしてはそれを捕まえようとして、しかしのんびりすぎるのか、捕まえられないまま。

なんていうか、相変わらずおっとりさんですねぇ。
ええ、小さくなっても、『彼』の可愛らしさは本当に変わらない。
‥‥ああ、いいえ。『彼ら』の、というべきでしょうか?

「‥‥ん?あれ、にほ‥‥菊。どうしたんだ?」
「ああ、いえ」

ようやっと戸口に立っていた私に気がついたらしいイギリスさんが、私へと視線を向けました。その際に身動ぎしたぶん膝から小さな身体がころんと転がり落ちそうになったのですが、それにもごく自然な動作で手を伸べて抱きとめて。また、ちょっとした不安定な体勢にもまったく怖がる様子もなく小さな子は笑ったまま。‥‥彼が、自分を落とすことがないと、信頼しきった笑顔で。

イギリスさんと、小さくなったカナダさん。
こうしてみると、やはりこの人たちは親子なのだと実感します。

常日頃は、年恰好が変わらないせいもあって、さすがにそこまでは思わないのですが‥‥まぁ、彼にそっくりで且つ存在感ありまくりなアメリカさんもいらっしゃいますしね。あまりこのお二人の、身内的な繋がりというのは意識しないのですが。やはり、姿形というのは私どものような姿の変わらぬ存在にも、多少なり視覚的な影響を与えるようだ。
と、此方をきょとんとした風に見ていたイギリスさんが、不意に薄く笑われました。

「なんだ、機嫌が良さそうだな」
「え?」
「笑ってる」
「‥‥おや」

はた、と指摘に気がついて思わず袖元で口元を隠せば、尚もイギリスさんはくすくすと笑われました。‥‥ああ、綺麗な方は、どんな姿も美しいものです。
彼の美しさと、思わぬ親子の柔らかな情景に意識せず笑んでいた私などよりも、よほど。

「‥‥お可愛らしい」
「ん?」

ぽそりと呟いた感慨は、幸いにしてプライドの高い恋人には聴こえなかったようです。まぁ、聴こえていたところで丸め込む(そしてツンデレ具合を楽しむ)ことなど軽いのですが、まぁ、そこはね。

「なんでもありませんよ。それより、おやつが出来ましたので、お茶にいたしませんか?」
「おやつ!」

答えたのは、小さなカナダさんです。
零れそうに大きな、綺麗な青灰色の目をきらきらとさせて、大人の膝の上からぴょこんと飛び降りて私へととてとてとて、走ってきました。ぽふり。甘い甘い、こどもの匂い。

「きく、きくさん、きょうのおやつ、なんですか?」
「ふふ、今日は菊特製の蒸しパンですよ。そうですね、柔らかいパンケーキのようなものです。メイプルシロップも入っていますよ」
「わぁい!」

着物の裾に抱きついて、きゃらきゃらと笑う小さな子どもはとても愛らしいものです。まだ私でも抱き上げられる彼へとそっと手を伸べれば、愛されることになんの疑いも持たない手のひらが、そっと触れてくる。
胸元に抱き上げれば、ふくふくとしたほっぺをぴとりと私のそれにぶつけて、にっこりと笑われました。‥‥ああもう、本当に可愛らしい!

「それでは参りましょうか。イギリスさんも、お早く‥‥イギリスさん?」
「ほぁ?!」

‥‥‥‥。さて、さて。西洋の方は、というかイギリスさんはもう本当に何をなさっていてもお美しいのですが、ときおり突拍子もない声を上げてぼんやりされていたりもしますね。いえそれはそれでギャップ萌え‥‥失礼、多様な面を窺えて楽しいのですが。
何故か椅子に掛けたまま、ぽかーんと此方を見ていらしたらしきイギリスさんに、もう一度お早く、と促してから、私は可愛らしいカナダさんを連れて一足先に居間へと向かいます。

「きくさん、ぼくね、きくさんのお菓子好きなの」
「そうですか。それはとても嬉しいです」
「きくさんも大好きー」
「ええ、私もカナダさんが大好きですよ」
「えへへぇ」

おっとりとした口調で、蒸しパンの歌、とやらを歌われるカナダさんは本当にお可愛らしくていらっしゃる。ええ、今日も蒸しパンを食べている姿をRECです。イギリスさん、あーんとかやってくれませんかねぇ‥‥。
フランスさんやアメリカさんに高く売れそうでゲイツ‥‥ゲフゲフ。









「‥‥‥‥‥‥あああもう、何アイツら、なんであんな可愛いんだよ、クソッ」

座っていた椅子から転げ落ちる勢いで、美しい恋人と可愛い子どもの姿に悶えていたイギリスの姿は、幸いにして誰にも見られることはなかった様子。