ずっと一緒にいるから、対処の仕方だってもう決まってるの。
まったく仕方がないったら!
喧嘩した翌朝は普段より心持ちゆっくりと階段を下りてくるのを、知っている。
もともと俺の兄弟はおっとりとしているし気配に始まって何から何まで薄味だから、ゆっくりとした足音だってごく僅かで、けれど階段の下から3段目の左側を踏むときは少しだけ音が高くなる。あの段だけ軋むんだって知ってるけどさ、まったく、それくらい直せばいいのにあの兄弟ときたら「いいじゃないかそれくらい」だってさ。
勝手知ったるキッチンで一番上の棚からチョコレートシリアル木製のラックからジャムとメイプルシロップ冷蔵庫からミルク、シリアルボールとスプーンはシンク下に取り付けてある食洗機の中に入れっぱなしだから屈んでそれを出してたら後ろからパン用の皿が二枚重ね、振り向かないで肩越しに受け取って見れば上に厚切りのイギリスパンがいつもどおり3枚乗ってるからそのままトースターに放り込む。顔を上げたらジャムとメイプルシロップとミルクは姿を消してて、俺は居残りのチョコレートシリアルをシリアルボールにザラザラって乱暴にあけてスプーンを差して、その横に出されてた星条旗入りのカップを持って横に突き出せば、たぱぱぱぱってちょっと濃いコーヒーのサーブ。俺には濃いんだっていっつもいってるのに「朝はこれくらいがいいんだよ」とか言って、聞いてくれたためしがない。酷いヤツだ!カップの半分くらいまではいった琥珀にミルクとメイプルシロップが足されるのを待ってからカップを引けばトーストの焼きあがる音が聞こえる。そこから白い指先が一枚だけ抜き取って、皿に乗せて出て行く背中。ゆっくりと遠くなる足音、階段、3段目の軋み。彼のペットの朝ごはんは俺達が喧嘩した日だけ、その寝床まで彼が持っていくのを、知ってる。
キッチンの窓からは朝日、兄弟が餌付けしてる鳥達がコツコツ窓を叩いてる。餌のありかは下から二段目のキャニスター、一つかみ持って窓を開ければ、一斉に羽ばたいて彼らが散った。気にせずにぱって持ってる餌を撒く、朝露に濡れた緑に小麦色の、兄弟の友人達の食事。
見上げた空は快晴、短い兄弟の国の夏がもうすぐそこなのは知っているし、吹く風は気持ちよくてまだ青々としたメイプルツリーの若い葉が揺れて、窓の開閉に驚いた鳥達がその葉陰からこちらを伺ってるのも、知ってる。
全部、知ってる。
だって仕方がない、喧嘩したって俺たちは兄弟だしいつだって隣りにいるしこれからだってい続けるし、一緒に遊んで一緒にご飯を食べて一緒に、一緒にいるんだって、もう、知ってる、わかってるんだ。
少しゆっくりとした足音、下から三段目の軋み、あと何歩でキッチンに辿り着くかもチョコレートシリアルやジャムやメイプルシロップの位置も好きなメイプルシロップの量やコーヒーの濃さ、小鳥を餌付けしてること、本当は喧嘩なんてするつもりがなかったこと、ちょっと言い過ぎたってお互いが思ってることもっと優しくしたいって思ってること一緒にいたいって、思ってること。本当は、本当は知ってるんだ、本当は解ってるんだ。
だからもう仕方がない、喧嘩した翌朝に一番最初に言うべき言葉だって、もう知ってる解ってる。
「昨日はごめんねカナダ、愛してるんだぞ」
キッチンの入口、驚いたような拗ねたような目で俺を見る、ぱちぱちとおっとり瞬きしたあと首をふりふりため息をついて、そしておっとりと俺のほうへ歩いてくる恋人が、俺にくれる言葉だって、笑顔だって。
もう知ってる、解ってる。
「僕こそごめんね、アメリカ。愛してるよ。‥‥おはよう」
「うん。おはよう」
知ってはいるけれどやっぱりその度交わすキスは、甘くってほっとするものさ。
まったく俺たちときたら、仕方がないったらないね!
title/『オーディナリィ・オーディナリィ』
誰よりも一緒に居た兄弟だもの、喧嘩の仕方も仲直りの仕方も、仕方がないよね。