「好きなの」
その言葉を聴いたとき、ああ、言われたと思った。
言われた。
言われてしまった。
とうとう彼女に、言われてしまった。
「‥‥好きなの」
ファストフードのフランチャイズ、並びあったカウンター席。
馬鹿みたいに明るい店内は込み合ってて、いろんな音がまるで波のように空間を浚っているのに、ああ、どうして君の声はこんなにも聴こえるんだろうね?
君の声だけ、こんなにも、明瞭に。
「好きなの、あのひとが」
君の心だけ、こんなにも、残酷に。
「そうかい」
「‥‥アル、驚かないの?」
「別に」
何気ない風を装って、とっくに飲みきったシェイクのストローを銜えながら言う。
驚かなかったかって?
ああ、驚かなかったさ。
ちっとも驚くことじゃないよ、君の告白なんて。
「驚かないよ。大体、君が彼を好きなのなんて、知ってたぞ」
だからそう言ったのに、彼女ときたらまるで世紀の告白をした後みたいな、本物の水に潤んだ制で色を濃くした湖水色の瞳を俺に向けたあと、ぺしょりと小さな店内テーブルの上に顔を伏せてしまった。
見慣れた華奢な肩と細い首筋が覗く。ハニーゴールドの綺麗な巻き毛は、今日は飾りつきのクリップで綺麗にまとめてある。白いはずの首筋に、ほんのりとしたピンクを刷いて。
俺はその綺麗なピンク色をみながら、ストローを齧って続けたよ。
「別に、驚かないさ。だって君、ずっと彼のこと見てただろ?俺達がどれだけ一緒に居ると思ってるんだい。そんな、君の事なんてなんだって全部お見通しさ」
「そっか‥‥」
「そうだよ。むしろ俺の大切なきょうだいが、いつ俺に教えてくれるのかなって待ってたくらいなんだぞ?」
その言葉に、頭を伏せていた彼女が伏せたまま、ころりと頭を転がせて視線だけを隣に座る俺へと向けてきた。俺は相変わらずストローを齧りながら、やっぱり視線だけを彼女へと向ける。
「なに照れてるんだい」
「‥‥て、照れてなんてないもん」
「嘘ばっかり。頬っぺた赤いんだぞ、君は本当に分かりやすいなぁ!」
そう言ってやれば、またころん、さっきとは逆に転がった頭に、恋する彼女の頬は隠される。綺麗なハニーゴールドの巻き毛、細い首筋、華奢な肩。全部、全部見慣れた彼女なのに。
その隠された頬だけが、もうこれまでの彼女じゃないと、告げる。
もう俺だけの彼女ではないのだと、突きつける。
「‥‥好きなの」
「そう」
驚かないよ。
驚かないさ。
ちっとも驚くことじゃない、そんな告白。
だって、君はずっと彼を見ていただろう?
ずっと、彼の姿を追っていただろう?
俺が君の隣り、君を見続けている間もずっと彼を、彼だけを見ていたじゃないか。そんな君を見ていた俺が、ずっとずっと君だけを見ていた俺が、どうして気がつかないでいられたと思うんだい。どうして驚くと思うんだい。
だから、俺は驚かない。
けれど、俺は聞きたくはなかった。
けれど、彼女に言われてしまった。言われてしまった。
俺が彼女に言うはずだった言葉を、言われてしまった。
「好きなの、アーサーさんが」
兄であった彼に恋をする、柔らかな声で彼女が言う。
(好きだよ、マシューが)
きょうだいであった彼女に恋をした、俺の言葉は彼女には届かない。
彼女の告げた恋は、俺の告げられなかった恋に。
静かに、終わりを、告げたんだ。
title/『彼女の恋の始まる日、俺の恋の終わった日』
メリカ失恋話。何回書いても、好きだ(メリカ災難/笑)