「つまり俺がヒーローだ!」
「黙れ筋肉メタボ」

円形の卓が設けられた議場というのは巧くしたもので、声がとても均一に響くようになっている。
遠い相手ほど正面から音声が発せられるから、距離はあっても聞き取りやすい。逆に、席が近ければ横顔しかみれなかったりもするけれど、距離がないぶん仮に音量が足りなくとも聞き取れる。実に巧く出来ている。
‥‥もっとも、どこに居てもたとえ音量が足らなさ過ぎだったとしても、その子どもの声をフランスが聞き逃すわけもないのだが。

「アメリカは、いいなぁ」
「んん?何がー?」

隣席からほろりと零された声は、淡く小さく柔らかだ。
声質自体は今まさにフランスの真正面の席、つまり最も遠い位置にて若者らしい軽やかな語調の米国英語で持論を展開している青年と瓜二つなはずなのに、何から何まで決定的に違う。
彼の声は淡く小さく柔らかで、そしておっとりと、甘い。

「カーナダ。どうしたー?」

眠くなっちゃった?それともお腹でも空いたのかな?なんて。
滴るほどの色気と甘さをぶち込んで、隣席を良いことに肩を抱いて耳元で囁いたフランスであったが、カナダはといえばまるで頓着した様子もなく、違いますよ。と、おっとり返されただけであった。
まぁ、わりといつものことなのだが。世界に(多分)名立たる愛と美の国の色気も、ことカナダに当たれば総スルー状態である。

‥‥いやいや、いや。お兄さんがっくりなんかしないよ?それだけこの子が俺の傍に居て俺のお色気たっぷり声を聴き慣れてるってことだからね!多分ね!

カナダの肩を抱いたまま、誰にともなく内心でのいいわけをフランスはする。いっそその必死さがアレでソレなのだが、そこは断じて認めない姿勢だ。

「アメリカは、声が大きいでしょう?いつもハキハキとしているし、まぁちょっと早口すぎて言ってることは荒唐無稽で時々口の中にドーナツとか自由の女神とかイギリスさんのスコーンとか突っ込んでふさいでやりたくなることもありますけど、聞き取りやすいし。だから、いいなぁって」
「いや最後のは止めてあげようねふさぐと同時に息の根が止まるから」
「え、アメリカなら大丈夫なんじゃないかなぁ」

おっとりと、とても小さな声での主張は実際のところ結構ひどいことを言っているのだが、ほわほわとした口調がいろいろな部分をカバーしている気がする、とフランスは思ったものだ。可愛いからいいんだけど。可愛いは正義なのだ。

「えっと?つまり、なぁに、カナダも声が大きくなりたいの?」
「うーん‥‥」

ぽそぽそと話すカナダにあわせて、フランスもごく小さな声で返す。
返しながら、未だ円卓の向こう側から響いてくる軽やかなアメリカンイングリッシュを、聞く。
まぁ確かに、聞き取りやすくはある声だ。
そのアメリカをくさすイギリスの声も、やはり聞き取りやすい。同じ英語と呼ばれているが、彼の場合は文字どおりの格式ばった英国英語だ。
話している内容はといえば取るに足らない、フランス風に言えばまったくセンスも愛もないことばかりなのだが、なるほどカナダの言うとおり、やたらと声の通りがよく、議場内に響き渡っている。
彼らであれば、確かに円卓だろうがひな壇の上だろうが下だろうが、関係無しに主義主張が可能だろう。
そんな彼らに視線を向けて、いいなぁ、なんて言うくらいだ。
カナダも、なにかハキハキと主張したいことがあるのかもしれない。

‥‥ううん、でもなぁ。

「お兄さんとしては、カナダは今のままでもいいと思いますが?」

ひそひそと、小さな声。
肩を抱き寄せていた手をするりと滑らせ、細い腰をとる。今日カナダが着ているのは、いつだかフランスが贈ったスーツだ。上背はあるくせほっそりとした身体に良く似合っている。‥‥実に、フランス好みに。

「何故ですか?」
「それはね、」

アメリカのように早口で軽快な大音量でもない。
イギリスのように凛々と響く格式ばった口調でもない。
ひたすらに、小さく淡く柔らかで、おっとりと、フランスの耳には甘く響く、カナダの声。

「お兄さんは、カナの声を絶対に聞き逃さないから。それから、お前の可愛い声を、俺以外に聞かせたくないから。‥‥それから、」

音量なんて必要ない。どこにいたって、フランスは彼の声を捉える自信がある。
だって。

「お兄さんが、カナのことを、」

可愛く愛しく、きっとベッドの上に招き入れればさぞかし甘く艶のある声を零してくれることだろう。‥‥零して欲しいな。ていうか、今既に殆ど腕の中にいるわけですし、ちょっと、ちょっとだけちゅーするくら、い、




「‥‥愛しいぃでででででででぁあああ?!!!」




「HAHAHAフランス?俺の大切な兄弟になにをしているのかな?」
「ブドウの絞り滓の分際で俺の弟に手ェ出してんじゃねぇよ毟るぞむしろ握りつぶすぞあらゆる部位を」
「ごごごごごごめんなさいごめんなさいていうか怖ッ!こういうときだけ低い小さな声とかやめてお兄さん泣くから!ていうか握りつぶすの止めてちょう止めてえええええ!!」

円卓の議場とはよく出来たもので、声の通りが非常に良い。
良いのだが、それはアメリカのようなもともと声が大きい者には不要であるし、三枚舌とも言われるビジネス上手の凛々とした口調のイギリスにも必要ないものであるし。
ついでに、後頭部をギリギリギリギリ鷲掴みされて挙句いろいろな部位を握りつぶされかけたフランスの悲鳴にも、まったくもって必要のないものであった。

けれど、まぁ。




「フランスさん、僕も        」




おっとりとした可愛い弟を愛する身内からの一方的な攻撃をうけるフランスの耳に届いた、決して聞き逃すことのない愛しい愛しい相手の言葉は。
小さく淡く柔らかく、甘やかに、そして想像通りの滴る愛情でもってフランスの恋心をふるわせたものだから。




「俺も愛してるよカナダ!!!」




円卓の議場に響き渡るありったけの声でもって、高らかに思いを告げたのだ。
(当然のように米英両国からフルボッコにされながら。)









title/『告白劇』

このカナダさんは前々から兄ちゃんの気持ちは知ってたところ
そろそろ諦めて言ってあげようかなぁというわりと酷いカナダさんです