「ん、ん、‥‥んー?」
女の子っていうのは解らない。意味が解らない。本当に解らない。
「‥‥ん、やだぁ、もぉなんでこうなるのー‥‥」
きっと別の生き物なんだって思うよ、ってこの前日本に言ったら「おやおや、とうとう貴方もその真理に辿り着きましたか」っていわれた。日本にあんな顔で誉められた(?)のは初めてだった。日本も大概わかんないけどさ。
「むー‥‥」
ちらり、時計を見る。
ちらちら、可愛い恋人を、見る。
ああ、けれど彼女の視線は鏡が総取りだとかどういうことだい!意味が解らない!
「‥‥なぁ、カナダ?ハニー?」
「んん、待ってったらアメリカ、もうちょっとー‥‥」
「君のもうちょっととやらは74分01秒のことを言うんだね」
カナダっていう国は本当に牧歌的で素敵な国だね!
そんなアメリカ合衆国渾身の皮肉は、「そう、ありがと。だからもうちょっと」なんて一言であっさりスルーされた。なんていうスルーパスだ!君のその技術ならワールドカップでも上位を狙えるぞ!?パスがとおったらの話だけれど!
「ああもう、カーナーダってば!」
「きゃぅ?!」
業を煮やして抱き締めた身体は、普段にも増していい匂いだ。この前の彼女の誕生日、俺がプレゼントしたベリー系のコロン。甘い、メイプルシロップみたいな匂いの彼女に良く似合うって思ってあげたんだ。うん、本当に良く似合ってる。さすが俺だ。
服だって、やっぱりこの前、俺の誕生日に一緒に出かけたとき、『次のデートで着る服選んで?そ、その‥‥アメリカが、好きな服、着たいから。た、誕生日プレゼントっていうか‥‥』なーんて可愛いこと言ってくれた彼女のために、っていうかそれ着てる可愛い彼女とデート出来る幸せな俺のために!選んだ、可愛いと同時にうんおっぱい素敵だよって言うか?まぁともかく、俺が選んだ、俺好みの服を、彼女は着てるんだ。
‥‥けれど!
「もう、カナダ!さっきからもうちょっともうちょっとばっかりでちっとももうちょっとじゃないんだぞ!‥‥ていうかさっきから君なにしてるんだい」
いや、本当に。
鏡の前で彼女は自分の巻き毛を触っては、ブラシで梳かしてみたり、なにか、ほら、ドライヤー?ヘアアイロン?とか、なんかそういうので、いろいろしてみたり?(詳しい説明なんて出来ないぞ!)ともかくいろいろするんだけれど、その度に鏡の中の自分を見据えてはなんか可愛い声で唸ってみたり、ふるふるって首を振るってみたり。リボンとか、ヘアピンを持ち出していろいろしたり(やっぱり説明できない)もしたけれど、結局今はいつもどおりの、巻き毛を後ろに垂らしてる状態で。
だから、だから。
「ねぇ、君、それ鏡の前に君が陣取るときと、まったく変わってないんだけれど。」
って、正直に、言ったら。
「‥‥ッ?!え、ちょッ、なんで泣くのさ?!カナダ?!」
「‥‥っ」
後ろから抱き締めた彼女が鏡の中で涙目になってるのに、ああ、そりゃ盛大に慌てたさ!意味もなく、ベッドの中以外で女の子を泣かせるだなんてヒーロー失格どころか恋人失格にもほどがある!
慌てて俺は彼女を鏡台前から抱き上げるようにして引き離し、後ろから抱き締めてたのを体勢を入れ替えて正面から抱き締める。
華奢っていうにはちょっぴりふんわりたふたふし過ぎな(特に俺にとって嬉しすぎる一部分がだね!)恋人をぎゅっと抱き締めて、宥めるように背中や肩を撫でて、額や頬に慰めのキス。俺が選んだ甘いベリー系のコロン、俺が選んだ可愛い服に身を包んだ彼女の、ふわふわとしてる巻き毛が頬に当たってくすぐったい。
「カナダ、カナダどうしたのさ?俺なにか悪いこと言った?」
「アメリカぁ‥‥」
涙声の彼女にきゅっと抱きつかれる。‥‥ああ、これって別に俺に怒ったわけじゃないってことだよな?あああもう女の子って本当わかんないよ!
けれど、わかんないからって放り出すわけにもいかないし、そんなつもりもないものだから、俺は泣きそうな彼女を抱き締めて、甘く囁いたさ。どうして泣きそうなの?ってね。
そうしたら。
「‥‥だってぇ、髪が、ちゃんとまとまらないんだもん」
‥‥‥‥‥。
74分01秒の理由って、それだけなのかい?
女の子って本当(以下略)、って思いかけた、けれど。
「せ、せっかくアメリカとデートなのに、一番綺麗じゃないとか、やだぁ‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
74分01秒の理由って、俺のためなのかい?
ああ、もう女の子って本当に。君ってひとは、本当に。
「‥‥君は、どんな髪型でもいつもどおりにキュートだと思うんだけど」
「それじゃだめなの!もう、このへんがちゃんと、もうちょっと巻けたらもっといいんだもん!」
「そうかい‥‥」
「だ、だから、もうちょっと待って?あとちょっと!」
「うん‥‥」
頷いて返した俺に、ちゅ、って可愛いキスを返されたら、もう俺は動けない。
そうして彼女の視線は鏡台へと逆戻り。
「ん、んー‥‥あ、やだここ巻きが逆になってる‥‥」
そういって可愛い眉を顰める彼女の、可愛い巻き毛はいつもどおりに綺麗なんだけれど。
真剣に鏡に向き合う恋人。
ちらり、時計を見る。
ちらちら、俺のために一生懸命で、本当に可愛い恋人を見る。
「ねぇ、ハニー?」
「んん、もうちょっとー」
‥‥もうちょっとって、カナディアンタイムであとプラス74分01秒ってことかい?
ああ、女の子って、カナダって本当に解らない!
‥‥なんでこんなに可愛いのかも、本当に解んないよ!!
title/『GIRLS TIME』
可愛い彼女ちゃんと、可愛い彼氏くん。