今なら鎖国できる、と不意に思った。
頬を懐かせたクラシカルなちゃぶ台、上に乗せた最新モデルのノートPCの駆動音に微かに振動している。これは仕事用のパソコン。
視線を畳の上へと向ければそこにはもう一台のPC、可愛い嫁達の住家。直ぐに立ち上げることが出来るから24時間面会可能。
そのPCの向こうには、先日ご近所の戸田さんに貰ったカゴに入ったリンゴの山。林檎の下でつぶれているアルミパウチタイプのジェリービタミン飲料もリンゴ味。栄養剤もはいっている。そういえば昔、『24時間たたかえますか』なんてフレーズのドリンク剤があったっけ。ある意味戦っているけれど。主にモンハンとかで。ヴィラスーラ平原とかで。
背後には電気ポットと急須、玄米茶と緑茶が入った缶が1つずつ。最近寒くなってきたからと出したばかりの綿入れ。炬燵ふとんは、確か隣の部屋だ。今すぐ引っ張ってきてちゃぶ台(こたつ付)にかければ、あっというまに炬燵の出来上がり。あ、ポチくんは‥‥ああ、気持ち良さそうに寝ている。
ほら、ほとんどのものは揃っている。
今なら、鎖国できる。
できるの、だ、けれど。
ちゃぶ台でPCのキーボードを叩いて仕事をしたり嫁とこっそり会ったりヴィラスーラ平原を駆け回っている間、向かいに座って刺繍をしていたり本を読んでいたり「ほぁた☆」と呟いていたりする姿が、見れなくなる。
気まぐれにウサギさんリンゴにした其れを妙に感動しながら食べる姿も、見れなくなる。
リンゴ味のジェリードリンクや栄養剤に「もっときちんとメシ食えよ」と、実にアレでソレな感じの菓子(推定)を手渡されながら諭されて酷く微妙な気分に駆られることも、なくなってしまう。
紅茶用の茶器はないからと急須で入れてくれた紅茶はとても美味しかったけれど、もう飲めない。
初めて入った炬燵で、こつんと脚が当たって妙に恥ずかしがられてこっちまで恥ずかしくなったのは、いつのことだったろうか。
殆どのものは揃ってる。鎖国は出来る。
けれど鎖国したら、もう彼には会えない。
「‥‥なら、できない。」
ため息のように言葉が零れた。
鎖国はできる。出来るけど、出来ない。できるのは、
「‥‥できるのは航空券の予約、ですね」
滑らかにキーボードを叩いてネットワーク、チケット予約サイトでヒースロー直通の航空券。ネットは便利だ。
けれど、ネットじゃ彼には会えないから。
殆どのものは揃っても、彼がいないと、全てじゃないから。
「やっぱり、鎖国はできません」
「‥‥き、菊っ!その、今日は仕事があったから立ち寄っただけであって、べべべべつにお前に会いたくてたまんなかったからとかっ、そういうんじゃないんだから、なっ?!」
「あ、やっぱり今なら鎖国できますね。」
title/『すべてはわたしのてのなか』
だって、全部揃っちゃったから。