静寂ではないが喧騒というほどでもない、軽やかな街のざわめきが恋人達を包み込む。
空は妖精の粉を振り撒いたような薄曇り。柔らかな日差しに温みを与えられた石畳が行き交う人々にその熱を柔らかくわけているような、いい日和だ。
地にあっては人々は軽やかに弾む足取りで、或いはゆっくりと語らいながら、街を楽しんでいた。車両通行制限の為された通りはその両脇を洒落た店舗や緑豊かな樹木に埋められて、けれど一続きの景観としてどこか懐かしさを醸す色調にまとめられており、古きを良とする英国らしい大人びた雰囲気で人々をもてなしている。
もっとも、行き交う人達の半数ほどの意識と視線は、美しい通りの風景よりもその傍らに立つパートナーに向けられているのだけれど。
軽やかな街のさんざめきは、甘やかな声が違和感なく混ぜ込まれていっそう軽やかに。
それは他愛のない遣り取りであったり、もっと直裁的な、愛を囁く言葉であったり。甘い、甘い声色。
「不安、だったの」
「そうだな、俺も不安だった。でも、好きだ」
「‥‥大好きなの。ずっと、一緒に居たいの」
「‥‥ん。」
通りを行く数多くの幸せそうな姿が醸す、甘い言葉がまるで空気ごと世界を染め替えているような、そんな気配の中にいて。
二人もまた、互いを見つめ合う。見つめ合って、微笑みを交す。
「ああ、なんかもう難しいな、こういうの」
「えへへ、でも、‥‥なんだか、嬉しい」
「そっかぁ?ってか、あれだなこのプランはちょっと俺には若者向け過ぎた‥‥」
「ふはっ、も、アーサーさんだって若いのに。見た目だけは」
「見た目だけはとか言うなよ、これでもなぁ、一押しデートプランとか参考にして、」
「‥‥デートプラン、だったの?考えてくれたの?」
「あー‥‥。うん、その、なんだ。インターネットって偉大だよな」
「もう、そういうのが若者の言葉じゃないんですってばぁ」
笑いあう。言葉を交して、するりと、手を、繋いだ。
柔らかな手だと、アーサーは思った。
温かい手だなと、マシューは思った。
離さないでいようと、二人で思った。
「‥‥えへへぇ。アーサーさん」
「なんだよ。‥‥どうする?ええと、確かこの先に美味いスコーンが食えるカフェが、」
「おうちデートでもいいですよ?私、アーサーさんの紅茶好き」
「んだよ、紅茶だけか?」
「アーサーさんは、大好き」
軽やかな街のさんざめきの中を、手を繋いで歩いていく。
通りを行き交うのは、幸せそうな恋人達。
自分達もまたその、幸せな恋人達の一組なのだと。
繋いだ手のぬくもりと一緒に、笑いあった。